第二十七話……天才女棋士は剣士を従える
正門に着き、横の潜戸から私が外に出ると、そこにはただ一本の剣のみを腰にぶら下げ、鎧を一切身に付けない剣士が立っていた。
「バルさん!」
「セン殿!」
「また身体引き締まったんじゃない? ただ痩せたわけじゃないよね?」
「適度な食事と毎日素振りをしているだけですけどね」
「そんな屈強のバルさんに力を貸してほしいんだけど、いいかな?」
「はい、是非とも。この時のために、『あの時』から生きてきたようなものですから」
「ありがとう! 宮廷でみんなを紹介するから、馬車に乗って!」
「はっ!」
「門を開けてやってくれ!」
皇子が私の通ってきた潜戸から顔を出して、門兵に命令した。
そして、私とバルさんが正門から中に入ると、そこで待っていた皇子が、バルさんに右手を差し出した。
「俺からもよろしく頼む!」
「なるほど、あなたが……。まずはセン殿のお話しを聞いてからとは思っていましたが……皇族らしくないですね。良い意味で」
バルさんは自然とその手を取り、皇子と握手した。
「ふむ……。どうやら、剣の腕も素晴らしいようだ」
「分かるのか? 一応、兄上達よりも真面目に訓練してきたつもりだが」
バルさんは、すぐに皇子の性格を見抜き、その佇まいから、剣技もしっかり身に付けていると読んだようだ。
「彼は権威に対して不信感を持っています。その経緯も紹介の時に聞かせてもらいましょう」
そして、私達は第十側室に戻った。
「この立ち入り禁止は……?」
「うん。今朝使って、冤罪を晴らしたヤツ。バルさんがいてくれたら、もう必要ないよ」
「……。私の想像以上のことが、すでに起きているようですね……」
「さぁ、入って入って。バルさん連れて来たよー!」
「あっ!」
私達が入るなり、クーさんが驚きの声を上げた。
「俺達、会ったことあるよね!」
「まさか、このような所であなたを見かけるとは……」
クーさんがバルさんと会ったことがあるのは、予想通りだ。
バルさんは食事にも気を遣っているので、クーさんのヘルプの噂を近くで聞いた時に、その店に行ったのだろう。
「めちゃくちゃ目立ってたからさ。ちゃんと感想も言ってくれたし、覚えてたよ! 俺は、クー! よろしく!」
「バルトンです。よろしくお願いします。あの時は、本当に感動しました。涙が出そうなほど美味いカットステーキなど初めてでしたから……。鼻をすすりながら食べていました」
「バルさんは二十四歳で、とある国の騎士団長だった人だよ。私はその国がどこかは聞いてないけど」
それから、全員の名前と身分、ここにはいないアーリオのこともバルさんに紹介して、その騎士団長がなぜここにいるのかを説明してもらうことになった。
「私は『ノウワール国』の出身で、城にも成人後すぐに騎士として入団し、剣の実力を買われ、騎士団長に若くして任命されました。国としては、そこで著しく戦力が増大し、どの国と戦争しても負けないと言われたほどの騎士団になったと評判でした。
しかし、それからしばらくして、『ある事件』が起きます。まず私が兼務で、国王の専属近衛騎士となりました。それ自体は別に良いのですが、そのあと、王の勅命で王女のパーティーの護衛に私が付くことになり、遠征しました。が、その間に王が暗殺されてしまいました」
『っ……!』
バルさんの話を聞いて、みんな驚いていた。
そして、その結末をある程度予想もできているようだ。
「当然、第一王子が国王に即位したのですが、『父上が死んだのはお前のせいだ!』となぜか私のせいにされ、処刑を宣告されました。こんなバカなことで死にたくはないと思い、城から命からがら逃げ、行く当てもなく彷徨い、やり場のない怒りを多くの盗賊達にぶつけ、帝国を縦断。その時、ボード屋の前を通りかかったのです。
今考えても、なぜあそこで立ち止まったのか不思議でなりませんが、そこで改めて中を覗いてみたり、看板を見てみたりしました。すると、居心地の良さそうな雰囲気の中に、勝負師のオーラのようなものを一瞬感じました。それを放っていたのがセン殿でした。
