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第1話:戦えない私の選んだ道

はじめまして、作者の橘芳佳です。


この物語は「スキルGランクの少女が、戦わずしてギルドを経営することで世界を変えていく」というスロー経営ファンタジーです。


戦闘ではなく、組織づくりと人との絆、そして経営スキルで逆境を乗り越える姿を描いていきます。どうぞ気軽にお読みください!

【第1話 戦えない私の選んだ道】


この世界では、強さこそがすべてだった。

魔物を斬り伏せ、国を護り、人々を救う冒険者たちは、常に賞賛と憧れの的だった。


――でも、私は違った。


リュフタリア王国某所、冒険者ギルドの受付で告げられた、あの言葉。


「全スキル、Gランク判定ですね。えっと……記録上、最下位です」


目の前の受付嬢が、気まずそうに視線を逸らす。

私は紙に書かれたステータス一覧を見つめた。


剣術G。魔力G。俊敏性G。体力G。知力……すらG。


(本当に、何一つないんだ……)


呆然とする私に、受付嬢は小さく囁いた。

「……このまま冒険者を目指すのは、おすすめできません」


それが、“冒険者になる夢”の終わりだった。この世界の人は十六歳になると冒険者登録ができる。私も十六歳になったと同時に、さっそく登録しに行った。なのにあんな結果に……。


でも、それでも私は、あきらめたくなかった。


剣も魔法も使えないけど――誰かの役に立ちたい。


戦えなくても、人を助ける方法はきっとある。

なら、私だけのやり方で、“冒険”を始めよう。


「よし、ギルド……作っちゃおう!」


実は私は異世界転生者らしい。前世の記憶はぼんやりしているけれど、どうやら会社やお店の経営、あるいはコンサルティングのような仕事をしていたのかもしれない。そのせいか、私はユニークスキル「経営学」を持っていた。(それ以外のスキルは、やっぱりGランクだった)


そこで何かを経営してみようと思ったしだいにございます。あとオリジナルスキル「笑う門には福来たる」。どんな能力かはわからないが……。


◆   ◆   ◆


街のはずれ、かつて酒場だった建物。

いまは誰も使っておらず、埃だらけだったその場所を、私は借りることにした。


持っていた全財産の半分以上を払って、机や椅子を買い揃える。

看板は自分で木を削って、「ひだまり」と彫った。


ギルド《ひだまり》。


名前の意味は、そのまま。「あたたかい場所」を目指してつけた。


冒険者を支えたい。困っている人の依頼を、誰かにつなげたい。

それが、私にできる冒険のカタチ。


依頼掲示板も作った。カウンターに小さな花瓶を飾り、ドアには鈴をつけた。

開業初日、私は胸を高鳴らせて、ドアを開けた。


……けれど、誰も来なかった。


看板を見てくれる人はいても、中に入ってくる人はいない。


数日間、依頼も人もゼロ。

私はカウンターで帳簿をつけながら、それでも笑顔を絶やさなかった。


(大丈夫、最初からうまくいくなんて思ってないし)


そんなときだった。


ギギィ、とドアが開いた。

入ってきたのは、無愛想そうなショートカットの少女。


「ここ……ギルドなの?」


「うん、できたてホヤホヤの《ひだまり》へ、ようこそ!」


私が笑顔で答えると、彼女はじっとこちらを見つめた。


「ふーん……あんたがマスター?」


「うん、カエデっていいます!」


少女は腕を組み、しばらく沈黙してから、こう言った。


「リン。弓、少しは使える。……入っていい?」


私は思わず立ち上がった。

「もちろん、大歓迎だよ!」


数日後、リンが連れてきたもう一人の少女――メイも加わった。

彼女はリンの妹で、魔法が少しだけ使えるらしい。

でも、自信なさげに顔を伏せていた。


「わ、私なんて……戦えないし……すぐ怖くなって……」


その姿に、私はかつての自分を重ねた。

だから、そっと手を握った。


「大丈夫。ここは、無理しないでいい場所にしたいの」


メイはぽろっと涙をこぼし、そっと頷いた。


戦えなくてもいい。

誰かを支えることが、私たちの戦い方。


こうして、ギルド《ひだまり》は、たった三人の小さなチームとして歩き始めた。


この時はまだ、現実の厳しさも、運命の波も知らずに――。


【カエデのギルド経営日記】


今日は人生の転機の日だった。

スキルがG判定しか出なかったときは、さすがにへこんだけど……。

でも、前世の記憶? ユニークスキル? よくわからないけど、経営って楽しそう! って、思ってしまったんだよね。

リンとメイが来てくれて、ギルドに命が吹き込まれた気がする。

私は、私らしく、人の笑顔のために頑張ってみよう。


【経営Tips】


「最初の顧客は、あなた自身を信じてくれる人」


ビジネスを始めるとき、最初からお金を払ってくれる“お客様”がいるとは限らない。

でも、“信じて一緒にやってくれる仲間”は、何よりの資産。

カエデが作った《ひだまり》も、まずは仲間集めから始まった。

経営の第一歩は、人の心を動かすことから。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


戦えないカエデが、自分なりの方法で一歩を踏み出すお話でした。

まだまだ道のりは始まったばかりですが、少しずつ仲間も増えていきます。


応援や感想をいただけると、とっても励みになります!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。


次回予告

第2話「看板は立ったけど、お客は来ない」

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