第二十二話……天才女棋士は兵士殺人事件を解明する
「私はセンシャル・ストラクツと申します。フィールズ殿下に招かれ、ここに居合わせました。僭越ながら、殿下の代理で私から全てを説明しますが、その前にまず、この中にこの兵士を殺した人はいますか?」
私の質問に、その場の全員が眉間に皺を寄せると同時に、ある男が一歩前に出た。
「貴様、何バカなことを言っているんだ! ここに死体があるということは、お前達の誰かがやったんだろう!」
「あれは第一皇子だ」
皇子の耳打ちの補足に、私はそのまま話を続けた。
「では、もし殺した人がいれば、嘘をついているということでいいですね? 次に、この中にこの死体をここに運んだ人はいますか?」
「お前達だろ!」
バカ皇子が何か言っているようだが、無視した。
「では、もし運んだ人がいれば、嘘をついているということでいいですね? その前提で、この事件の真相をお話しします」
「なんだと⁉️」
わざとやっているのかと思うほどのバカ皇子のリアクションが、地味に心地良い。
「まず、ここに来て気になった人がいると思うのですが、この入口付近は安全のために、昨日の午後七時に立ち入り禁止にしました。被害者の死亡推定時刻は午後九時から十一時です。また、侍女の仕事は、交代制で午後十時頃まで、兵士の巡回は午後十二時頃までなので、仮にこの兵士がこの場で殺されていたとしたら、侍女や他の兵士がその時間にこの死体を見つけていないとおかしい。しかも、呻き声も倒れる音も全く響かないなどあり得ない。
そして、なぜ私達に殺害が不可能なのか。私達は、ここを立ち入り禁止にしてから死体が発見されるまで一切外に出ていないからです。その証拠にこの上を通ったら必ず足跡がつきますが、先程そちらの兵士二人に、足跡がついていないことを確認してもらいました。そうですよね?」
私は兵士の方を向いて、確認した。
「はい! 確認しました!」
「同じく、確認しました!」
「これでも私達が殺したという頭の回転が鈍い愚か者がいれば、手を挙げてください」
『……』
もちろん、この状況で手を挙げる愚か者もいない。
「皆さん、賢くて助かります。では次に、先ほど医師による簡易的な検死により、この兵士は後ろから心臓を一突きで殺されていたことが分かりました。そのまま前に倒れ、身体の前面の方が出血量が比較的多く、広がってもいたからです。
さらに、この場で殺されていたら、土の上にはもっと血が染み渡っているはずなので、そのことからも別の場所で殺されてここに運ばれて来たことに間違いありません。殺人犯との会話が終わって帰ろうとしたところを殺されたのでしょう。
そして、この傷の幅は通常より広く、皇族のみが帯剣を許されている特別な剣の幅に相当することが分かりました。当然、剣を盗まれるマヌケな皇族など存在しないので、皇族の誰かがこの兵士を殺したことになります」
私の説明に周囲がざわついた。
「皇族がせっせと死体を運ぶわけはないので、誰かに命令して運ばせた。では、誰が運んだのか。
あなた達ですよ! 最初の発見者! そこの嘘つき侍女二人!」
『っ……!』
私が鋭く指した侍女達の驚きの表情と同時に、その場の全員が彼女達の方を見た。
「なぜだか分かりますか? 自分の足を見てください。ここの土が靴底の横にくっついているでしょ? そして、ここにある足跡。侍女の足跡そのものじゃないですか。死体を中心に左右に足跡があるので、二人だということも分かります。夜に運び込んだから、この土の境界なんて分からないですもんね。立ち入り禁止のロープを少し手前に下げているので、できるだけ入口に死体を近づけようとすると、踏んでしまうんですよ。もちろん、その作業を見られてはいけないから、灯りを持ち込むわけにもいかず。さらに、この第十側室の周りは、灯りが存在せず、特に暗くなっていますからね。
おそらく、殺人犯の皇族から、建物の中に運び込んでおけと命令されたものの、立ち入り禁止になっていて、ロープに鈴も付いているので、どうしようもできず、可能な限り命令に従おうとして、入口に死体を近づけるよう置いたのでしょう」
「あ……あ……」
「ち、違……」
「流石、自分さえ助かれば、人をハメて殺してもいいと考える嘘つきクズ女達ですね。まだ認めないのなら、もう一つ証拠を挙げましょうか? 二人とも、袖口に血液が付着していますよ?」
「っ……!」
侍女二人は慌てて、それぞれの袖口を見た。
「すみません、嘘です。私も嘘つきでした。ただ、二人がどうやって、死体を運んだか分かりました。死体の左右の腕を自分の肩に回して、あなたが左側、あなたが右側となって運びましたね?」
