つまりお前は! 適塾3の1
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「谷藤やるじゃん!それはセンスあるよ。センスない先生には一生思いつかない返答ですね。」
ここまで話したところで、神崎先輩が口を挟んできた。3回目のトライが終わった後、俺はまたタイムリープして適塾にいた。
「キィーッ、なんだよ神崎、毒舌メガネのくせに谷藤には甘いんじゃないか。俺だってそんくらいの返答秒で思いつくわ、おっさん舐めんなよ。」
塾長が悔しがって言う。でもこれに関しては塾長の言うとおりだ。
「いや絶対無理ですね、100回転生したって先生には無理ですよ。」
それがたったの2回でできたんですよ! 心の中でつぶやいた。塾長ごめんなさい。タイムリープのことがバレると何かまずいことが起こる気がする。多くのストーリーでは転生やタイムリープのことは知られてはいけない、知られると世界が破綻するものも読んだ覚えがある。そもそも信じてもらえないだろうし。俺は塾長に申し訳なく思いながらも黙っておくことにした。
「キィーッ、思いつくもん、絶対思いつくもん。なんなら俺が谷藤に教えた気がする。うんっ、なんかそんな気がするぞ、なあ谷藤。」
その通りです塾長! ズバッと言いかけたが、すんでのところで思いとどまる。
「あっ、言われてみればなんか授業で教わったような気がします。」
俺はあやふやに答える。
「気を使わなくたっていいぞ谷藤。先生がそんなセンスある返答思いつくわけないんだから。それに、いったいなんの科目でそんなの教えるんですか。もし本当なら教えていただきたいですね。」
「キィーッ、教えたもん、絶対教えたもん。」
塾長がいつも通り子供っぽく悔しがる。
「あっ、そうだ!思い出したぞ。国語だ国語だ、教科書の文章問題だ。きっとそうだ。こんな問題だったぞ。」
塾長は何かを思い出したらしい。近くにあったホワイトボードにサラサラと問題を書き始めた。
問1
『そっか、つまりお前はそんなやつだったんだな。』
友人に言われてしまった主人公、さて何をした?
模範解答
『今日のパンツの色を聞いた』
問2
問1の答えをふまえて、つまり主人公はどんなやつなんでしょうか?文中から漢字2文字で抜き出せ。
模範解答
『変態』
「はい、正解!」
「『はい、正解!』じゃないですよ。そんな大喜利みたいな出題あるわけないでしょ。『変態』が文中にあるわけないし。」
こんな出鱈目にも神崎先輩は冷静だ。
「ふっふっふ、神崎残念! この本文中には『蝶の変態』ってフレーズが出てきまーす。」
塾長が得意気に言う。それ、あたかもしれない!
「ぐぬぬ。確かにあったかもしれませんね…。」
神崎先輩が珍しく動揺している。
「うっそーん!」
塾長が大人気なく言う。おいっ!
「生徒に嘘教えるとかこの塾どうなってるんですか。それによく考えるとこんな問題だったら、『人にパンツの色を聞くときは…』ていうの教えないじゃないですか。」
いつも冷静な先輩が珍しく少しイライラして言う。
「キィーッ、そうだっ、友人が聞いてきたんだった。主人公にパンツ何色って。」
「聞いてくるわけないでしょ、なんの話ですかそれ。もう元の話要素ゼロじゃないですか。こんなの素で教えてたら変態塾ですね。改名したらいかがですか。」
「キィーッ、そんなことしたら生徒が中島だけになるだろうが!」
相変わらず怒るポイントがおかしい。
「何言ってるんですか、僕も辞めませんよ。改名させた責任を取らないといけませんしね。僕の適塾愛をみくびらないでもらえますか。」
なんだかんだ言って神崎先輩は適塾愛が強い。まあ改名されたら変態塾愛か…。
「辞めないんかーい。俺は神崎のことを誤解していたよ。」
少し嬉しそうに塾長が答える。
「さっき言ったように変態には昆虫とかが幼生から成体に変わるって意味もあるしな。塾の名前としてありかも知れない。『変態』の『変』に『変態』の『態』で『変態塾』。あれ!? 意外といいんじゃないか? 検討の価値があるかも知れない。」
おい、このおっさん何回変態って言うんだよ。頼む検討しないでくれ! 俺は心の底から願った。
「ゲヘヘー、ガキンチョから立派な変態に『変態』する塾ってか。俺様が講師やってやろうか。」
「よし、頼むぞ中島!」
頼まないでくれー、このままじゃまずい。俺にとって貴重な居場所が無くなりそうな流れを止めるために、俺は話を戻した。
「で、続きを聞いてくださいよー。」
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