第十九話……天才女棋士は法律を確認する
法律書庫に入り、皇子が皇室典範の冊子を持って来ると、早速全員で目を通していった。
私がこれまで知らなかった皇位継承戦の詳細についても確かに書いてある。
「あ、ここにありますね。名誉皇族の記述が」
「えーと……『我が帝国内で著しい功績を上げた者には、皇后を除き、名誉皇族の地位を与えることとする。ただし、当該者が男子の場合は、現皇族の女子と結婚し、第一子を無事にもうけること、女子の場合は、現皇族の男子と結婚し、第一子を無事に出産することを前提とする』」
「なるほど。早く子どもを産みたいなら、殿下に対しては押しが一層強くなるだろうな」
「でも、著しい功績ってどのぐらいなんだろうなぁ」
「この書き方なら、間違いなく反故にされるね。『政策通』の功績なんて、たかが知れてるし。帝国の地位を確固たるものにしたとか、領土を大きく広げたとかじゃないと」
「姉上達の被害者が多いな……」
「そもそも、そんなに皇族の地位が大事なのかね。身の安全は別として、王族も皇族も大して変わらないだろうに」
「ブランドじゃない? そういうの好きな人が名誉皇族を目指すんだろうね」
「あはは! 二人の嫌いなタイプだね」
「セン、土曜日はどう対応すればいい?」
「先生の言う通り、相手は結婚を決める覚悟で来るはずです。皇位継承戦が始まっている今が絶好のタイミングですからね。当日は時間稼ぎをしてください。『夕方には良いプレゼントができそうだ』とおっしゃればいいかと。おそらく、私と対局する流れになるので、そこでも時間稼ぎできます」
「そんな流れになるのか……」
「一方で、当日早朝、婚約者の出発と入れ替わりに到着するように、殿下名義で陛下の承認付きの怒りの親書をサウエル国に送り付けます。そして、すぐに返事を直接持って来させ、その場で婚約を破棄する流れに持って行きます」
「越権行為を容認したことがそこまで大事になるとは思っていないだろうな……」
「これは怒りの鉄槌だな」
「センちゃん、エグっ!」
「では、これを最後まで読んでから、親書に関する扱いの法律があれば読んでおきたいです」
「分かった」
それから私達は、各自好きな法律を一時間だけ読み、皇帝の様子を確認するため、宮廷に戻った。その際、保養施設の予定地らしき所に、人が集まっていることも確認できた。
「あ、父上。そのままの体勢で結構です。すぐに出ますので」
「午後の健診は終わったようで。闇医師から何か言われましたか?」
「センの予想通り、『三食抜いて、指定の間食だけにしましょうと言う医者など信用できません!』と言っていた。『まぁ少しの間、わしが試したいだけだから』と返しておいた」
「本当はバランスが考えられた食事をガッツリ召し上がってるけどな。今のところ、バレてないってことか」
「早く俺の料理を召し上がってほしいぜ!」
「保養施設の場所も、あそこで問題ないとセンとも話しておりました」
「私の想像以上の大工が集まっていて、もう作業が始まっていましたよ。流石、陛下の勅命ですね。レンガ造りで拡張しやすそうなのも要望通りです」
「ウチの建築士と大工は優秀だぞ。そこには、わしを殺そうとする者がいないことを願うばかりだ。三日後には使えるようになるらしい」
「思っていたよりも早いな」
「念のため、仮完成後は強度を確認します。崩れて、圧死を事故死に偽装されても困りますからね。あと、陛下。この際、一つお願いがあります。私の父が大工なのですが、もしよろしければ、陛下直属の建築コンサルタントとして採用していただけないでしょうか。今後、必要な建築物がいくつかあるので、私達の活動範囲の現建築物を含めて、最初から最後まで面倒を見てもらいます。陛下のご慧眼から見て、コイツはダメだと思ったら遠慮なくクビにしてください」
「そうだったのか。よし、分かった。その方が安心できる」
「セン先生にとっても、その方が親を人質に取られる心配がありませんからね」
「両親は、子どもの一番の味方だからな! 家庭にもよるけど!」
「そう言えば、センは一人っ子っぽかったな。俺の母上のように、出産リスクが高いと判断されたか?」
「やはり、フィーリア様はそのような事情がありましたか。私の母は、特にそういったものはありません。グランセンの生まれに倣ったと言っていました。私の祖母も一人っ子なのです。『自分が不器用かもと思ったら、子どもは一人だけにしておきなさい。集中して愛情を注げるから』という教えです。幸い、経済的には困っていなかったので」
「我々皇族や王族は政治的な跡取りのために、国民は労働力のために多産するからな。流石、グランセン。様々な選択肢を用意しているな。
わしは、フィーリアを絶対に死なせたくなかった。二人で止めておこうと、わしから説得したぐらいだからな。他の者なら自分の命を最優先に考えるのに、彼女はそうではなかった。しかし、『もしお前が死ねば、俺が抜け殻になってしまうだろ! それを遺された子で埋めろと言うのか! 帝国のためを想うなら、生きて子をしっかり育てることだ!』と初めて叱った。彼女は感涙にむせび、わしに抱き付いてきて、わしは彼女の頭を優しく撫で、さらに愛し合うことができた……」
「……。父上の惚気話など初めて聞きました……。お二人の愛の深さをつくづく感じます」
「失礼ながら、やはり陛下も『異端』ですね。皇族や王族が、側女とそこまで愛し合うなど、私の想像にはありませんでした。だからこそ、私の祖母も安心してフィーリア様を紹介できたのでしょうね」
「わし自身も信じられなかった。普通、このような関係の場合は、義務感か一方通行か、あるいは愛が完全に冷めてしまうかだと思うが、今もお互いの愛が続いていることが本当に誇らしい……と、少なくともわしは思っておる。彼女もそう思ってくれていれば、嬉しい限りだ」
「ご安心を。父上の愛に負けない、変わらぬ愛を母上はお持ちですよ」
「私からも太鼓判を押しておきますね。さて、陛下。それに関連して、ではありませんが、殿下の婚約破棄の件、進めたいと考えております。サウエル国宛の親書を明後日にお持ちする予定なので、内容をご確認の上、ご署名をいただきたく存じます。しっかりとした破棄の理由があります。無論、このことはご内密に」
「分かった。代わりに、フィールズとセンの愛が育まれることを願っておるぞ。一人っ子でもかまわんからな」
「地味に押してきますね、父上……」
「親子ですねぇ……」
それから私達は、フィーリアさんとリアラ皇女が待つ後宮廷に戻った。
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