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第一話 ハングリー・ベイビーボーイその⑦

 「えっ、ちょ、それってどういうことだよ?」オレは半分以上理解しつつも、訊ねた。

 「どうもこうも、ウチの料理に原因があったかも知れないってことよ」おふくろは疲れたようにそう言った。

 「まだ分からんがな」腕を組んだままの親父。

 しばらくオレも二人と同じように固まってしまった。こんなの初めてだ。ウチのメシが原因で?すぐには信じられない。

 そういったデリケートな問題を抱えつつも、その日は店を開けた。詳しいことも分からないのに、休んでいいほど商売は甘くない。ま、テンションはかなり下がったけどね。

 普段から手のつかない仕事が、さらに手がつかない。親父やおふくろもそうみたいで、何度かオーダーミスが出た。

 客が途切れると、オレはスツールに腰掛け考えた。本当にウチの料理が原因で、タイちゃんは腹を壊したのだろうか。

 「なあ、本当に変なもの出してないよな?」嫌だけど、まずはここの料理を疑わなければならない。

 オレの質問に親父は怒ったように「当たり前だろが!」と言った。…だよな。飲食店にとって、食材の品質管理は最低限要求されるもんだ。それさえしっかりやって、旨い料理を出せば、店の内装がいくら汚くても客は来てくれる(キタナシュランみたいなな。オレ、あれ好きなんだよ)。あ、でもウチは内装も綺麗だよ?親父はそうでもないんだけど、オレとおふくろが綺麗好きなもんで。

 そう…。食材には常に気を配ってるんだ。でないと、この商店街で店を続けるのは困難なんだ。

 「んー…」

 昨日の夜もオレは店に出ていたし、タイちゃんの注文もオレがとった。…あー…何頼んだんだっけ、タイちゃん。多分トンカツ定食だろ?確認するため親父に訊く。

 「トンカツ定食だろ」

 やっぱりな…。こんなんだったら、オレの力発動しとけばよかった。駄目な物だったら出さなかったのに…。

 過ぎたことを言っても仕方ない。なら、次はそのトンカツを疑わなくては。真っ先に注目しなくてはならないのは、やっぱ豚肉だよな…。さすがに、「豚が駄目だったんじゃ?」と親父には言えない。だって、肉はケンゴんとこから仕入れてるんだ。近所で長い付き合いの肉太郎を疑ったりしたら、親父に張っ倒される。もちろん、オレだってこんなことを考えるのは嫌だ。だからと言って…肉以外考えられないしな。

 …ダメだな。やっぱり、実際にタイちゃんに話を聞いてみないと。くそ…。もっかい来てくれないかな、タイちゃん。もし、これが原因でタイちゃんが来てくれなくなったとしたら、それはむちゃくちゃ悲しいことだ。常連っていうのは、もうただのお客さんじゃないんだ。ウチみたいな個人で経営してる店ってのは、多くの常連さんによって支えられているんだ。それが、ガキの頃からこの店を見てきたオレの考え。


 風呂に入り、部屋でボーっとする。何もやる気が起こらない。

 オレの頭の中にあるのは、「疑惑のトンカツ定食」のことでいっぱい(…何でだろうな、ついこの間までは食べ物のことを考えないようにしていたのにな)。

 何がいけなかった。豚か?衣か?キャベツか?卵か?まさか、食器か?

 …「賞味期限が分かる」っていうオレのこの力、こんな時に役に立てなくてどうするんだよ。

 …………………………


 ……………………………


 ………………………………やっぱり、オレには我慢できない。

 このまま、何が原因でタイちゃんが腹を壊したのか曖昧にしておくことは、オレにはできない。

 原因は絶対に突き止める。原因がウチにあろうと、商店街にあろうと、はっきりさせる。

 そう決意したオレは、明日から色々と動くことにした。無論、親父達には内緒で。

 けど、大事な所はタイちゃんが来てくれないことには分からないんだよな。

 オレは「はあ」とため息を吐くと、寝転がり、しばらく天井を見つめていた。


 次の日、学校でケンゴにほんの少しだけ探りを入れる。「なあ…お前んちで何か変なこと起こったりした?」

 「変なことって何だよ」

 「ヤバイ肉出して客から何か言われなかったか?」とはさすがに言えない。ケンゴの反応を見る限り、肉太郎では何か問題は起こっていないらしい。

 「いや、何でもない」怪しまれる前に話を切り上げる。

 「…気持ち悪いな。はっきりしろよ」

 「なーんでもないっつの。バカか」本当は大アリだっつの。

 怪訝そうな表情で、言い換ええれば、かなりムカつく顔でオレを睨んでくるケンゴ。やべえな…殴りてえ。

 しかし、ケンゴは「はあ、まあいいか」とすぐに表情を戻すと、今度は面白そうに笑い、言ってきた。「それよりも知ってるか?」

 「何を?」

 「情報屋の話」

 「はあ!?」思わず吹き出してしまった。いきなり何言ってんだこいつ。「情報屋」なんて言葉、リアルで聞いたの初めてだ。「は…っ、な、何それ?すべらない話とか?」

 「違うって。マジな話だよ。最近学校でウワサになってんの」

 興奮気味に、話したくてたまらないって感じのケンゴ。

 「まーじで言ってんの?面白えなあ」机に頬杖をつき、窓の外を眺めた。暖かそう。春だからな。春になると、何でバカみてえな奴が現れるかね。オレの顔はバカらしさでゆるみっぱなしだ。

 「駅前の噴水公園あんだろ?たまにあそこのベンチに座ってるみたいで、欲しい情報があれば教えてくれるんだってさ」

 ケンゴはこういった話が大好き。学校の怪談、七不思議みてーなの。

 「ただの都市伝説だろ」

 「オレもそう思う」思うのかよ!心の中でツッコミをいれる。「でも、本当かも知れねーじゃん。妙にリアルだし、商店街からも近いしさ」

 まあな。お前の目の前には賞味期限が分かる男が座ってるんだからな。何があったっておかしくないよ。

 ………ん?駅前噴水公園、ベンチ?あれ、何か最近そんなシチュエーションあったな。

 …思い出せないけど、どうでもいっか。忘れるってことはどうでもいいってことだからな。だって「情報屋」だぜ?公園のベンチにいるわけねえもん。リアルな情報屋ってのは、24時間営業のファミレスで、ノートパソコン二台置いて一日中依頼客を待ってるんだ。金属アレルギーなのにいろんなところにピアス開けてたりな。


 なんだか何も解決しないまま学校が終わった。気分はもやもやしてる。どうにかして当事者のタイちゃんから話を聞きたかった。ケータイの番号とか聞いてればよかった。

 そんなオレの思いを裏切るかのように、その日の夜、タイちゃんは店に現れた。

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