促成栽培と治療薬
雪見草の採取を終えた俺とリオは慎重にアード山を下山し、ブルーウルフの俊足を活かしてセンタルの街までもどった。
「もどりました!」
ベクター先生の治療院の扉を開くと、つい先日に見たのとおなじ光景が広がっていた。
「おお、もう戻ったのか!」
「ライドさん、リオ、お帰りなさい!」
「無事でよかった、ライド、リオ!」
ベクター先生にイルファ、話を聞いて手伝いに来てくれたラキスが出迎えてくれた。
「詳しい話は診察室で聞こう」
ベクター先生についていき、診察室のベッドに腰を下ろした俺とリオは水を一杯もらい、ひと息ついた。
ようやく落ち着いてから俺はマジックバッグを開き、布で根と土を包んだ雪見草を取り出した。
「これが雪見草で合ってますよね?」
「うむ、間違いないね。よく取ってきてくれた」
「一応、ぜんぶ出しますね」
俺とリオが採取してきた雪見草をすべて出すと診察室の床が一面、雪見草で埋まった。
「こんなにたくさん……。誠にありがたい、ライドくん、リオくん」
「厳しい雪山でしたが、リオのおかげでなんとか登れました」
横のリオの頭をなでてあげる。「えへへ」と照れ笑いするリオが可愛らしい。
「それで治療薬ですが……」
「重症患者にはさっそく薬を作って飲ませたいと思う。それ以外は……」
「促成栽培をして雪見草を育成してから、ですね?」とイルファ。
「うむ、頼めるかね」
「もちろんです!」
イルファがここぞと元気に返事した。
雪見草の採取が俺とリオの仕事なら、ここから先はイルファの仕事になる。
数枚の葉をちぎり取ったベクター先生は、
「裏庭に氷室を作るための地下室を掘ってもらった」
「力仕事は私の専門だ」とラキスが力こぶを作ってみせた。
「さっそくで悪いが、地下室へ移動しようか」
「わかりました」
俺たちはベクター先生の案内で治療院の裏庭にぽっかり空いた穴の階段を降りていった。
ライトの魔法で明るくしてもらうと宿屋の二部屋分ほどの広さの空間が広がっていた。
「これだけの地下室を、よく……」
「ああ、ラキスくんに感謝だ。では、あとはイルファくんに頼んでもいいかね?」
「お任せください」
「周辺の土も持ってきたが、先にまいたほうがいいか?」
「そうですね、お願いします」
マジックバッグから取り出した群生地の土を地下室の中央に均等にまいていく。
それから雪見草を適度に距離を離してならべ、イルファの指示を仰ぐ。
「お手数ですが雪見草を土に植えていきましょう」
「私も手伝おう」
俺たち四人は雪見草の包みを丁寧にほどき、ひんやりとした土に穴を掘って埋めていく。
一面に植え終わり、これでもうイルファ以外にできることは何もない。
「まずは地下室の温度を下げるために氷を作っていきます」
地下室の壁に向かって、イルファが短く呪文を唱える。
かざした手のひらに青い魔力が集まっていき、
「アイスウォール!」
かざした手の先、壁一面を覆う氷の壁が生成された。
それを四方の壁に順番につくっていく。
これだけで一気に地下室の気温が下がった。
「次に元々の土にアード山の土をなじませていきます」
地面に植えた雪見草の群生にむかって手のひらを向け、意識を集中させていく。
土をなじませる、というとエルフ族の魔法になるのだろうか。
イルファの手に緑色と土色が混ざったような魔力が集まり、地面の土にキラキラとした粒子が降り注いだ。
「最後に、育成を早めます」
今度は純粋な緑色の魔力が濃くなっていく。
エルフ族だけが使える木々や草花に関する魔法。
こんな形で役に立ってくれるのはイルファがいてくれるおかげだ。
イルファの小声の呪文詠唱が終わると、地面の雪見草がじわじわと伸びはじめ、新たに葉をつけていく。
「これで、当面は大丈夫かと……」
よろけたイルファの肩を支えてあげた。
いっきに魔力を使いすぎたのだろう。
「ありがとう、イルファくん。これでもう少し葉を採取し、より多くの治療薬をつくれる」
ベクター先生はたくさんの雪見草から少しずつ葉をちぎり、白衣のポケットに入れていった。
先生のポケットがいっぱいになるまで取り終わり、俺たちは診察室へともどった。