私は自分から見て、左の侍女、右の侍女、それぞれを順番に指差した。
しかし、私の質問に彼女達は何も答えず、ただ体をプルプルと震わせていた。
「なぜなら、あなた達が袖口を確認した時、片方しか確認しなかったからです。もう片方は付いていない自信があったのです。
そして朝になり、何食わぬ顔でここに来て、悲鳴を上げたというわけです。自分達が第一発見者になったのは、自分達なりの罪滅ぼしでしょうか。それとも、単にそういうシフトだったからでしょうか。
最後に質問します。二人とも目の隈がすごいですけど、昨日はよく眠れましたか?」
『……う……うぅ……うぅぅぅぅ……!』
二人の顔は紅潮し、目から涙が溢れていた。
「……。さて、この二人の侍女が誰のお付きなのか、お分かりになる方いらっしゃいますか? その皇族が殺人犯です」
「あ、兄上だ! 兄上の侍女だ!」
「今のは第二皇子だ」
皇子の補足のおかげで、第二皇子が第一皇子を指差していたことが分かった。
「やはり、私の部下を行方不明を装って殺したのも兄上だったのだ!」
「し、知らん! そんな侍女など知るか! 私に汚名を着せようとするなど言語道断! この女達は、この場で切り捨ててくれるわ!」
「そうよ! その女も殺してやりなさい!」
第一皇子が剣を抜いて侍女に向かって行くと、皇后が彼を煽って私のことまで殺そうとしていた。
アイツ……。
まぁ、ここは気持ちを抑えて冷静に行こう。
「まぁまぁ、お待ちください、殿下。私に良い案があります。恐れながら、殿下に隙があったのは事実ですから、この二人や私を殺したところで、その汚名が濯がれることはありません。でしたら、ここは成果を以て、汚名返上した方が、我が帝国にとって効率的ではないでしょうか。
例えば、帝国内で紛争や内乱が起きている地域はありませんか? それを殿下の知略で収めようではありませんか。そこが別の皇子皇女の担当地域であるなら協力して。それが最も分かりやすいと思います。ただし、大軍を率いて圧力をかけるのは誰でもできることですから、丁度良い兵数の調整や交渉をして。兵に無駄死にもさせないように」
「……」
第一皇子は立ち止まって考え事をしつつ、とある女に視線をやった。
「第三皇女だ」
「ま、待ちなさい! お兄様も! それでは私の立場がありません! あの地域は、ゆっくり時間をかけることが肝要だと判断したのです!」
「第一皇子殿下においては、あくまで汚名返上なので、それが皇位継承戦において、著しい評価となることはありません。むしろ、失敗すれば脱落の危機となり得ます。
一方、第三皇女殿下においては、問題解決も容易になり、その後は問題が解決した状態なので、政策方面で成果を上げやすくなります。それも嫌であれば、第一皇子殿下の担当地域で好きな場所を割り振ってもらえば、貸し借りなしになるのではないでしょうか。協力して問題解決に当たることが最も効率的だとは思いますが。
それらそれぞれの場合の、少なくとも皇位継承戦に関する立場の問題は、陛下に不問にしてもらいましょう。私の責任で私が上申します。当然、陛下であれば寛大なご判断をなさることでしょう。いかがですか?」
第一皇子と第三皇女は顔を見合わせて頷いた。
「分かった」
「釈迦に説法だとは存じますが、もし兵を率いる場合は、敵の暗殺部隊に十分お気を付けください。なぜなら、少数が多数に勝利する手段は話し合いを除いてそれしかないからです」
「そんなこと分かっているわ!」
二人の了承を得て、私は第二皇子の方を向いた。
「第二皇子殿下もよろしいでしょうか。側近の件は、私も耳にしております。『やった者勝ち』になってしまう状況は、誰の目から見ても好ましいものではありませんが、この場合、栄光を目指すことが皇帝即位のための近道かと存じます」
「……。いいだろう。憎しみ合っていても仕方がないことは分かっている。私も皇帝を目指す身。その道を行くとしよう」
「では早速ですが、陛下のお部屋に参りましょう。この場の片付けは、適当な立場の方が命令してください」
「私だ。兄上、あとはそちらにお任せします」
「ああ」
そこで一件落着。
『第十側室前兵士殺人事件』は、第五皇子に罪を着せられることなく、無事に真相が解明され、幕を閉じた。
死体運搬役の侍女達がどうなるのかは分からないが、誰かがでしゃばりさえしなければ、悪いようにはならないだろう。
そして、私達は皇帝の部屋に向かった。
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