束の間の休息
俺たちはザンガに教会の守りを固めるように言って宿へ帰ってきた。
今日はいろいろなことがありすぎて疲れた。
「ライド殿、みなさん、妙なことに巻き込んでしまって申し訳ありません」
ミラルは別れ際まで何度も謝っていたが、巻き込まれてしまったのだから仕方ない。
ミラルが悪いわけでもないのだ。
俺もリオもイルファもラキスも、あんなことに遭遇したらみんな同じように行動していただろう。
悪いやつは許せないのだから仕方ない。
ミラルにはまた明日以降、ミンドス商会への対処について話をすることにして別れた。
「ふぁー……」
ベッドにボスン、と倒れ込む。
王国騎士団が手配してくれた宿はなかなか高級なところで、ベッドはふかふかで俺の疲れた体を受け止めてくれた。
そこへコンコン、と控えめなノックが聞こえた。
「どうぞー」
「失礼します」
ノックの音から思ったとおり、イルファが部屋に入ってきた。
大きなベッドから上半身だけを起こした。
「イルファ、どうしたの?」
「あ、いえ、特別、用があるわけではないのですが……」
イルファが「おとなりに座っても?」と聞くので「どうぞどうぞ」と許可した。
しずかに腰を下ろしたイルファはどこかもじもじしている?
こうやって真横であらためて見るとエルフ族のイルファはとても美人だ。
キレイな長い金髪に整った容姿、俺とリオが選んだ青い眼帯、長い手足、それに不釣り合いなくらいに大きな、うん、それ。
あまり意識しないようにしてきたのだが、こうやって部屋で二人きりになると急に意識してしまう。
仲間として活動しているのでそういう目で見てはいけないと思ってきたが、俺も年ごろの男なんだなぁ、としみじみ思った。
「あの……あまり見ないでください」
「ご、ごめん!」
バレてた。
じっと見惚れていたのがしっかりバレてた。
うわ、なんだか急に恥ずかしくなってきたぞ。
たぶん、この胸の高鳴りも耳のいいイルファには筒抜けでバレバレなのだろう。
あーはずかしい。
「あの、ひざ枕してもいいですか?」
「ふぇっ!?」
思いもよらない提案に変な声が出てしまった。
ひざ枕? え、俺に? イルファが?
「え、あの、なんで……?」
「その、ライドさんが疲れているようでしたので……」
な、なるほど! わからん!
俺が疲れているように見えたからひざ枕をしてくれようということか。
ひざ枕って疲れを癒す効果があるのだろうか。
してもらった経験がないからわからない。いや、そういうことではなく!
「あ、あの、お嫌でしたらぜんぜん──」
「い、いやお願いします!」
イルファの好意を無下にしたくない一心でついお願いしてしまった。
イルファは少しだけ嬉しそうに優しく微笑んで、ベッドに深く腰かけた。
「さあ、どうぞ」
「あ、うん……じゃあ、失礼します」
言われるがまま、俺は体勢を変えてイルファの太ももに頭をあずけた。
程よく肉付きがよくて、温かくてやわらかい。
こんなに心地いい枕ははじめてだ。
「ど、どうですか……?」
「うん、すごく気持ちいいよ……」
「よかったです。ああ、もしこの眼が見えていたら、ライドさんのお顔をじっくり眺められたのに……」
「…………」
いや、残念ながらそれは無理だと思う。
というのも、仰向けに寝ている俺の視界はたぷたぷの大きなそれでふさがれていて、イルファの表情がまったく見えないからだ。
うう……目のやり場にこまる!
「ライドさん」
「ひゃい!」
ふしだらなことを考えていたので変な声が出てしまった。
「あの……頭をなでてもいいですか?」
「……イイデスヨ」
俺の頭にやわらかい手が置かれ、ゆっくり優しくなでてくれた。
なんだ、なんなんだ、いったい!?
今日のイルファの積極性はどうなってるんだ!?
「ライドさん、戸惑っていますね?」
「……はい、ごめんなさい」
「いえ、いいのです。わたしもらしくないことをしていると思っているので」
俺の動揺も見抜かれてしまっているのがはずかしい。
でも、イルファ自身もらしくないことをしている自覚はあるのか。
「以前のわたしなら、きっとこんなことはしなかったと思います。でも、ライドさんたちと一緒に生活するうちに、本当の家族のように思えてきて、ついこうやって自分らしくないことをしたくなってしまうんです」
俺はふと冷静に、それはテイムで植え付けられた忠誠心によるものではないか、と思ってしまった。
そんな俺の考えも見透かされていて、
「いまテイムの効果によるものじゃないか、と思いましたね?」
「アハハハハ、イルファさんには敵いません」
「いえ、わたしも最初はそうかな、と思ったんです。でも、何度、自分に問いかけてみてもこの気持ちはテイムの忠誠心によるものではないと、そう思えたんです」
そっか、賢いイルファが自問自答して出した結論なら、それはきっと正しいのだろう。
「それに、ライドさんだけでなく、リオにもこうやってひざ枕や頭をなでてあげたいと思うのです」
そうか、俺だけでなくリオにもってことは、
「それはたぶん、今のイルファが抱く、イルファらしい気持ちなんじゃないかな」
「わたしらしい、ですか……?」
「うん。変わったというか、成長したというか……」
「成長……」
その言葉を噛みしめるように小声で何度もくりかえした。
「そうかもしれません。わたし、成長しているんですね」
「変化してるのは確かだけど、きっとそれは悪いことじゃないと思うよ」
俺の言葉がうれしかったのか、イルファはふたたび優しく俺の頭をなでてくれた。
ああ、信頼されてるなぁ、と思った。
こころの隅々まで満たされて、胸の中心があたたかくなっていく感覚。
イルファがそう想ってくれているように、俺も彼女のことを家族のように想っていいんだ。
だが、俺の安らかな心地は長く続かなかった。
コンコン!とせっかちなノックとコン!コン!と規則正しいノックがしたかと思ったら部屋の扉が勢いよく開けられた。
「あー! イルファが抜け駆けしてるー!」
「イルファ、ズルいじゃないか!」
慌ただしく入ってきた二人によってひざ枕よしよしタイムは強制終了。
リオとラキスはイルファに文句を言っていたが、二人も気持ちはイルファと似たようなものだったらしく、リオは重なるように俺の胸に頭をあずけ、ラキスはイルファの後ろに寝転がって俺の手をにぎった。
ふさふさの耳をなでてあげて、硬くて力強い手に包まれて。
なんと表現するのが適切かわからないが、とても心地のいい時間を過ごした。




