魔女の庭園 3
「それで、君たちがここへ来たのはヒトの子たちのことかな?」
スマルテスはいきなり本題について話し始めた。
「そうです。子どもたちが三人、この近くの街からいなくなってしまって、この迷いの森に入っていく人影を見たということで俺たちが探しに来たんです」
「なるほどねぇ」
スマルテスはすべてわかっていたかのようにうなずき、指を一本あげるとくるりと回した。
テーブルの近くに大きめのソファが突然、現れ、その上で三人の子どもたちがすやすやと眠っていた。
「……!?」
「大丈夫、寝ているだけさ。私も彼らを帰してあげなければいけないと思っていたんだ。君たちが来てくれて助かったよ」
よかった、子どもたちは無事だった。
それにスマルテスも帰すつもりだったと言っている。安心した。
「さっきの妖精たちがね、どうやら好奇心で君たちの街まで遊びに行ってしまったみたいなんだ」
「そうだ! あの妖精からライドのトマトのニオイがした!」
「どうやら君の育てた野菜を盗み食いしてしまったみたいだね。許してやってくれ」
眉を下げて頼まれると断ることに罪悪感が芽生えてくる。
孫のやんちゃを謝るおばあちゃんみたいだ。
「あの子たちも、わざとヒトの子を連れ去ろうとしたわけではないんだよ。もともと妖精は純真な子どもにしか見えないことが多く、そして子どもは妖精に魅入られやすいのさ。各地で妖精がヒトの子をさらう、なんて言い伝えがあったりするだろう? きっとその子たちも知らず知らずのうちに妖精たちについてきてしまったんだろうね」
眠っている子どもたちを見守る視線はあたたかい。
スマルテスが悪い人物でなくて本当によかった。
悪意のある人物だったら子どもたちも、そして俺たちも生きて帰れるか分からなかった。
これでひとまず、子どもたちの失踪事件は解決とみていいだろう。
「あの、質問をしてもよろしいでしょうか?」
イルファがおそるおそる声をあげた。
「なんだい?」
「その、スマルテス様はなぜこのような場所にいらっしゃるのですか?」
たしかに俺も疑問に思っていたことだ。
こんな深い森の奥に一人で暮らしているなんて何か事情があるのだろうか。
スマルテスは目を閉じ、ゆっくりと明けた。
「そうだねぇ……。話せば長くなるから簡単に言うと、疲れたから、というのが一番近いのかねぇ」
スマルテスの瞳はどこか遠くを見ているようだった。
きっと俺たちの知らない、はるか昔の数々の光景を見ているんだ。
「かつての聖霊戦争は辛くも亜人同盟が勝利した。けれど被害はひどいもので、あらゆる種族が痛手を負ってしまった。私も各地をめぐり、復興に手を貸したりもした。ゆっくりと、ゆっくりと世界は活気を取り戻していったさ。だけどね、エルフの頭の固さも、亜人たちの強欲さも、ヒトの傲慢さも、みんな戦争以前にもどってしまった。あれだけ多くの英雄、英傑が命を落としてやっと手に入れた平和の世界で、亜人もヒトも戦争のことなどすっかり忘れ、一度は築いた絆も打ち捨てて己の利益ばかりに執着するようになってしまった。歴史を観続けてきた私は、それに疲れてしまったんだろうね」
「…………」
スマルテスの語る、誰も知らない太古の歴史。
その言葉のひとつひとつが重く、イルファも俺たちも返すべき言葉を持ち合わせていなかった。
「まあ、私の昔話なんてどうでもいいのさ。君たちは今、この時代を生きている。今の世を動かすのは私みたいな老いぼれではなく、君たちのような若者さ」
スマルテスは生まれたての赤ん坊に笑いかけるように目を細めた。




