命を賭して
俺たちは団長さんに一連の経緯を説明した。
団長さんも思うところがあるのだろう、目頭を押さえてから元気になったグレイにリハビリをしてショーに出られるようにすると言った。
グレイは低く吠え、団長さんについていった。
団長さんの話では最終日の夜の回に間に合わせるとのことだった。
きっとそれがグレイにとって最後のショーになる。
とりあえず家に帰った俺たちだが、リオは明らかに落ち込んでいた。
そして、それとなく俺を避けるようになった。
大人であるイルファとラキスは俺の選択に理解を示してくれたが、同時にリオの繊細な心にも気を遣ってくれた。
俺との会話が減ったぶん、イルファとラキスがリオに構ってあげる時間が増えた。
俺は自分の選択への責任も感じていたため、それから毎日サーカス団をおとずれた。
巨大テントの裏でグレイは団長のムチの音に合わせて障害物を避ける訓練をしていた。
時には体がぶつかり、障害物ごと倒れることもあった。
それでもグレイは立ち上がり、強化された体力と気力を奮い立たせて一心に訓練に没頭した。
何度もぶつかり、倒れ、立ち上がり、また倒れ、立ち上がる。
見ているこっちがいたたまれない気持ちになった。
テント内では空中ブランコも利用した曲芸も練習していた。
大きな口で噛みつき、牙をひっかけて体を大きく振って向かいのブランコに飛びつく。
下には大きなクッションが敷いてあるので失敗してもケガは負わないが、グレイはこの空中ブランコに何度も失敗した。
彼を見つめる団員たちもやりきれない思いでその場を離れることもあった。
だが、グレイはあきらめなかった。
失敗した数だけ立ち上がり、挑戦をやめることはなかった。
サーカスの最終日前日。
俺はリオにグレイからの伝言を伝えた。
「リオ、グレイがサーカス団のテントの先にある丘で待ってるって言ってたよ」
「……わかった」
この一週間以上、ずっと憂鬱な表情をしていたリオはグレイからの知らせを聞いても浮かない表情のままだった。
とぼとぼと家から出ていく背中を俺は見守ることしかできなかった。
「ライド、リオを、グレイを信じよう」
「きっとやれることはやったんだと思います」
ラキスとイルファが俺を慰めてくれた。
情けないことだが、いまの俺にできることはない。
リオとグレイを信じるしかなかった。




