お前みたいなかわいい子が! 新幹線3の1
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「おい、谷藤! 寝てんじゃねーよ」
俺はいまや聞き慣れた今野の声で目を覚ました。頭の中はぼんやりとはしているが、すぐさま状況を把握する。新幹線の車内、窓には富士山、目の前には今野、やっぱり俺は寝るたびにタイムリープしているようだ。
「塾長、だから結婚できないんすよ」
俺はわざと前回と同じことを言う。
「テメェ谷藤何言ってんだよ! 私塾長じゃねーし、寝ぼけてんじゃねぇーよ」
きた! やっぱり同じだ。
「はいはい、お前みたいな可愛い子が結婚できないわけないしな」
「テッ、テメェ、な、何言ってんだよ。気持ちわりーな」
今野が驚いたような表情でこっちを見る。心なしか顔が赤くなっている気がした。ん、あれ、俺何言ってんだ! 前回のやり取りを思い出してつい口に出してしまった。女の子に面と向かって可愛いなんて言ったのは人生初かもしれない。こっちも顔が赤くなる。
少しの気まずい沈黙の後、気を取り直した今野が聞いてくる。
「マジ超ブルーなんだけど」
こっちが憂鬱なんだよ! ほんと無礼なやつだ。でもこの流れは……。
「谷藤、今日のパンツ何色よ?」
きたー! 今度こそは返しに間違いはない。なにせ俺は正解を知っているんだ。「俺はこのために適塾に通っていた」まである。俺は余裕を持ってゆっくり立ち上がった。「やるじゃん谷藤」「谷藤すげぇ」明るい未来が脳裏をよぎる。ありがとう神崎先輩、ついでに塾長も。俺は用意してきた心の中の正解をみんなにも聞こえるように高らかに読み上げた。
「ママに教わらなかったのか、人にパンツの色を聞くときはまず自分からだろ」
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