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第二話 ザ・ヘアーその⑥

「ま、待て待て……」

 少女のいきなりの提案にオレは呆れていた。この子が言うことは分かる。ペットを家族のように愛する人がたくさんいることは知っているし、目の前にいるこの子がそういう人間だってのも分かる。そうじゃなければ、張り紙してまで飼い犬探すか?悪いが、オレはそこまでして探さないね。

 ただ、オレが断ろうと次の言葉を言おうとした時だった――……。

「いいよ!」

 それは隣から聞こえた。今のオレとは真反対な明るく能天気な声。

「おい、バ――」

 言おうと隣を向こうとした瞬間、今度は正面からの声にそれを遮られた。

「本当ですか!?」

 こっちも明るい声。それでいて驚いている声。感謝している声。

 まいった……。これは……。


 今さらオレが何と言おうと、オレ達が犬を探す展開は避けられそうにもなかったので(いや、オレは探すなんて一言も言ってないんだけど……手伝わないと一人悪者になっちまうだろ)、オレとケンゴは少女から詳しく話を聞いた。

 ボナパルトが消えた簡単な経緯はこういったものだ。

 散歩中に少し目を離した瞬間、どこかに行ってしまっていたらしい。……簡単に言いすぎかな。でも、本当にこうなんだ。リードは付けていたらしいけど、広い場所では外して遊ばせていたらしい。

 オレ達も、昨夜どこで見かけたかを話す。すると、あの公園がボナパルトが消えた場所だった。無論そこは真っ先に探したらしいが、どこにもいなかったと、少女が肩を落とす。

「私のせいです……。私がもっとしっかりしていれば……」

 少女は誰が見ても分かるような落ち込みぶりで、今にも泣きそうだった。

 自分を責めているんだな。ペットを飼っていないオレには理解できない感情だろう。飼っていたとしても、落ち込んだりしないだろうけど。相手は動物なんだ、こっちの言葉を理解しているとも思えないし、逃げたりもするんじゃないか?……そう考えてるから。もし、オレが犬だったらそうしてるね。

 愛犬家のあんたは「そんなことねぇよ」って言うかもな。けど、それも実際に飼ってみないと分からないだろう?その楽しさも、大変さも、悲しさも、さ。

 まぁ、それを目の前のこの子に言うつもりは無い。他にやらなきゃいけないことだってある。

 オレは少女の頭に手を乗せ、言った。

「まずは自己紹介からだ。お互いにな」

 話を聞いた以上、いつまでも「少女」とか「女子中学生」とか言ってられないからな。それに、今のこの状況だと、オレらが女子中学生をどうこうしているように見られかねない……。


 少女の名前は、大崎渚(おおさきなぎさ)といった。

 オレとケンゴも軽い自己紹介を済ませる。ナギサとの間にあった「赤の他人」というバリアーも幾分弱まり、少しだけ距離が縮まった気がする。

「それにしても、犬にボナパルトって名前付けるなんて、良いセンスしてるよな」

 ケンゴがいきなりそう言った。言葉どおり本気で感心しているみたいだ。

 これ以上、「犬がどこでいなくなった・逃げてしまった」原因云々をナギサに聞けば、先程のように自分を責めさせてしまう。ケンゴはそう考えて、全く関係のない話を振ったのだろうか。そこまで考えているようには見えねーけど。

「ナポレオンだろ?」

 オレもケンゴに合わせ、特に意味の無い会話に乗る。

 乗った……はずなのに、ケンゴは「マジかよこいつ」って、冷めた眼をオレに向けてきた。

 ……何でだ?

