日常へ
サーカス団の団長さんいわく、グレイの亡き骸はアイスの魔法で保冷して団長さんの故郷に埋めてあげるそうだ。
団長さんは涙ながらに俺に感謝してくれたが、正直、俺はあのときの選択が正しかったのか分からないでいた。
グレイはサーカスの団員としてこれ以上ない死に方をした。
リオは仲間意識のあるグレイウルフの命を賭けたサーカスショーに心を痛めた。
俺がもやもやした気分を抱えているのと関係なしに、エンジョイサーカス団はセンタルの街から去っていった。
非日常のサーカス団がいなくなり、街には日常がもどってきた。
だが俺だけはサーカス団のいた非日常から戻れないでいた。
俺がぼんやりと野菜の手入れをしているとラキスに「ちょっと来い」と腕を引っ張られて家に連れ込まれた。
リビングにはイルファが座っており、リオはあの思い出の丘に出掛けているようだ。
ラキスは俺をイスに座らせ、ため息をついた。
「ライド、しっかりしろ」
「しっかりしてるつもりだけど……」
「ぜんぜんしっかりしてません!」
イルファに叱られてしまった。
そんなこと言われても、俺はまだあのサーカス団のことで頭がいっぱいだった。
「ライド、お前が何に悩んでいるのかは分かる。だがな、もう終わったことなんだ」
「ラキス! 言い方というものが……!」
「いいや、これくらいハッキリ言わないと伝わらんだろう」
ラキスは両手で俺の肩をつかんだ。
「ライド、お前はリオを傷付けず、グレイを満足させることができたのか?」
「そんなこと、できるわけ……」
「そうだ、できるわけがない。だがお前は選んだ。何が正しいと信じた?」
「なにが、ただしい……?」
俺は老いていくだけのグレイに心残りをなくしてほしかった。
そしてリオを傷付けたとしても、それを乗り越えてくれると信じた。
あの時はそれが最善だと、もっとも正しいと信じたんだ。
「お前が正しいと信じて選んだことなら、その罪も苦悩も背負って生きる責任がある。誰も傷付けず、誰もを幸せにできたかもしれないなどと悩むのはただの傲慢だ。目を覚ませ、ライド。お前は自分の信じたものから逃げるな」
ラキスに頬を叩かれた。
じんじんとうずくように熱い。
これは俺が自分から逃げている罰だ。
正しいと信じた自分から逃げようとしている。
そんなんじゃ傷付けたリオは報われないし、死んでいったグレイも浮かばれない。
正しいと信じた自分を、その罪も苦悩もひっくるめて背負わなければ俺は人として無責任なやつになる。
「……ありがとう、ラキス。目が覚めたよ」
「もう一発、必要か?」
「いや、痛いのは一回で十分だ。イルファも心配かけてごめんな」
自分の信じた正しさをウソにしないためにも、俺は前を向いて歩き続けないといけないんだ。
そうじゃないと俺は俺でいられない。
「二人ともありがとう。もう大丈夫だ。仕事にもどろう」
俺は庭の畑で栽培している野菜の手入れにもどり、土のニオイに命を感じた。
非日常はもう終わりだ。
日常にもどって、なんでもない日々をのんびりと、時に忙しく過ごすのだ。
俺は額に浮かんだ汗をぬぐった。




