魔女の庭園
どれくらい走ったか。
光とリオを追いかけ、真っ暗な森の中をまっすぐに走り続けた。
そうして前方に大きな光が見えたと思った次の瞬間、俺とラキスはまばゆい光に思わず目を覆った。
ゆっくりと明るさに慣れてくる目に飛び込んできた光景に、俺たちは驚きのあまり言葉を失った。
そこは清らかな湖を中心に色とりどりの草花が咲き乱れていた。
そして草花からは、ほわほわした白い綿毛のようなものが空に昇っていき、消えていく。
幻想的かつ神秘的な庭園だった。
「これは……」
「妖精の、足跡……」
以前、ポーションを作るときに癒しの葉を求めて森の奥へ踏み込んだときに見かけたものだ。
あの時とおなじものが、こんな場所でまた見られるなんて……。
俺は思わずあっけにとられていたが、リオの声で現実に引き戻された。
「ライド! この妖精たち! この子たちからトマトのニオイがする!」
庭園の端っこには大樹があり、その根の陰に何かが隠れていた。
俺たちがゆっくり近づいて見てみると、それは蝶のような羽をもつ妖精たちだった。
妖精たちは怯えているようで、身を寄せ合いながら俺たちを見上げていた。
そのとき、
「その子たちをいじめないでくれるかい、客人よ」
ゆったりした声の主が大樹の陰から現れた。
草花の冠を戴き、白く美麗なローブに身を包み、年季の入った木の杖をたずさえ、長いまつ毛にたれ目で、特徴的な長い耳をもつ美しい女性。
「ハッ、あなたは……!」
イルファがとっさにひざまずいた。
長い耳の女性はよいよい、とでも言うように手をふった。
「まさかこんなところに客人が、それも同胞の子が来るとはねぇ」
女性はイルファに近づき、ポンポンと肩を叩いて立ち上がらせた。
イルファは声を震わせながら、
「あなた様は、ハイエルフの……」
「そんなふうに呼ばれたこともあったねぇ」
長い耳からエルフ族だとは思っていたが、ハイエルフ?
ふつうのエルフ族とは違うのか?
戸惑っている俺たちに説明するようにイルファが口を開いた。
「この方は、わたしたちエルフ族の中でもとりわけ貴きお方、いわばエルフの王族、ハイエルフ族の方です」
エルフの王族、ということは人間の俺にとってのシェリー姫みたいな立場の人ってことか。
めちゃくちゃ偉い人じゃないか!
俺がひざを曲げようとすると、それを止めるように手をかざし、
「よいよ。礼儀作法なんてものは時の流れの中に忘れてきたさ」
ゆったりした穏やかな声の中に重厚な威厳のようなものを感じる。
このハイエルフはイルファのことを「子」と呼んだ。
ただでさえ長命なエルフ族だが、もしかしたらこの人はとんでもなく年長な人なのかもしれない。




