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8.幸せな日々

 

 ケイン様が隣国に戻られてから、8年経った。

 

 私は現在は15歳となっている。

 

 この8年もの間、前の人生とは様々なものが変化していた。

 

 まず一番は、母が生きている事だ。

 

 母は、ロットマイン医師の診察を受けてから、きちんとした治療を受け、今では普通に生活が出来ているくらいまで回復した。

 

 もちろん、喘息はすぐに完治するものでは無い。

 今でも、喘息発作が起きないように、生活面に気をつけている。

 

 母が元気になった事で、父にも変化が出た。

 

 父は気の病と診断された母が、自分と結婚したせいでそうなったと思っていたらしく、そうではなかったと分かった事で、母を大切にし始めた。

 

 基本は気難しいが、それでも以前ほどではなく、まれに、極々まれに笑顔も見せるようになったのだ。

 

 これにより、当然ではあるが父が再婚する事もなくなった。

 

 それにより、マリーナは我が家とは関係のない、赤の他人だ。

 

 聞いたところによると、マリーナの母親は、夫であった子爵が亡くなった後、別の貴族と縁づいたらしい。

 

 どこの貴族かは、興味がなくて覚えていない。

 

 取り敢えず、あの母娘が継母や義妹にならなくて、本当に良かった。

 

 

 祖父も、あの時以降、疎遠となる事もなく、定期的に王都に来ては、タウンハウスで私に絵を教えてくれる。

 調子のいい時は、母も一緒に行って、一緒に絵を描く事もあり、幸せを噛み締めている。

 

 

 また、父の先物取引での失態を取り戻すべく、ケイン様達が隣国に戻った後に、数年後に始動する予定の『駅馬車』に、投資するように伝えた。

 これは前の人生で知った知識だ。

 

 父は不思議そうにしていたが、隣国ですでに着手されているそうだと伝えたら、すぐ乗り気になった。

 おかげで、現在は始動された『駅馬車』が各地で運用され、父はとても潤っており、公爵家としての権威も取り戻す事が出来ている。

 

 これでもう王家に、強引に繋がりを作ろうとはしないはず。

 

 

 前の人生と、こんなにも違った結果が出ているのだ。

 もう、大丈夫よね?

 

 

 もうすぐ学園に入園する時期だ。

 前の人生では、ほとんど通えなかった学園。

 今回は楽しむことが出来るだろうか?

 

 

 

 そんな事を考えながら、キャンバスの前でボーっとしていると、母から声が掛かった。

 

 

「ルーシー、今日は何を描いているの?」

 

 

「あ、お母様!」

 

 

 私は思い出の庭の四阿にて、絵を描く道具を開いていた。

 朝から出て、昼過ぎてもなかなか屋敷に戻ってこない私を心配して、母は様子を見に来てくれたようだ。

 

 

「今日は、庭によく飛んでくる小鳥を描こうと思っていました。

 でも、なかなかジッとしてくれなくて。

 生き物は難しいですね」

 

 そう言った私に、クスクスと笑い、

「さぁ、長い時間、外に出ていると身体が冷えますよ。

 わたくしとお茶にしましょう?」

 と、優しく声を掛けてくれる。

 

 

「はい!」

 

 

 私は母とお茶をするのが大好きだ。

 前の人生では、継母と義妹はよく二人でお茶をしていたが、私は誘ってもらえなかった。

 ……まぁ、習い事や王太子妃教育が忙しくて、ほとんど空いている時間などなかったのだけれど。

 自室の窓から、よくテラスでお茶をしながら、二人で楽しそうに笑っている姿を見て、羨ましかった。

 

 継母には、特に酷い扱いを受けていた訳では無い。

 だけど、私の存在を空気のように扱っていた。

 まるで、私の存在など見えていないかのように……。

 

 反対にマリーナは、私の持ち物を全て羨ましがり、「貸してくださいませ」

 と言っては色々持って行ってしまい、そのまま返ってきた試しはないといった状態だった。

 

 お父様はもともと私に無関心だった為、屋敷の中では、私の居場所を感じられなかった。

 

 その点に於いては、王城での王太子妃教育は有難かったかも知れない。

 

 

 でも、今の人生はまるで違う。

 母が居て、祖父もいる。

 父も母の件や、駅馬車の件もあり、何かと声を掛けてくれるようになった。

 

 

 お母様とお茶をしながら、幸せなこの時間をケイン様に報告したい。

 

 

「ケイン様、元気かな……」

 

 

「え? ルーシー、何て言ったの? 聞こえなかったわ」

 

 お茶菓子を綺麗な所作で食していた母が、そう尋ねてきた。

 

 私は慌てて、

「何でもありませんわ。お母様とお茶が出来ているのが幸せだなって思って、つい口に出てしまっただけです」

 と答えた。

 

「ええ、そうね。わたくしもルーシーとお茶をするのが一番の楽しみですよ」

 

 母はそう言って、微笑んでくれる。

 

 

 8年前のあの日から、ケイン様とは会えていない。

 隣国に戻られてから、お手紙を出し、数回はやり取りをしていたが、ケイン様が隣国の学園に入園してからは、全寮制の事もあり、手紙のやり取りをしにくくなって、そのまま疎遠となってしまった。

 

 今はもう学園を卒業し、職に就かれているだろう。

 お父様のように、お医者様になっているかもしれない。

 

 今年で21歳になられているから、もしかしてもう結婚しているかも……。

 ううん、結婚はまだでも、婚約者は絶対いらっしゃるだろう。

 

 

 自室に戻った私は、窓から見える四阿を眺める。

 

 

「私の初恋は終わっちゃったのかな……。

 再会の約束までしたのに……。

 ケイン様のバカ……」

 

 

 来月には私も学園に入園する。

 まだ婚約者は決まっていないが、卒業までには決まるだろう。

 

 

「卒業するまで気を抜いてはダメよ。

 わたくしの目標は、この先もライアン様やマリーナと関わらず、無事に卒業して、その先の人生も幸せに生きていく事なんだから」

 

 

 ケイン様の思い出にそっと蓋をし、改めて目標に向かって頑張ろうと決心した。

 

 

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