「そうじゃねーよ。『犬』にボナパルトって名前付けてることを褒めてんの!」

 若干怒ったような、熱気のこもった感じの口調でケンゴが言う。

 やはり意味が分からないオレは「だから!ナポレオンのこと言ってんだろ?フランス皇帝の!」と、改めて言ってやった。ケンゴに釣られて、こっちも口調が荒くなる。

 それを聞いたケンゴは「やっぱこいつ分かってねえ」とでも言いたげな顔で、大きくため息を吐いていた。

 ――そして次の瞬間、理解不能な台詞を言ってきやがった……。


「犬にボナパルトっつったら、『メダロット』に出てくるあのボナパルトだろーがッ!」


「いや……」瞬間、思考が停止してしまう。

 やっとのことで「どのボナパルトだよ!」とツッコむのが精一杯だった。

「はあ?おい!おいマジかお前!お前『メダロット』やったことねーのか?」

 信じられないといった表情のケンゴ。

 何故だろうか。こうまで言われるとオレが悪いみたいに思えてくる……。

 このまま放っておくとケンゴが暴走(オタク的な意味で)しかねないので、オレはナギサにも何か言ってもらおうと視線をそちらに向ける。

 ……オレが期待していたのは、ケンゴの言葉を否定する、ないし「ボナパルト=ナポレオン」という、飼い主からの裏づけだった。それがあればケンゴを黙らせることができるからな。

 ……しかし。

「わあ!そうです!ウチのボナパルトの名前、『メダロット』に出てくるボナパルトから付けたんです!」

 ……と、嬉しそうに、瞳をキラキラさせながら、言ってきた。


 ……さて。ここまでの流れ全てを理解できた人はいるかい?

 ……いないよな。みんなオレと同じ心境だと思う。

 なので一応説明はさせてもらうよ。オレも知らねーから、ケンゴに聞かされたことをそのまま説明するだけなんだけど。

 まずは「メダロット」って単語。

「メダロット」とは、元々ゲームボーイソフトの一つとして発売されたゲーム、及びそのシリーズなのだと。

 ボナパルトっつうのは、その「メダロット」の第一作の主人公、ヒカルくんの愛犬で、このボナパルトのおかげでヒカルくんは自分のメダロット(メダルをはめて動くロボット、略してメダロット)を持つことができた。……ざっくり言うとそんな感じ。

 つまりボナパルト(メダロットの)は名犬ってこと。その名前をリアルで飼い犬に付けるセンスを、ケンゴは褒めていた……というわけ。

 オレやみんなにとって、非常にど――――でも良いこの情報。

 しかし、ケンゴとナギサにとってはそうでもないらしく、ワイワイキャイキャイと盛り上がっていた。

「でも、何で『メダロット』知ってんの?ナギサちゃん、メダロット、世代じゃないでしょ?」

 一応補足入れると、オレもケンゴも「世代」じゃない。「メダロット第一世代」は、オレらより何コか上の人達のはず。

「はい!私、小さい頃からゲームとか好きで……。メダロットは小6の時、中古で買ってプレイしたんです。ゲームの評価とかも高かったし。私これやるためにゲームボーイも買いましたから!」

「すげーな……。何バージョン買ったんだ?」

「カブトです!やっぱり、メタビーですよ!」

「オレは2も3も、全部クワガタだったなー」

「一発目に頭パーツ破壊されたときなんてトラウマになりましたよ」

「確かに!クワガタなんて左右の腕パーツやられたら、索敵しかできないから辛かったぁー……」

「カブトは頭、ミサイルですもんね」

「貫通ダメージでゲームエンドなんてしょっちゅうだし」

「ベティベアの脚パーツ壊してティンペット丸見えになった時とか、あまりのアンバランスさに笑っちゃいましたよ!」

「そういや、メダロットDSは?買った?」

「もちろんですよ」

「どうだった?オレまだ買ってないんだ」


「めちゃくちゃオモシロイですよッ!」


 ……二人の「メダロットあるある」は続く。

 この疎外感たるや。

「お前ら!いい加減にしろ!」

 誰もが「メダロット」知ってると思うなよ!そうでなくともオレはあまりゲームやらないんだから。

 二人はハッと我に返り、苦笑いにも、照れ笑いにも似た笑みを浮かべていた。

 ……やれやれ。今はその、お前らの大好きなメダロットに出てくるボナパルト(リアル)を探すことが先決だろうが。


 その後は話を戻し、ボナパルト探しについて話し合った。

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