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グレイウルフの事情

 それから数日後、俺たちはまたサーカスを観に行った。

 今度は夜の時間帯、グレイウルフも元気になっていると願って。

 だが、ショーは演目の順序が調整されたりはしていたが、やはり前回と同様にグレイウルフは登場しなかった。

 寂しそうにするリオの表情にいたたまれなくなった俺たちは、サーカス団に直接、聞いてみることにした。


 翌日。

 俺たちは昼間からサーカス団をおとずれた。

 入り口は閉鎖されていたのでテントの裏手にまわった。

 裏の団員用の勝手口から入っていいものか迷っていると、男の団員が出てきたので声を掛けた。


「あの……」

「ん、お客さんは……?」

「グレイウルフは! グレイウルフはどうしてますか!?」


 感情を抑えきれなかったリオが大声で団員に詰め寄った。

 団員はすこし悩んでから、


「ちょっと団長に聞いてきますね」


 そう言って中へもどっていった。

 数分して帰ってきた団員は「どうぞ、入ってください」と言って俺たちを招き入れた。

 巨大テントの舞台裏は団員たちや動物たちでいっぱいだった。

 本来なら客に過ぎない俺たちをこんなところに入れたりしないのだろう。

 みんな俺たちのことを不思議そうに見ていた。


「ここが団長室になります。話は団長としてみてください」

「ありがとうございます」


 俺は男の団員に丁寧に頭を下げた。

 部屋に入ると座っていた団長は立ち上がり、


「どうぞ掛けてください。せまい部屋で申し訳ないですが……」


 俺たちは言われたとおり団長の向かいのソファに腰かけた。


「あなた方が、グレイのことを気にかけてくださったのですね?」

「ええ、じつはこの子が……」

「グレイウルフは元気なんですか?」


 団長にも詰め寄るように質問するリオに、団長はソファに座り、視線を落とした。


「……あまり、お客さんにこういうことを話すのは良くないのですが……」

「他に話したりしません。お約束します。ただ、じつはこの子はブルーウルフの亜人でして……」

「なんと、ブルーウルフのですか! ……なるほど、それで気付いて話を聞きに来られたのですね」


 団長は深く息を吸い込み、意を決したように吐き出した。


「わかりました。お話ししましょう」


 俺はそっとリオの手を握ってあげた。


「グレイは、あの子は別に体調が悪いわけでも病気なわけでもありません。ただ、もう歳なのです。あの子はこのサーカス団でももっとも古参の子の一人で、まだこのサーカス団が小さかったころからずっと一緒に舞台に立ってきました。ですが、人もオオカミも老いには勝てません。体力も落ち、一年ほど前から舞台には立たなくなったのです」


 何かがあったわけではない、という団長の言葉に安堵することはできなかった。

 老衰で体力がないから舞台に立てない。

 それはサーカス団の一員にとってこれ以上ないほど無慈悲な現実だった。

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