迷いの森 3
混乱する俺とリオに、ラキスが声を漏らした。
「これはまさか……転移トラップなのか?」
「……!?」
転移トラップ。
元冒険者の俺もウワサくらいなら聞いたことがある。
世のダンジョンでも特に深い階層に設置されていることがある、もっとも危険なトラップ。
目に見えず、行き先もわからず、パーティメンバーもバラバラに飛ばされることのある絶望の罠。
つまり、今まで歩いてきた道から子どもたちの、そして俺たちのニオイがするということは、これまで歩いてきた森のどこかに飛ばされたということ。
「これは、マズいですね……」
イルファもこめかみに汗を浮かべていた。
「でも! ボクたちのニオイがするってことは、まっすぐ進めば森から出られるっていう──」
「忘れたのか、リオ。ここは迷いの森だ」
リオの懇願するような声を、冷静さを保っているラキスが言下に切り捨てた。
現実を突きつけられたリオは口をパクパクとさせ、その場にへたり込んだ。
最悪の状況だ。
だが覚悟していたはずだ。
生きては帰れないかもしれない、と。
「……進もう。ラキス、キミの勘に賭けたい。俺たちはどちらへ進めばいいと思う?」
今まで進んできたままの方向か、ニオイのする元来た方向か。
ラキスは目を閉じ、深呼吸をして答えた。
「今まで進んできた道をそのままゆく、それが良いと思う」
「……わかった」
俺はあらためて仲間たちを巻き込んだことを後悔した。
だがそれ以上に、なんとしてでも子どもたちを見つけ出し、生きて仲間たちと森から帰る、と強く自分に言い聞かせた。
真っ暗な中を歩いていると時間の感覚がマヒしてくる。
森に入ってから何時間も経ったように感じるし、まだ小一時間も経っていないようにも感じる。
ただ、ひたすら、まっすぐ進んでいく。
ザクッ、ザクッ、ザクッと足音だけが響く。
「……また、ニオイの場所が変わった」
「リオ、もうよせ。お前の鼻の良さはここでは逆効果だ。私たちを惑わすだけだ」
「うん……」
いつもあれだけ元気いっぱいのリオが完全に自信を喪失していた。
ブルーウルフとして鼻の良さには特別に自信を持っていたからこそ、それが使いものにならないことに絶望を感じているのだろう。
リオの手をイルファが力いっぱい握って先導してあげている。
イルファですらエルフ族特有の能力が効かない以上、不安と恐怖に支配されているであろうに、年長者としてリオをひっぱってあげている。
俺もイルファを見習って空いているほうのリオの手を握りしめた。
「大丈夫だ、リオ。俺たちはかならず帰れる。俺がいままでウソをついたことがあったか?」
「……ない」
「だろ? 俺たちはみんなちゃんと帰れる。もちろん、子どもたちも見つけてな。帰ったらリオの好きな肉串をいっぱい食べよう。何回でもおかわり自由だ」
「…………」
俺がなけなしの気力でリオを励ましていたとき、ラキスが小声でするどく叫んだ。
「みんな、止まれ」
俺たちはラキスの視線の先を見つめた。
暗闇の中、木の根のあたりにうっすらとした光がいくつか浮き沈みしている。
モンスターにしては小さすぎる。
光を発する植物にしては動きが動物的だ。
なんだ、あれは……?
「トマトだ……」
「リオ?」
リオがつぶやき、ゆっくり歩きだした。
近づいてきたリオから逃げるように数個の光が浮いて離れていく。
リオはゆっくりと、だがこれまでとは違って確かな足取りで光を追っていく。
「リオ、どうしたんだ?」
「トマトだよ! 今朝みんなで食べたライドのトマト!」
速度をあげた光を追いかけようとするリオ。
何が何やらまったくわからないまま、俺たちは光とそれを追いかけるリオの後ろ姿を見失わないように駆け出した。




