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貧民区画へ

 お姫様との会談も終わり、俺たちはミラルに連れられて馬車にもどった。


「私は一度着替えにもどってから貧民区画へ向かいますが、みなさんも一度、一緒に見に行ってみますか?」

「俺たちは構いませんけど、一応、目的は聞いていいですか?」

「炊き出しを行っている教会へ食材や衣服などの物資をとどけるのです。教会には先ほどの姫様が気にかけていらっしゃった孤児たちもいるので、見ておくのをオススメします」


 なるほど、俺たちが治療薬をとどける子どもたちの暮らしを見てみては、ということか。

 それなら一度は見ておいたほうがいい気がする。

 貧民街というのがどの程度の荒れ具合なのかも気になる。

 スラム街といえば治安が悪かったり、犯罪が多かったりするものだ。

 街の雰囲気を肌で感じておくのも必要かもしれない。


「わかりました。俺たちもついていきます」


 ミラルは満足げにうなずき、馬車を出発させた。




 ミラルと俺たちは王都の貧民区画との境界あたりに来ていた。

 着替えた彼女の服装はセンタルの街で出会ったときと似た感じのどこにでもいる庶民風の格好だった。

 貧民区画となるとあまりお金持ちそうな格好をしていると犯罪に巻き込まれたりする危険性があるのかもしれない。


「それでは行きますね。あと注意点ですが、みなさんはこの区画では部外者です。部外者に対しては排他的なところがあるので、むやみに人に話しかけたりしないよう気を付けてください」

「わかりました」


 貧しいものは団結力が強いものだ。

 裏を返せば仲間以外にはあたりが強かったり、敵視する傾向があったりする。

 俺たちは少しだけ気を引きしめてミラルの後に続いた。


 すれ違う人たちの様子をチラッと見て、街の雰囲気を目で、耳で、肌で感じてみる。

 思っていたほど治安が悪い感じではなかった。

 たまに道端に倒れている酔っ払いがいたりもするが、盗みや強盗が日常茶飯事というわけではなさそうだ。

 街の人たちは質素な格好をしているくらいで、瘦せている人も多い。

 空き地で子どもたちが遊んでいたりもするのはそれなりに安全だという証明だ。


「思っていたより治安は良さそうですね」

「そう見えるでしょうね」


 含みのある言い方が気になった。


「ここは二つの組織が対立しているおかげで一定の治安が維持されているのです。逆に言えば、その均衡が崩れれば治安は悪化すると言われています」


 組織と言われると物騒だが、どういったものなのだろう。

 治安維持目的の組織というわけではないだろうし。


「言うほど物騒ではないですが名前を出したくないのでぼかしますね。貧民区域の者たちが中心となっている組織と、王都の商会がバックにいる組織です。この区画での商売をする権利をかけて対立しているわけです」


 くわしいことはわからないが、要するに商会同士の縄張り争いみたいなものか。

 元々、貧民区画だけでやってきた組織と、表で商売している商会が貧民区画にまで幅を利かせようとしている組織で対立しているってことかな。

 武力を使ったり犯罪を商売にしているわけではなさそうで少しだけ安心した。

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