ハーフドラゴンの女騎士
ダンジョン入り口から出てきたのは四人の冒険者パーティだった。
正確には、わき腹から血を流している女騎士を男二人が両側から支えていた。
「誰か助けてくれっ!」
片側を支えているヒゲの男が叫んだ。
だが、入り口前にいるのはポーションを売り切って、あとは帰るだけの予定だった俺たち三人だけだ。
「何があったんですか!?」
「仲間がモンスターにやられて……!」
「だから一人でしんがりを任せるなんてムチャだって──」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないわよ!」
もう片方を支える若い男の内容から考えると、モンスター戦から撤退するときに女騎士が最後尾を守っていたということか。
だが、女魔法使いが言うように今はそんなことを言っている場合じゃない。
「君たち! ポーションか回復魔法を使えたりしないか?!」
俺たち三人は顔を見合わせた。
ポーションはすべて売ってしまったし、イルファは部族固有の回復スキルが使えない。
こめかみに汗が浮かんだ。
「このままじゃ街にもどるまで持つかどうか……」
「ねえライド! 今すぐここでポーション作れない? 余ってるポーションはない?」
リオの言葉に俺はハッとした。
そういえば一本だけ自分たち用にポーションを残していたのを忘れていた。
俺はすぐさまマジックバッグから予備のポーションを取り出した。
「一本だけだがポーションがある!」
「たのむ! あとで金でもなんでも払うから仲間に使ってやってくれ!」
燃えるような赤い髪の女騎士を地面に横たわらせると、すっかり青ざめた顔からは生気が失われていた。
まずい、体力が尽きかけている。
俺は彼女の後頭部をやや持ち上げ、うっすら開いた口にポーションを流し込んでいった。
とくとくと流れ込んでいくポーションがすぐに効果を発揮し、女騎士の全身が緑色の光に包まれた。
ポーションをすべて流し終えると、彼女の全身を覆っていた光がゆっくりと消えた。
「これで、どうだ……?」
「傷口は……かなりふさがったが、まだ出血がある!」
ヒゲの男が女騎士のわき腹の血を布で拭き取ると、新しい鮮血がじわりと流れ出した。
「体力は回復できたはずだが、これ以上の失血は……くそっ!」
「おい! しっかりしてくれよ!」
「ヤダ、こんなのヤダよぉ……」
泣き叫ぶパーティメンバーたちにかける言葉がない。
最後の頼みの綱であったポーションを使ってもキズが完全にふさがらなかった。
これ以上はもう打つ手がない。
そうあきらめかけたとき、
「あの、この方はもしかしてハーフドラゴン族ですか?」
唐突にイルファが男たちにたずねた。
ハーフドラゴン族?
伝説のドラゴンの血を引くといわれる種族のことか?
たしかに女騎士をよく見てみると赤い前髪に隠れて小さなツノが生えているが……。
「あ、ああ、たしかにハーフドラゴンだが、それが……?」
「それならドラゴンの圧倒的な自然治癒力を引き継いでいるはずです! ライドさん、彼女にテイムを!」
イルファの言わんとすることがすぐに理解できた。
俺のテイムで女騎士のドラゴン由来の自然治癒力を増強してみれば、ということだな。
一か八か、やってみるしかない!
「わかった! みなさん、ちょっと離れて!」
パーティメンバーを遠ざけ、横たわったハーフドラゴンの女騎士に片手をかざした。
意識を集中、一刻の猶予もない。失敗は許されない。
「……テイム!」
かざした手のひらが光ったと同時に熱くうずいた。
女騎士の全身が青い光に包まれ、ゆっくり消えていく。
テイムは成功。
しかして、彼女の自然治癒力は……。
「お、おお! キズが、ふさがっていく……!」
ヒゲの男が驚嘆の声をあげた。
女騎士のわき腹に残っていた傷口はみるみるふさがっていき、血痕を残して完全に消え去った。
「うおおおお!」
「やった! やったのよね!?」
「キズが、治った! 完全に治ったぞ!」
歓喜の声をあげる仲間たち。
赤い髪の女騎士が窮地を脱したことに安堵し、俺はドサッとその場に尻もちをついて大きなため息を吐いた。
「ライドさん、ありがとうございました」
「ライド、すごいよ! すごいえらい!」
「ありがとう。でも二人こそ本当にありがとうな」
俺だけじゃ彼女を助けられなかった。
予備用に残していたポーションのことを思い出せたし、亜人種族の特性を教えてくれなければ彼女を助けられなかった。
リオとイルファの言葉があって、三人いたから彼女を助けられた。本当によかった。
「これでなんとかなったと思います。あとは安静にして、異常が起こらないか見てあげてください」
「君、いや君たち、本当にありがとう!」
ヒゲの男は涙を流しながら深々と頭を下げた。
若い男も魔法使いの女も頭を下げた。
そして女騎士を三人で慎重に抱きかかえると、ゆっくり街のほうへ帰っていった。
「なんだかドッと疲れたな……。俺たちも帰ろうか」
「うん、帰ろう! お腹空いた!」
「帰ってゆっくり休みましょう」
リオとイルファに手を引いてもらって立ち上がり、俺たちも街へ帰ることにした。




