野菜日和
トーストのこんがりしたいいニオイで目が覚めた。
リビングに行くと台所で調理している音が聞こえてくる。
「おはようー」
「おはようございます、ライドさん」
ちょうど刻んだ野菜を盛り合わせたサラダボウルを持ってイルファが現れた。
レタスにパプリカ、オニオン、ミニトマト、ピーマン。
色とりどりの新鮮な野菜がいっぱいだ。
「リオを起こしてきますね」
「おねがいー」
イルファと入れ違いでラキスが玄関から入ってきた。
「ラキスはまじめだなぁ」
「幼いころからの習慣だからな。やらないと逆に気持ち悪いんだ」
朝の日課になっている素振りを終えたラキスはタオルで汗を拭いた。
そういえばハーフドラゴンは野菜を食べるのだろうか?
「野菜か……。食べないことはないが、どちらかというと肉食がメインだな」
「まあ、そうだよなぁ」
この分だとブルーウルフのリオも好んで野菜を食べるわけではなさそうだ。
「まだねむいよ~」
「今日はライドさんが育てた野菜もあるんですよ?」
「えー、野菜キライ~」
やっぱりか。
最近、庭で育て始めた野菜の食卓デビューなのだが、リオは特に好き嫌いが多いからまあ仕方ない。
全員が食卓について朝ごはんの時間だ。
イルファはサラダをお皿いっぱい取り分けて美味しそうに頬張った。
「はぁ~、新鮮なお野菜、とっても美味しいです!」
「そう言ってもらえると育てた甲斐があるよ」
エルフ族はもともと森に住んでいる種族で野菜や木の実が主食だ。
センタルの街でも売ってることはあるが、あまり新鮮な野菜は売られていない。
どちらかと言えばやはり肉のほうが街の人たちにも人気がある。
「うむ、このトマトは瑞々しくてうまいな」
「ですよね~。最高です~」
「パプリカやオニオンと一緒に食べてもなかなか美味しいよ」
大人組がパクパクと野菜を食べている横で、一人だけレタスをフォークでつんつんしている少女がいた。
「ほら、リオ、とっても美味しいですよ」
「うーん……」
俺も小さいころは野菜が苦手だったからリオの気持ちもわかる。
野菜嫌いな子どもに野菜を食べさせる方法……。
「そうだ!」
俺はトーストにレタスを敷き、シカ肉の切れ端をいくつか並べ、半分に切られたミニトマトを載せて折りたたんだ。
「ほら、リオ、肉をはさんだサンドなら食べられるんじゃないか?」
「それなら食べられるかも……」
リオは渋々、サンドを受け取ってガブリと噛みついた。
口の端にシカ肉の肉汁がついているのを拭いてあげる。
「どうだ?」
「うん、おいしい!」
リオの笑顔に俺たちは微笑ましい気持ちになった。
朝食の片づけが終わり、俺たちはそれぞれの仕事に向かった。
ラキスはいつも通りグローブさんの工房で騎士団用の剣を打ち、新しいマジックバッグを買ってあげたイルファとリオはイーストンの森でケモノ狩りと薬草の採取。
そして俺は庭の畑で育てている野菜の管理だ。
レタス、パプリカ、オニオン、ピーマン、ミニトマト。
細かい気温や土壌の調整はすべてイルファに教えてもらってなんとか調節した。
俺はウォーターの魔法で野菜に水をやり、成長具合の悪いものを間引いたりしていた。
朝食の調理で出た、野菜の食べられない部分は細かく刻んで土にふりまいた。
すこしでも栄養状態のいい土にすれば、より美味しい野菜が実ってくれるだろう。
そこで俺はふと気付いた。
「あれ……?」
ミニトマトの畑の一部、そこにあるはずのトマトがない。
トマトがなっているところに不自然な空きがあった。
「野菜どろぼう……ってことはないよなぁ?」
盗むならもっと大がかりにぜんぶ持っていくはずだ。
まるで数個だけつまみ食いしたようになくなっている。
近所の子どもたちが盗み食いした?
野生の動物が食べた?
もやもやした気分でいると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。




