肉串を売ってみよう!
俺とリオは草かげに隠れて様子をうかがっていた。
「一匹だけみたい」
「やれそう?」
「もちろん!」
リオは勢いよく駆け出した。
標的は孤立していた野生の大きなイノシシ。
気配に気づいたイノシシは攻撃態勢を取ろうとしたが時すでに遅し。
リオのスピードが乗った蹴りを横っ腹に喰らい、ひるんだ隙に両手で作ったコブシで脳天をかち割られ、あっけなく倒れた。
「いっちょあがり!」
「ナイスだリオ! すごいよ!」
俺も草むらから出てリオを褒めてあげる。
リオは嬉しそうに近寄ってきて、笑顔で頭をこすりつけてきた。
「リ、リオ?」
「ナデナデして〜」
ブルーウルフの習性なのか、嬉しいときは頭をこすりつけてくるみたいだ。
俺はリオの目が覚めるような鮮やかな青い髪をわしゃわしゃとなでてあげた。
「えへへ〜」と顔がほころぶリオはまるで子犬みたいで可愛らしい。
シッポもぶんぶん振ってとても喜んでくれている。
俺は倒れたイノシシをマジックバッグにしまった。
「よし、これでイノシシ六匹目ゲットだ」
「ライド、今日の晩ごはんはお肉?」
「ああ、そうだよ。それにイノシシの肉で肉串をつくる」
「にくくし?」
「屋台で焼いた肉を売ってることがあるでしょ? あれを俺たちも作って売るんだよ」
リオは屋台の肉の香りを思い出したのか、口の端から垂れたヨダレをあわてて拭き取った。
リオが仲間になってくれたおかげで狩りができるようになった。
森の中でも野生の動物がいる地域でリオが息をひそめ、そのスピードでいっきに狩る。
そして、倒した動物の肉で商売をする。
常に危険と隣り合わせだった冒険者と比べたら立派なスローライフだ。
おいしい料理をつくって売り、稼いだお金でまた別の商売もしてみたいな。
くー、夢が広がる!
「リオ、場所を移動しよう。ハーブっていういい香りのする草が生えているところを知らない?」
「それなら知ってる! 案内するね」
リオは肉串のことで頭がいっぱいなのか、ルンルンと上機嫌で歩き出した。
どうせ売るならできるだけ美味しいものに仕上げたい。
ほかの屋台と差をつければ、それだけ人気が出るはずだ。
俺はリオの後をついていき、ハーブの群生地で必要な分を採取した。
「さあ、安いよウマいよー! 香り付けした臭みのない、おいしいお肉だよー!」
金網の上、串に刺したイノシシの肉がじゅうじゅうと音を立てながら香ばしいにおいをあげている。
適度に焼けたら裏返し、焼き加減を調整。
肉に金網による焦げ跡がついているのも実に見映えがいい。
塩とコショウにところどころ緑色を添えているハーブも色合いをよく見せてくれている。
たまにしたたる肉汁がじゅわっ、と音を立てて作っている俺すら腹が減ってくるくらいだ。
接客係としてとなりに立っているリオも肉串に目が釘付けだ。
「うおっ、うまそうだな兄ちゃん! 肉串二本くれ!」
「まいどっ!」
頭にはちまきを巻いた大工風のおっさんが立ち止まってくれた。
「リオ、右の二本は焼きあがってるからお客さんに渡してあげて」
「わかった!」
リオからほかほかの肉串をもらったおっさんは代金として銅貨十枚を払ってくれた。
ありがたいことにその場でパクっと噛みつき、
「うおお~、うめえなあこの肉串!」
「うれしいね! うちのは味も香りも格別だろう?」
「噛むたびに肉汁があふれて、肉の香ばしさと脂の甘みがたまらねえ~」
俺の焼く肉串がいかに美味しいかをまわりに宣伝してくれた。
近くを歩いていた人も思わず足を止め、
「なんかうまそうだな……。俺にも二本くれ!」
と銀貨一枚を差し出した。
客が客をよぶ、こんなチャンスをみすみす見逃す手はない。
次々に新しい肉串を焼いていき、焼けたものからリオに渡していく。
屋台の前で客が最高の笑顔で肉をほおばっていく光景が幸いして、買いもの帰りの子連れのおばさんも、冒険者らしき男たちも、デートしていたカップルも立ち止まって注文してくれた。
「あたしは三本ちょうだい!」
「俺たちは六本だ!」
「僕らにも二本!」
「わわっ、お客さんがいっぱい!」
「いまが稼ぎ時だ! たくさん買ってもらうぞ!」
「うん!」
肉を焼いてリオに手渡し、さらに肉を焼いてリオに手渡す。
リオが狩ってくれた肉を俺が調理してバンバン売っていく。
飛ぶように売れて、代価として支払われたお金がどんどん増えていく。
冒険者のころには感じられなかった充実感がわいてくるのが分かった。
ヤバい、いま最高に楽しい!
