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命を賭して 2

『来てくれないかと思ったぞ』

「…………」


 サーカス団のテントの先にある、一本の大樹が生えている小高い丘。

 グレイは堂々とした姿勢でリオを迎えたが、当のリオ本人は元気のかけらもなかった。


 グレイが座り、その横にリオも腰かけた。

 日が沈み始めた夕方。

 赤みを帯びた光がグレイの綺麗な体毛を鮮やかに照らした。


『まだあいつを許せていないのか?』

「……そういうわけじゃ、ないけど」

『あいつはお前のことを悲しませたかったわけではない』

「それは、わかってる……わかってるんだよ」

『わかっているけど許せない、か』


 グレイはシッポを一振りして続けた。


『たとえば、お前の仲間たちが窮地に陥っているとする。三人の中で一人しか助けられない。選ばなかった二人は死ぬ。お前ならどうする?』

「……なんの話?」

『たとえ話だ。そうだな、何かを選ばなければならない時のたとえ話だ。お前なら誰を助ける?』

「そんなの、わかんないよ……」

『何もしなければ三人とも死ぬ。お前は誰か一人を選ばなければならない』

「そんなの決められるわけないよ!」


 リオは顔を伏せたまま大声をあげた。

 グレイは表情一つ動かさず、静かに言った。


『大切なものを犠牲にして、もう一つの大切なものを選ばなければならない時はかならず来る。俺も、お前も、人間も、生きていれば一生に一度はかならず通らなければいけない道だ』

「そんなの、やだよ……」

『当たり前だ。嫌に決まってる。だが選ばなければならない。俺たちは全能の神じゃない。限られた力ですこしでも良い結果を選ぶために苦悩する』

「ライドは、それを選んだってこと……?」

『そうだ。あいつはお前が悲しむことをわかっていながら、俺にテイムのことを教えた。俺の残りわずかな命に、最後の輝くチャンスをくれた。だから俺はそれに報いたい』


 リオのひきつった頬をグレイがペロリと舐めた。


『明日の最後の公演、かならず観に来い。俺がお前を笑顔にしてやる』


 立ち上がったオオカミは夕日に染まってキラキラと輝いていた。

 リオの目に映るその堂々とした姿は欠片も老いを感じさせなかった。

 全身にみなぎる力をすべて出し切る覚悟がオオカミの瞳には宿っていた。

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