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ポーションを作ってみよう! 2

 俺たちはポーション製作に必要な癒しの葉をもとめてイーストンの森に来ていた。

 ふだん薬草採取やケモノ狩りに来ているので俺もリオもある程度の地理は把握している。


「イーストンの森にはモンスターが出る地域と出ない地域があるのはご存じですか?」

「ああ、それは頭に入ってるよ。薬草のとれる場所やモンスターから隠れる場所もちゃんと覚えてる」


 まだまだ非力な初級冒険者がモンスターと戦わずして食べていくには薬草採取も大切な仕事だ。

 このイーストンの森の大雑把な道すじを覚えることは避けようのない最初の試練だ。


「癒しの葉はモンスターの出る地域の、ごく限られた場所に生えています」

「モンスターのいる地域か……」

「大丈夫だよ、ライド! モンスターなんかボクがやっつけてあげるから!」


 俺が不安げに言ったせいだろう、リオが俺の手をとって力強く励ましてくれた。

 気遣ってくれるリオの頭をなでてあげながら、


「ありがとうな、リオ。頼りにしてるよ」

「えへへへ」

「モンスターが出る、といってもそこまで心配しなくても大丈夫ですよ。モンスターの出ない地域ぎりぎりを進んで、癒しの葉のある場所までいっきに走るのでモンスターに遭遇することはめったにありません」


 なるほど、癒しの葉の生えている場所にもっとも近い場所までは安全地帯を進むということか。

 モンスター地域をやみくもに進んでも戦闘ばかりで疲れてしまって目的地までたどり着くのは難しいだろう。

 これは癒しの葉にくわしいイルファがいてくれなければ成り立たない作戦なんだな。


 俺たちは森の深いところまでどんどん進んでいった。

 まわりの木々も太く、葉がたくさん生い茂った木が増え、差し込む陽射しも減っているせいで薄暗く感じる。

 これほど奥地まで来たのは初めてだ。


「そういえばリオたちブルーウルフもこのイーストンの森に暮らしていたのか?」

「うーん、ボクがいた群れは定期的に住みかを変えてたからなぁ。ボクが追い出されたときも新しい住みかに移る前だったし」

「そうすると今はもうブルーウルフたちはいなくなってるってことか……」


 俺が追放された元パーティのサイモンに遭遇したように、もしリオがなじみの群れと出会ったら、と考えたのだがその可能性はなさそうだ。

 納得した上で追放されたとしても、元仲間に会うのはあまり気分のいいものじゃないからなぁ。


「お二人とも、ここです」


 イルファの声に意識が引き戻された。

 見ればなんの変哲もない木々とやぶだ。

 本当にこんなところから癒しの葉の群生地に着けるのか。


「このやぶを越えてまっすぐ進んでいくと目的地に着きます」

「イルファはこんなところまで記憶しているのか。すごいな」

「一応、記憶もしていますが、木々の精霊たちがささやくように道を教えてくれるのです」


 さすがはエルフ族、木々の精霊の声が聞けるなんて便利なことこの上ない。

 精霊が助けてくれるということは、それだけエルフ族も精霊たちにお返しをしているのだろう。

 親しい関係にはお互いの思いやりが必要不可欠なのだから。


「ここからはモンスターの出る地域なので駆け抜けていきます」

「了解。それじゃあ行こうか!」

「うん!」

「はい!」




 やぶを越えて獣道をまっすぐ走っていくと、すぐに開けた場所にたどり着いた。


「わぁ……! この森にこんな場所があるなんて!」


 リオが感動するのも無理はない。

 俺たちの目の前には幻想的な光景が広がっていた。

 小さめの湖のまわりに背の低い草が思い思いに自生していて、その草花からはうっすらと白い、ほわほわした綿毛のようなものが辺り一面に浮かび上がっていた。


「イルファ、あの白い綿毛みたいなものは……?」

「あれは妖精の足跡とよばれています。こういった人の入らない場所では妖精たちが遊ぶと言われていて、彼らの残した微細な魔力を浴びた草花から魔力の残り香がこうして浮かび上がって消えていくのです」

「妖精って本当にいるんだ……」


 エルフや精霊、妖精といっためずらしい存在はよく子ども向けのおとぎ話に出てきたりする。

 ふつうの人間では見ることすらかなわない妖精の足跡。

 白くてあわい光がふわふわと浮かんでいき、空気に溶けるように消えていく。

 まるで雪が天に昇っていくような光景はとても神秘的だった。


「それで肝心の癒しの葉っていうのは……」

「これがそうですね」


 イルファが足元から一枚ちぎってみせた。

 見た目は四葉のクローバーのように見えるけど、葉っぱのところどころに淡い白色の模様がある。


「この白い模様ってさっきの妖精の足跡と関係あるのかな?」

「うーん、関係はあるかもしれませんが詳しくは分かりませんね。癒しの葉のあるところに妖精の足跡があることは多いのですが、妖精たちが遊ぶ場所にかならずしも癒しの葉が生えているわけではないんです。共通しているのは、癒しの葉が生えるのも妖精たちが遊ぶのも人目のつかない場所、ということくらいですね」


 うーむ、なるほど。

 もしかしたら普通の四葉のクローバーが妖精の魔力の影響で癒しの葉に変化するのかとも思ったが、そうと決めつけられるわけではないようだ。


「癒しの葉はどれくらい採取していいの?」

「ここは陽射しもありますし、湖もあります。パッと見た感じですとたくさん生えているみたいなので、すこし多めに採取するくらいなら大丈夫だと思いますよ」

「わかった。リオもこの四つの葉っぱに白い模様のあるやつを探してくれ」

「了解!」


 俺たちは幻想的な風景の中、癒しの葉を採取していった。




 癒しの葉の採取が終わり、宿屋に戻ってきた。

 帰りに寄り道してポーション専用のビンも購入し、残るは実際に生成するのみだ。

 宿屋の一階で簡単にご飯を済ませた後、俺たちは部屋に閉じこもった。


「さて、いよいよ材料はそろったわけだが……」

「はい。まずは試しに一本目を作ってみましょう」


 俺はイルファの指示にしたがってビンに水を、そして小さくちぎった薬草、癒しの葉を入れた。

 ビンの底に葉が沈殿するだけで水は透明なままだ。

 やはりイルファが言ったとおり、混ぜるだけではポーションにならないみたいだ。


「それでは、魔力を注いでいきますね」

「よろしく頼むよ」


 俺はワクワクしているリオと一緒にイルファを見守った。

 薬草と癒しの葉が沈んだビンに向かって、ゆっくり両手をかざした。

 無言のまま集中しているイルファの両手から光があふれてきた。

 その光はポーションのビンを包み込み、やがて中の水がかき混ぜられたかのようにゆっくり渦巻いていく。

 水と葉がまわり、十分に混ざったと思われた瞬間、ピカッと光った。

 光がおさまるとそこにはわずかに緑がかった青色の液体ができあがっていた。


「……完成しました」

「わーい! やったー!」

「すごいよイルファ! 緑がかったポーションだ! やったね!」


 大きく深呼吸してから、イルファは両手を下ろした。


「うまくできたみたいで良かったです」

「すごいすごい!」

「本当にイルファがいてくれて助かったよ。ありがとう、イルファ」


 イルファはすこしだけ誇らしげに、そして何より仕事の手伝いができたことが嬉しそうに頬を赤く染めて笑顔を浮かべた。

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