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第一話 ハングリー・ベイビーボーイその⑩

 いいですか?まず「バビロン」についてです。移動店舗型のクレープ屋「バビロン」は、基本的に気まぐれで駅前周辺に現れます。開店した時期なんかは知りません。気付いたらいました。主な客層は女子中高生で、忙しくなるのは下校時ですね。なのでそういう時間帯を狙ってあの辺りをうろつけば、高確率で出会えるんじゃないですか?知りませんけど。クレープの製造と販売は一貫して中にいるおじさんです。本名は知りませんが、あだ名は「ジャム夫」です。クレープ屋をしようと思ったきっかけは「ヒマだったし、普通の企業に就職できなかったから」……だそうです。

 「けっこう適当だな」

 真面目そうな見た目に対して、少女の情報は真面目なものではなかった。

 少女はうっすらと笑うと「責任なんて持ちませんので、何をどう思われようと構いません」と、言った。

 オレも納得し、苦笑すると「バビロンのクレープで何か問題が起きたことは?」と訊ねた。おっさんの話なんてどうでもいいからな。

 「問題?衛生面での話ですか?」

 「ああ」

 「不衛生そうなおじさんが作ってる割にそういったことは起こっていません。私調べでここ数年の話ですが」

 「……そうか」

 それはオレも確認済みだ。「他の店についても教えてくれ」


 では次に、たこ焼き屋「タコ太小太郎」についてです。

 こちらは正確に「曜日」と「時間帯」で店を出していますね。火・木・土曜日の夕方です。言っておきますが、私調べですので決まった曜日とかはないのかもしれません。ここは店長である中年のおじさんと、バイトらしき若い人達が交代でたこ焼きを売ってます。味……というか、どのようなたこ焼きかと言うと、外はカリッ、中はトロッ……って感じのたこ焼きです。万人受けしそうなタイプですね。

 タコはもちろん、他の具材にもこだわっており、お値段は若干高めになっています。値段のだけあって、美味しいですが……。

 「まさか……衛生面に問題が!?」身を乗り出す。

 ……いえ。結構な確率でタコが入ってません。がっかり感はありますが、常連にはそれもご愛嬌らしいです。

 「……なんだ」

 ついに来たかと思ったのに。こっちのがっかり感はどうすんだよ。

 「さっきから衛生面が気になっているみたいですけど……その部分だけ話しましょうか?」

 不思議そうな顔をし、気を遣ってくれる女子高生。やっぱ最近じゃ珍しい。何気に敬語だし。オレが年上って知ってるのかな。

 「いや……なるだけ情報が欲しい」

 かいつまんで話してくれるのはありがたいが、重要な情報を聞き逃したら元も子もない。


 じゃあ、たいやき屋「ているや」です。たいやき屋ではありますが、他にも大判焼きとかも売ってます。良い意味でも悪い意味でも「フツー」なたいやき屋さんです。その自覚があるのか、最近は「白いたいやき」にも負けないオリジナルたいやきを考えているみたいですが……結果は芳しくないようです。

 気になる衛生面ですが、問題無しです。

 「そうか」

 力なくそう答える。……まずいな……詰んだか?


 最後に……カレー屋「ガーネシア・エレバンティス」です。

 ……とは言っても「ガーネシア・エレバンティス」についての情報はあまりありません。


 「どういうことだ?」少女がそんな消極的なことを言うのは、何だか想像できなかった。カレー屋についてもすらすらと情報が出てくると思ったのに。

 「『ガーネシア・エレバンティス』はつい最近オープンしたお店だからです。私もまだ実際に食べていません」

 ってことは、これまで出てきた店のものは全部自分で食べていたのか。なるほろ。情報は足で稼ぐってやつだな。ネットだけで得た貧弱病弱な情報じゃない、骨太な情報ってわけだ。変なところで感心してしまう。この子には感心しっぱなしだな。


 そうか……。オレが(ガーネシア)エレバンティスを知らなかったのは、最近オープンしたからなのか。

 しかし、これでは本当に詰んでしまう。次はどこをどう攻めればいいんだ……。

 苦悶の表情を浮かべるオレに対して、少女が口を開く。次にそこから出てきた言葉は、復活の、起死回生の言葉だった。

 「ですが……気になる話を聞きます」

 「気になる?」

 「はい。『ガーネシア・エレバンティス』は本場インドからやって来た、純粋なインド人の人が経営しているお店なんですが」

 「それがどうかしたか?」インド人が経営するカレー屋なんてごまんとある。気になることでもないと思うが。

 「いえ……」


 実は、そこでカレーを食べたお客さんの大体が……

 お腹を壊しているそうです。


 体が勢いよく跳ね上がった。

 それだ。完全にそれだ!

 「本当か?」立ち上がり少女へと詰め寄る。

 「これは間違いないです。一人二人の話ではありません。オープンして間もないというのに、既に数十人が謎の腹痛に襲われています」

 至近距離からオレに詰め寄られても、少女は一切表情を変えなかった。

 

 「ガーネシア・エレバンティス」……タイちゃんが腹を壊したのはこの店が原因なのか?少女の話からすると、疑う余地は無さそうだけど……。

 だが、繋がった。まだ終わってない。

 「ありがとうな!」

 スクールバッグを肩に掛け直し、オレは「他称・情報屋」の少女に礼を言った。

 「こんな話が役に立ったのなら」抑揚の無い声でそう言う少女。視線は一度「ジョジョ」に向きかけるが、さすがに暗くて読めなかったのか本を閉じ、ベンチから立ち上がった。もう帰るらしい。

 「なあ!」

 オレは帰ろうとする少女を呼び止める。「お前っていつもここに居んの!」

 少女は怪しい何かを見るように、少し目を細め「これ、全巻読み終わるまでは」と言い、公園から出て行った。

 ジョジョの文庫版は現在50巻出てる。

 まだまだあの「他称・情報屋」にはここに居てもらわないといけない。ストーリーの展開的にもな。裏技みたいな存在で、さ。


 オレも公園を出て、家の手伝いへと向かう。テンションは最高潮。明日は怪しいカレー屋でカレーだ。

 どうでもいいけど、ウチのメニューにカレーは無い。

 なんつーか、節操がないように思えるだろ?なんでもかんでも手出してさ。それで失敗したら自分を責めるしかないもんな。

 っま、日本人なんて節操のない人種の集まりだもんな。クリスマスとかバレンタインとか。

 けど……その無節操なゆるい感じが、オレ達に合ってる。そうは思わないか?

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