グレイウルフの事情 3
『強化とは、どういうことだ?』
俺は自分がテイマーであること、そしてそのテイム対象は亜人限定であることを説明した。
「それでボクも、ここにいるエルフのイルファもハーフドラゴンのラキスもテイムしてもらってるの」
『なるほどな。しかし、テイムという割にお前たちの仲は主従のそれではないのだな』
「ボクも二人も自分たちからテイムしてもらってるんだよ」
「いろいろあってね。俺は相手の意志を無視して無理やりテイムしたりはしないよ」
『…………』
グレイはすこし遠い目をして口を開いた。
『テイムはされていないが、俺や他の動物たちと団長の関係に似ているのかもな』
「似ている?」
『俺たちは無理やり調教されてサーカスをやっているわけではない。皆、団長に拾われたり、世話になった恩返しにここで働いている』
グレイをはじめ、ここの動物たちは団長に恩義を感じてショーに出ているわけか。
ある意味、団長との信頼関係で結ばれている。
そこが俺とリオたちとの関係に似ているということなのだろう。
『リオ、お前はいま幸せか?』
「うん! すごくしあわせだよ!」
『そうか。その気持ちは大事にするんだな』
グレイは物思いに沈むようにゆっくりと目を閉じた。
団長に恩義を感じて自らすすんでサーカスに出ていた人生は、きっとグレイにとって幸せなものだったのだろう。
リオはおずおずと迷いつつもグレイに問うた。
「ねえ、グレイ。もうサーカスには出ないの?」
『……俺も歳を取りすぎた。失敗が続くようになって引退を決めたよ』
「そっか……」
しょんぼりするリオは予想していたとはいえ、やはり寂しく感じているようだ。
そのとき、俺はそれに気付いた。
グレイの体がうっすらと青みがかっている。
俺はこの事実を伝えるか迷ったものの、言わないのも不義理な気がした。
「グレイ、もしかしてだが、キミは亜人の血を引いているのか?」
「えっ!?」
『なんだと……?』
「俺のテイムスキルは相手をテイムできるかどうか分かるんだ。グレイの体はうっすら青く光っている。きっと亜人の血が入っているんだと思う」
グレイは頭をもたげ、まっすぐに俺を見た。
『ワーウルフの血を引いている可能性はある。だが、それで俺をテイムしてどうするつもりだ?』
「いや、可能性の話だ。テイムはたぶんできる。テイムされた亜人は体力や筋力といった身体能力やスキルが強化される」
『…………』
「もちろんキミに強制するつもりはない。能力は強化されても、おそらく寿命は延びないから。むしろ無理に体を使えば寿命が縮む危険性もある」
『……ずるいじゃないか、お前。目の前には俺のショーを見たがっている客がいるのに、そんな夢を見せてくるなんて』
グレイはクッションから立ち上がって真っ向から俺を見上げた。
『俺は団長と出会って、サーカスでショーを披露することだけを喜びに感じて生きてきた。最後に俺を慕ってくれる客を満足させられるなら、やってみない手はない』
グレイは『俺をテイムしろ』と低く吠えた。
だが、俺とグレイのあいだにリオが立ちふさがった。
「ダメだよ! そんなことしたら、きっとグレイの体がもたない!」
俺がグレイに伝えるか悩んだのはこの事態を想定したからだ。
グレイをテイムすればショーに出ることは可能かもしれない。
しかし、強化されたとはいえ体力を大きく消耗すれば、その分グレイの寿命は削られるだろう。
そして、それをリオがこころよく思わないであろうことも予想できていた。
グレイの矜持を取るか、リオの気持ちを取るか。
俺は悩んだ結果、仲間の気持ちより一匹のオオカミの誇りを優先したんだ。
「たとえ寿命が縮んでも後悔はないんだな?」
『くどい。俺はこのサーカス団の一員として、一人でも多くの客を楽しませるために生きてきた』
「……わかった」
俺は目を潤ませるリオを無視し、グレイにテイムをかけた。




