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第一話 ハングリー・ベイビーボーイその④

 ………なんとか…なんとか無事に学校を終わらせた。ケンゴとシンヤに多少怪しまれたが、まだ許容範囲内というやつだ(?)。

 けど…分かるだろ?オレんちって…定食屋なわけ。

 嫌でも食べ物見ちまうじゃねえか!

 ………もう、こんなこと考えてる時点で異常だ。そんな気持ちも知らずに、隣ではケンゴがアホみたいな顔してる。もーやだー。何でオレがこんな目に!?

 「な、なあ?ゲーセン寄ってかね?」

 「はあ?急にどうした?つか、お前から誘うなんて珍しいな?」

 「いや…それは…」

 言えねえええ!!!「家に帰りたくないから…」なんて言えねええーーー!!

 「お前って、家の手伝いメンドクセーとか言ってっけど、何だかんだで早く帰って、きっちり手伝いしてるからさあ」

 「ッ…だからどうした」

 「えー?いや、親思いの良い奴なんだなーって。寄り道だってあんましねーじゃん」

 「…」

 いいですからッ!ここでオレの好感度上げるような発言必要ないですから!そんなんクラスの女子の前でやってくれよ頼むから!


 結局寄り道はなし。…ま、オレもゲーセンなんて寄りたくなかったからな。おそらく時間つぶしにもなりはしなかっただろう。あんな所で金使ってる奴の気が知れねえよ。クレーン動かしたり太鼓叩いたりとか。そんなことに金使うんだったら、新刊の小説でも買った方がマシだと思うよ。ハードカバーとまでは言わないけどさ。ちなみにオレは推理小説だって新刊のラノベだって読んだりする。読書の趣味は広いほうが断然楽しい。でも、何故かオレが本読んでると珍しがられるんだよね。

 昨日と同じように肉太郎で別れ、家に到着。気が滅入る…。

 言ってなかったけど、ここは商店街なわけ…。帰り道には「八百屋「魚屋」「果物屋」何でもありだって。はあーあ。魚屋の魚の目が全部オレを見てた気する…。

 「ただいまー…」


 笹の葉、開店。

 オレは自分専用のスツールに座り、激しく貧乏ゆすりをする。テレビではニュース番組が流れていた。今のオレには、日本の政治なんかよりも「食べ物が気になる若者」って特集を組んで欲しかった。そうすれば、食い入るように見るのに。流れで他のニュースも見ちゃってさ。そうしたら将来有望な若者がここに一人生まれたかも知れないってのに。そうやって日本の若者は可能性を無くして行くのだと思う。オレもそうだけど、オレぐらいの年頃の奴って何に対しても無関心の奴が多い。興味あんのなんてモテるにはどうすればいいか?ぐらい。バンド組んだり、流行のファッション気にしたり。なあ、どうすりゃいいんだろうな?気付いたときにはもう遅いんだ。気付いたらもう、フリーターかニートなんだから。

 生意気なことを言ったけど、オレはもうモテることさえ考える余裕はない。あるのは、「どうすれば食べ物を気にしなくなるのか」だ。どう?日本の将来危ういだろ。

 ゆっくりと、だが、確実に時間は過ぎていった。一人目の客が来た時点でオレはもう、うん…。限界だった(笑)。

 「悪ィ親父!ちょっと出てくる!」そう言ってオレは、エプロンを着けたまま店を飛び出した。

 「あ!?お、おい!サク!」

 後ろで親父が叫んでいたが、そんなもん知るか!どうせ客はそんなに来ないし、来たってまともに接客もできねえんだから、オレがいなくても大丈夫だろ!

 今はもう、一人で落ち着いて考えたかった。

 店を出ると、アーケードを抜け駅前まで走った。その最中にも、横目に野菜やフルーツが入る。


 駅前の噴水公園。夕方だから帰宅途中の学生やサラリーマンの姿が目立つ。春の夕方はまだ明るく、少し肌寒かった。

 もう少しすればここも完全に夜の姿へと変わる。ネオンが光り、昼間よりも明るい空間で酔っ払いやコンパ帰りの学生、ストリートでのダンス、演奏。色んな奴で埋め尽くされる。そこに静けさや気品さってのは一切無いけど、オレはそういう風景を離れて見るのが結構好きだ。それがこの街の、ありのままの景色なんだからな。ここで生まれて育ったオレからしたら、それが当たり前なんだ。

 けど、そうなるにはまだ時間が掛かる。オレは空いていたベンチに勢いつけて体を預ける。どっと疲れてきた。空を見上げると、すっきりと透かされたような色をしていた。

 しばらく流れる雲を見て、隣のベンチに目を移した。気付かなかったが、一人だけ女の子が座っていた。左胸に校章の入ったブレザーに、タータンチェックのスカート姿。ウチの学校の女子の制服。髪はすごく長い。腰くらいまであって、ベンチの背もたれに沿って下りている。暗さのせいで正しく分からないが、多分黒髪。ここからでもきめ細かで繊細なのが分かる。めっちゃキレー。顔も…やっぱよく分かんないけど、結構カワイイ(と思う)。今時珍しい清純派って感じ?背もオレより全然低そうだし、顔も幼いから、一年かもしれない。

 一瞬声かけようかと思ったが、止めた。そんな気力も余裕も無かった。それに、その少女、この暗さで読書してたんだもん。字読めんのかな。目悪くなるよ?

 そう思った時、少女と目が合ってしまった。すぐに逸らせず何秒か見つめ合ってしまった。うん…やっぱかわいい。一年にこんな娘いたのか。…って思ってる場合じゃない。良い機会だし声掛けてみようか。が、その瞬間、少女に先に目を逸らされてしまった。何の表情も見せずに。しかも読んでた本を閉じ、ベンチから立ち上がって、そのまま去ってしまった。

 …無愛想な奴。一個下だとしても、最近のガキって何考えてんだかよくわかんねえよな。オレも、あんたも含めて、さ。…変態にでも見えたかな…。この暗さで、しかもエプロン姿。まあまあヤバイか?


 そっから一時間。ベンチに座って色々考えた。今さらもう帰れないからな。休むときはとことん休む。いつも手伝ってんだから、たまには良いよな?


 何か、BGMが欲しかった。近くでストリートミュージシャンがギター弾いてるけど、今日のはハズレ。

 へたくそな演奏の中、最近オレの身に起こったおかしな出来事を思い浮かべていく。

 

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