命を賭して 3
サーカスの公演も最終日。
その最後の回である夜の部。
最後にひと目見ようとサーカス団のテントの前には行列ができていた。
俺たちはグレイの晴れ舞台を見るために列に並んでいた。
ずっとグレイの訓練を見てきた俺はかならず舞台を成功させると信じている。
そんな折、服のすそをリオに引っ張られた。
「ライド、いままでごめんね」
「いいんだよ。リオを悲しませてしまったのは事実なんだから」
「グレイが言ってた。ライドは選ばなければならないものを選んだんだ、って。そしてグレイはそんなライドに感謝してるって」
リオはどこか悲しげに笑った。
その表情を見て、俺は胸が苦しくなった。
グレイのサーカス人生の最後に花を添えるために決断した。
それはきっと正解でも間違いでもない選択だった。
たとえリオを悲しませたとしても、リオにはまだまだ長い人生がある。
これからも泣いたり笑ったりしていくらでも今回の悲しみを乗り越えていけると思っていた。
だが、目の前の幼い少女が実際に苦悩を飲み込んだという事実に、俺は深い罪悪感を抱いた。
呆然としていた俺の手が引っ張られた。
「いこう、ライド! グレイの舞台を応援しなくちゃ!」
「あ、ああ……」
俺たちはサーカスの巨大テントの中に入っていった。
前半の演目は以前とほとんど一緒だった。
後半、ラストのライオンのショーの前に、ムチを持った団長とグレイが現れた。
明るい照明のもと、団長は大きな声で観客に呼びかけた。
「我がサーカス団が誇る、もっとも俊敏で鮮やかなグレイウルフの登場です! どうか皆様、彼の迫力ある舞台にあたたかいご声援をお願いします!」
観客たちは大きな声援を送り、拍手とともにグレイを迎えた。
俺たちはグレイの動きのいっさいを見逃すまいと舞台に意識を集中させた。
グレイの前には犬の軍隊が行ったものより大きな障害物の数々が設置されていた。
団長のムチが地面を打ったのを合図に、グレイは走り出した。
犬よりもはるかに迅速に駆け、障害物を右に左にと避け、高い壁を飛び越えた。
灰色の残像しか残らないほどの速さで次々に障害物を乗り越えていく。
大きな壁をジャンプして蹴り飛ばし、くるりと回転して地面に着地。
間髪入れずに階段を駆け上がり、空中ブランコに飛びかかった。
大きな口の牙で手すりをくわえ込み、体を前後に大きく揺らして反動を生む。
勢いが最高潮に達したとき、牙を放して向かいのブランコの手すりにかぶりついた。
端に到達したグレイは勢いよく階段を駆け下り、会場をぐるりと大回りして団長のもとにもどった。
そして、この舞台の王者は自分だぞ、と主張するかのように大きな声で長く、長く吠えた。
あっという間にくり広げられた圧巻のショーに観客たちから割れんばかりの拍手と喝采が起こった。
俺たちも手がちぎれるくらい拍手し、舞台から退場していくグレイを見送った。
となりの席のリオは目に涙を浮かべていた。




