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通貨発行

ここはニッポン国、タイクーンの治めし国。



☆オエド城・御前会議



「会議を始める。本日の議題は、通貨制度の見直しであったな。何が問題なのだ?」



会議は、国主トクガワ・タイクーン・イエモトの言葉で始まった。



「はい。現在、我が国では金貨、銀貨、銅貨が幾種類も使用されており、しかも一部は秤量貨幣を含みますから、実に複雑な制度となっております。そこで、通貨制度を簡便なものに改めたいと考えました」



対して、国老タヌマ・オトモビト・オキトモが答える。



「なるほどな。で、具体的にどう改めるのだ?」



タイクーンは、腕を組みながら尋ねた。



「現状では、両、分、朱、文と複数の通貨単位を用いていますから、これを一つに統一したいと思います」



「で、どう統一するのだ?」



「新たに通貨単位を定めたいと考えます。新たな通貨単位は”ゼニ“と致したいと思いますが、いかがでしょうか?」



「“ゼニ”か。良かろう」



タイクーンが頷く。



「次にどのような通貨を発行するかです。まず、1文を1ゼニと定めて1ゼニ銅貨を発行します。形状は1文銭と同じく方孔円貨とします。続いて、1文銭2枚分ほどの材料で10ゼニ銅貨を発行したいと思います。形状は小判形とし中央に長方形の穴を開けます。


また、これとは別に紙幣、つまり紙のお金も発行します。100ゼニ紙幣、1000ゼニ紙幣の発行を考えております」



「紙の(かね)だと!

オトモビト、何故金貨や銀貨を使用しない?」



「単純な話です。金や銀を材料に使うと発行費用が嵩むからです。対して、紙を材料に使うと発行費用を安く抑えることができます。


例えば、原価800ゼニで1000ゼニ金貨を作っても通貨発行益は200ゼニにしかなりませんが、原価10ゼニで1000ゼニ紙幣を発行すれば通貨発行益は990ゼニとなります。


額面金額から発行費用を引いた差額が通貨発行益ですから、発行費用を安くすればするほど幕府の儲けは大きくなります」



「そうは言っても、紙の(かね)など誰も受け取りたがらないだろう。大丈夫なのか?」



タイクーンが疑わしそうに見るが、「もちろん大丈夫です」とオトモビトは答えた。



「まず、何故誰も紙のお金を受け取りたがらないかですが、もちろん損をしたくないからです。


1000ゼニ紙幣と言っても原価10ゼニですから、物的価値は10ゼニでしょう。こんな物を受け取れば990ゼニの大損です。ではどうするか。足りない990ゼニ分の価値を加えてやれば良いのです。こうすれば1000ゼニ紙幣を1000ゼニの価値物として発行し、受け取らせることができます」



「しかし、価値を加えると言ってもどうするのだ」



「通貨発行者たる幕府が通貨を受け取る際1000ゼニ紙幣を1000ゼニとして受け取ることを約束するのです。この1000ゼニ紙幣を1000ゼニとして受け取る約束には、不足する990ゼニ分の価値があります。


もちろん額面金額での受取約束は、通貨発行者たる幕府に大きな損失をもたらします。物的価値が10ゼニしかない1000ゼニ紙幣を1000ゼニで受け取らなければならないのですから、990ゼニの大損です。


しかしこの990ゼニの大損は甘受すべきでしょう。もともと通貨発行者たる幕府は通貨発行時に990ゼニの大儲けをしているのですから。均衡は取れているのです。否、むしろ話は逆です」



「というと」



「物的価値が10ゼニの紙片も、100ゼニで受け取る約束をするから100ゼニ紙幣として、1000ゼニで受け取る約束をするから1000ゼニ紙幣として発行できるのです。通貨の物的価値がいくらであっても、額面金額での受取約束があれば額面金額で通貨を発行できるのです。


紙幣の通貨価値の源泉にあるのは、通貨発行者たる幕府がする受取約束です。この受取約束が、通貨に信用価値を付与する、価値を加えるのです。


この受取約束は、当然ですが、幕府が発行する全ての通貨になされます。その全ての通貨のそれぞれについて額面金額での債務を負う訳です。つまり通貨発行者たる幕府は、発行済み通貨の額面総額に相当する赤字を計上していることになるでしょう。


反対に通貨を所持するそれぞれの領民は、その領民が所持する通貨のそれぞれについて額面金額での債権を有する訳です。つまり通貨利用者たる領民の総体は、同じく発行済み通貨の額面総額に相当する黒字を計上していることになるはずです」



「赤字の計上はまずくないか?」



「確かに ,「赤字」という表現は、誤解を生みやい点ではまずいかもしれませんね。


しかし通貨の発行は、通貨発行者たる幕府が受取約束という債務を負担する行為です。受取約束という債務負担を指して赤字の計上というのなら、赤字の計上自体はまずくはありません」



タイクーンがまたも疑わしそうに見る。



「本当ですよ。原価10ゼニの1000ゼニ紙幣を1000ゼニで発行すれば990ゼニの通貨発行益を得ますが、同じく、原価10ゼニの1000ゼニ紙幣を1000ゼニで受け取れば990ゼニの損失となります。通貨発行益は通貨発行状態の継続する間だけ存在し、通貨を受け取って通貨発行状態が終了すると失われます。


幕府の赤字と言っても、その裏側には通貨発行益がありますから、赤字の計上はまずくはありません。実際のところ、受取約束という赤字を利用して莫大な通貨発行益を手にしようという話ですから、幕府は赤字で儲けるのです。


幕府が赤字で儲ける以上は、赤字の維持増加は好ましいのです。むしろ赤字の減少は通貨発行益の減少をもたらしますから、赤字の減少の方がまずいですね」



「うむ」



タイクーンが感心したように頷く。オトモビトの説明が続く。



「赤字の維持増加のためには、通貨発行量を増やすことが必要です。そのために地租改正を断行したいと考えます」



オトモビトがニヤリと笑う。






上記のことは、国債の発行でも同様に理解できます。国債の発行によって政府は国債発行益を得、発行状態が継続する間、国債発行益は存続します。そして償還により発行状態が終了すると、国債発行益も消滅します。


いわゆる国の借金、未償還国債残高は1200兆円ですが、その裏側には1200兆円の国債発行益が潜んでいるはずです。触れられることはありませんが。


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