もちろん、本当になんとなくでしかないのですが、あの可憐な姿のどこにそのようなオーラを感じたのか、妙に気になってしまったのです。それに、あそこは飲み物や軽食もあって安いので、良い機会に少し休んでいこうとも思い、まるで招かれるように店に入っていきました」
「やはり、運命か」
皇子の言葉に、バルさんは頷いた。
「はい。皆さんご存知の通り、セン殿の類稀なる洞察力で私は丸裸にされ、将棋の対局後、こう言われました。『怒りの原因を冷静に見つめない限り、それはずっと続いちゃうよ。理不尽の中にも論理が隠されていることがある。誰かの命令だとすれば、その更に上位の存在がいたり、尤もな背景があったりする。でもあなたなら、家族を逃がした上で、やり場のない怒りは、しっかりとした所にぶつけてるよね? それはそれで良いと思うよ。あとは牙を研いで待つか、さっぱり忘れて別の幸せを見つけるか』と。そこで私は、『君が俺ならどうする?』と聞きました」
「……」
「すると、『心から信頼できる人に再び仕える幸せを得ながら、牙を研いで待つ。または、その逆。牙を研ぎながら、その人に仕える時を待つ。もし、その人が自分の牙を使ってくれて、さらに敵を討ってくれたら嬉しいけどね』という、しっかりとした答えが返ってきて、私は驚きました。普通、このような場合は、『それはあなたが決めることだよ』とか『復讐なんて無駄だよ。そんなことは忘れて幸せを見つけようよ』と言われるのだとばかり思っていたからです。
別にそれらの回答が悪いわけではありません。しかし、当時の私には鋭く刺さった言葉でした。私のことを完全に理解していないと出てこない言葉だったからです」
「流石だな」
「そこで私は、『じゃあ君に……セン殿にお仕えする時を待ってもよろしいでしょうか』と言ったところ、『別にいいけど、私が呼んだ時には絶対に来てよ?』と言われたのですが、特に呼ばれなくても、牙を研ぐための盗賊退治の傍らで、定期的にボード屋に足を運び、セン殿と対局をしていました。そして、例の書き置きを店主から渡され、今この時を迎えたというわけです」
「なるほどな。各地の盗賊が何者かによって壊滅させられ、激減したという話は帝国にも報告されていたが、バルトンのおかげだったのか。防具を一切身に着けていないのも、スピード重視で攻撃を受けることもないほどの実力者になったから。今なら、一人でも国を壊滅させられるんじゃないか?」
「はい。冗談ではなく、その自信はあります。まぁ、ノウワール国を逃げた時点で自信はありましたが。かつての部下達を傷付けたくなかっただけです。それに、部下達と対峙しても、明らかに向こうが手を抜いてくれていましたから、そこは本当にありがたかったです。その時は、流石に涙が出ましたね。しかし、そのことで誰も処分されていないと良いのですが」
「持つべきものは仲間か。それしても頼もしいな。もちろん、俺に仕えるわけではなく、センに仕えるということでいい。俺からは、あくまでお願いにしよう。最初から全員お願いだが」
「でも、バルさん。帝国では、フィーくんに仕えてるってことにしてね。私は目立ちたくないから。これは性格とかの問題じゃなく、戦略的な話ね」
「承知しま……フィーくん……? 流石、セン殿。皇子とはすでにとんでもない信頼関係を構築済みでしたか」
「この空間だけは、そういう雰囲気にしたいんだ。なんと言うか、普段通りでという感じで。その経緯もあとで話そう。バルトンもよかったらそうしてくれ」
「じゃあ、バルさんの話でフィーくんに確認しておきたいことがあるんだけど、ノウワール国の担当って誰なの? 第一皇女?」
私は皇子に向かって質問した。
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