はじめてのウソ
俺たちはグレイが退場してすぐさま会場を飛び出した。
俺のテイムスキルからグレイの力が薄れていくのが分かったからだ。
巨大テントの裏手から中に入って探してみてもグレイの姿はどこにもなかった。
「たぶん、あそこだ!」
駆けだしたリオに続いてサーカス団のテントの先にある、大樹の生えている小高い丘へ向かった。
俺たちが着いたときには、グレイは倒れたように横になり、そのそばで団長が涙を流していた。
「グレイ、よく頑張ったよ。これ以上ないくらい素晴らしいショーだった」
団長は俺たちに気が付くとハンカチで涙をぬぐい、サーカスの残りを演じるために俺たちにこの場を任せて去っていった。
リオは倒れたグレイに駆け寄り、
「すっごくカッコいい舞台だったよ、グレイ!」
『見て、くれたのか……』
「もちろんだよ! 最後の遠吠えもカッコよかった! サーカスの主役はグレイで決まりだね!」
『……楽しんで、くれたか?』
リオは嗚咽が漏れそうになるのを必死にこらえて、
「すっごく楽しかった! 今まで見たサーカスで一番だったよ!」
『それは、よかった……』
グレイは横になりながら夜空に目を移した。
今日は特にキレイな星空で、満月が光り輝いていた。
俺のテイムスキルで感じられるグレイの力がどんどん小さくなっていく。
荒い呼吸の隙間から漏れ出すような声で、
『照明が、俺を……照らしてる……』
口の端から舌がだらんと垂れ下がり、息も絶え絶えに聞いた。
『観客……見てるか……楽しんで……いるか』
リオは大粒の涙をこぼしながら必死に笑顔をつくった。
そして、素直で純真な少女は、おそらく生まれてはじめてのウソをついた。
「お客さんは全員、涙を流しながら楽しんでいるよ……!」
グレイは満足そうに口の端をあげ、目を閉じ、次第に呼吸が浅くなっていった。
完全に動かなくなり、夜の静けさがグレイを覆い隠した。
グレイの亡き骸に抱きついて声をあげるリオを、俺たちは見ていることしかできなかった。




