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魔女の庭園 2

「とりあえず、その妖精の子たちを許してやってくれないかい?」


 おびえている妖精から離れろ、ということなのだろう。

 俺はリオの手を引いて木の根から距離をおいた。


「ありがとう。立ち話もなんだ、中で話をしようじゃないか」


 ハイエルフの女性は大樹の陰に歩いていくとそのまま大樹の中に消えていった。

 どうやら魔法のようなもので見えない境界が設置されているようだ。

 俺たちはおそるおそる女性の消えた大樹の中へ足を踏み入れた。


「これはいったい……」


 大樹の中は広い部屋につながっていた。

 およそ大樹に収まるような広さではない。


「空間魔法の一つでね、扉はあっても直接つながっているわけじゃないのさ」


 ハイエルフの女性はリビングのイスに座り、同じようにすすめてきた。

 俺たちはキノコの形をしたやわらかいイスに腰かけた。


「人数分のお茶をおねがいね」

「かしこまりました」


 木でできた、女の子のような姿をした侍女が台所へむかった。


「まさか、ドライアドですか……?」

「ああ、私の大切な友人さ」


 俺が小声でイルファにたずねると「木の精霊です。ふつうは姿を見せないのですよ」と説明してくれた。

 このハイエルフの領域では目新しいものが多すぎる。


「さて、はじめて顔を合わせたら名乗るものだったかね」


 女性は俺たちの顔を順番にながめ、


「私は……そうだねぇ、スマルテスとでも呼んでくれればいいよ」


 偽名、ということなのか?


「もうこの世で生来の名を使う必要もないからねぇ。私を指し示す言葉であれば、こんなもので十分なのさ」


 真意はわからないが、おそらく悠久の時を生きてきたハイエルフゆえの理由があるのだろう。

 スマルテスはドライアドが運んできたお茶を「ありがとうね」と言って受け取った。


「次は君たちの番だ」


 スマルテスは何が嬉しいのか、ニッコリと笑った。

 のんびりした口調といい、どこか老婆のような雰囲気を感じさせる。


「俺はライド。元冒険者で今は料理を売ったり野菜を育てたりしてる」

「ボクはリオ。ブルーウルフだよ。ライドと一緒にケモノを狩ったりしてる」

「私はラキスだ。ハーフドラゴンで今は鍛冶師として武具を制作している」

「わたしはイルファと申します。癒しの里出身のエルフです。ポーション製作をしています」


 スマルテスはほぉ、と楽しげに俺たちの自己紹介に聞き入っていた。


「癒し満ちる風の里、まだ続いていたんだねぇ」

「癒し、満ちる……?」


 イルファの出身地であるエルフの里と微妙に呼び方が異なっている。


「その呼び方は、はるか昔のものですね?」

「そうだねぇ。癒し満ちる風の里、疾く流るる水の里、猛き焔と灰塵の里、割り砕く雷鳴の里……まだエルフが地上を闊歩していた、聖霊戦争時代のことだね」


 聖霊戦争……?

 そんな単語はおとぎ話にも聞いたことがない。

 イルファが俺たちに、


「エルフ族のあいだに伝わる伝承があります。かつて魔族が跋扈していた時代、わたしたちエルフ族だけでなく、人間や他の亜人種とも同盟を組み、魔族と血で血を洗う戦争が行われていた、と」

「ただの昔話だよ」


 何でもないように語るスマルテスの知識と経験は俺たちの常識からかけ離れているのだと理解した。

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