店の前にできていた人だかりがさらに人をよび、次から次へと入る注文を俺とリオは休む暇もなくさばいていった。
小一時間が経ち、店の前にできていた人だかりも解消した。
客足が途絶えてやっと一段落ついた。
「ふ~、疲れた~」
「疲れたな~。でもリオもよく頑張った、えらいぞ!」
「えへへ」
頑張ってくれたご褒美に頭をナデナデしてあげた。シッポをぶんぶん振って喜んでくれる。
マジックバッグを確認すると屋台用の肉串も残り少なくなっていたので、少し早いがそろそろ店じまいしても良さそうだ。
そう思っていたところに、見知った顔が現れた。
「お、ライドじゃねえか」
「サ、サイモン!?」
俺を追放したBランク冒険者パーティ「漆黒のツバサ」のリーダー、サイモンだった。
おなじ街にいれば出会うこともあるだろうけど、それにしたって嬉しくない偶然だ。
だが、サイモンは意外にも俺のことより最後に焼いている肉串に目がいっている。
「なんだ、肉串売ってるのか」
「そ、そうだけど……」
「美味そうなにおいだな。俺にも一本くれ」
「あ、ああ、ちょっと待ってくれ」
焼き途中の串を裏返す。
なんだ、どういうつもりだ?
俺はてっきり悪口でも言われるものかと身構えてしまったが……。
俺の気配から察したのか、リオが俺の服を引っ張って、「こいつ、ライドの敵? ぶっとばす?」とするどい目つきで聞いてきたので「いや、敵ってわけじゃないから殴るのはやめようね」と押しとどめた。
「お前がパーティを抜けてからよ、いまいち上手くいってないんだわ」
「上手くいってない?」
サイモンは両手を後頭部で組んで愚痴っぽく言った。
「雑用や荷物持ちはお前がやってただろ? それをあいつら嫌がりやがってよ、めんどくせえ」
「へ、へえ、そうなんだ」
「ビッキーやセリアは荷物を持ちたがらねえし、ドルクは料理や雑用をやりたがらねえ。そんなんだから連携も微妙でよお。今まで潜ってたダンジョンも浅い階層で引き返すことが増えて効率が悪いったらねえぜ。こんなことならお前に戦闘以外のことぜんぶ任せてたほうがよかったわ」
俺がいなくなったことで上手くいってない、俺がいたほうがよかったと言われるのは正直、嬉しくないこともないし、すこしだけ「ざまあみろ!」と思わなくもない。
「サイモン、肉串できたよ」
「お、いいねえ」
リオに銅貨五枚を払って焼きたての肉串にかぶりついた。
「おお、これうめえな! 他の店よりぜんぜんうめえ!」
「それならよかった」
「やっぱりお前、冒険者には向いてねえけど、こういうのには向いてたんじゃねえの?」
サイモンは前に見たときと同じようにニヤリと笑って去っていった。
その後ろ姿に威嚇するリオをどーどーと落ち着かせながら、俺はすこしホッとしていた。同時に嬉しくもあった。
冒険者としてはスキルが使えないから失格、というのは悔しいけど事実だ。
でも肉串を売るような商売なら向いてるんじゃないか、とサイモンは俺の長所を認めてくれた。
すこし皮肉っぽいところはあるが、あれはあれでサイモンなりに褒めてくれたのだろう。
そう考えるとパーティを追放されはしたけど、そのこと自体をこれ以上うらんだりする必要もないように思えた。
サイモンは冒険者としての道を、俺は商売なりのスローライフの道をそれぞれ歩んでいけばいい。
サイモンに対しての、パーティを追放されたことに対してのわだかまりのようなものが少しずつほどけていくように感じた。




