グレイウルフの事情 2
サーカス団の団長さんの話はそれだけだった。
何か特別な事情があるわけではなかった。
ただただ当たり前に起こりうることが起きて、その時が来て、舞台に立てなくなっただけだった。
リオも俺たちも、団長さんの言葉に何も言い返すことができなかった。
歳を重ねて老いること、これに対する解決策などこの世の誰も持ち合わせていないのだから。
俺たちは団長さんの部屋を後にした。
団長さんの厚意で、グレイに会っても構わないと許可をもらった。
俺たちは教えてもらったテントの端のほうへ向かい、大きなクッションの上で横になっているグレイに近づいた。
俺たちの足音やニオイに耳をすこし動かすだけで体を動かすこともなかった。
「はじめまして、グレイ。ボクはリオ」
すこしだけ距離を置いて、リオがしゃがんで挨拶をした。
グレイは耳をすこし動かし、片目を開いた。
「ボクはキミのファンなんだ。この街に来たときのパレードで、ボクはキミの姿を見てカッコいいと思った。ボクはキミにあこがれているんだ」
グレイはようやく頭を持ち上げ、リオのほうを見た。
その目は凛々しく見えるものの、あの日リオが言ったようにどこか元気がないような、くたびれた印象があった。
リオは手をさしだして、
「グレイ、なでてもいいかい?」
リオの言葉がわかるのか、グレイはすこし鼻をあげ、目をつぶった。
それはきっと好きにしていい、という意思表示なのだろう。
「ありがとう、グレイ」
リオが一歩近づいてグレイのアゴの下をなでた。
グレイは気持ちよさそうにされるがままだった。
あの団長さんと長年サーカスで活躍してきたためか、初対面の俺たちに対しても穏やかな態度だった。
「グレイ、ボクはね、ブルーウルフの亜人なんだ。だからなんとなく仲間意識がわいちゃって、キミが舞台に立っているところを見たいと思ったんだ」
リオの言葉に反応してグレイは目を開き、小さくくぐもった声を出した。
『ブルーウルフ、か……』
撫でていたリオも俺も突然の声に驚いてしまった。
イルファとラキスは落ち着いているところを見ると、どうやらグレイの声はリオと、リオの能力を共有している俺だけに聞こえるらしい。
「グレイ、キミ言葉をしゃべれるの?」
『言葉……? 俺は鳴いているだけだぞ』
「聞こえる……グレイの言っていることがわかるよ!」
『まさか、同じグレイウルフ同士でも話すことなどできないのに』
「ちゃんと聞こえてるよ! ……もしかしたらボクの力が強化されているからかも」
『強化、だと……?』
グレイはようやくリオと会話が成立していることに気付いたようで、上半身を起こした。




