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3.亡くなった母

 

 あの謁見の日から数週間が経った。

 

 あの日は、屋敷に着いてからも父に何か言われる事もなく、その後も、そのまま平穏な毎日が続いている。

 

 

「お嬢様、お茶をお持ちしました。

 まぁ、素敵な絵でございますね。よく描かれてありますわ」

 

「ありがとう。あ、お茶はそこのテーブルに置いておいて。キリのいい所まで仕上げたいの」

 

 

 私は趣味である絵画の続きを始めた。

 今は花瓶に飾られている花を描いている。

 

 画家は主に男性が主流で、女画家は蔑視され不当な扱いを受けているこの時代に於いて、私の趣味は父にいい顔をされない。

 

 それでも、母方の祖父から絵の描き方を教えてもらい、母と共に絵を描いている時が一番幸せだった。

 

 前の人生では、母方の祖父とは、母が亡くなる前から徐々に疎遠となり、亡くなった後は独学で絵を描いていたが、この趣味もライアン様に禁止されたので、絵を描くのは本当に久しぶりだった。

 

 

「お嬢様、今度のバザーではお嬢様の絵を出してはいかがでしょう? きっとすぐに売れますわ」

 

 ジェシカが私の絵を見ながらそう言った。

 

「ダメよ。お父様がお許しにならないわ。ただでさえ女のわたくしが絵を描く事に反対なのに、バザーに出したら、世間に知られてしまうでしょ?」

 

「そうでございますね。とても素晴らしいのに、勿体ない事です。とても7歳児の描いた絵とは思えない程の出来栄えですのに」

 

 

 ジェシカは残念そうにそう言った。

 

 

「ありがとう。でもこの絵はお母様の部屋に飾ってもらいたいの。お母様、喜んで下さるといいけれど」

 

「まぁ! それは素晴らしいお考えでございますわね! さっそく奥様のところにお伺いしてきますわね!」

 

 ジェシカがそう言って、母の専属メイドに伝えに行く。

 

 この時点では、まだ母は生きている。

 病弱でほぼ寝たきり状態であり、このままでは前の人生の時のように、あと1年後には亡くなってしまうだろう。

 

 あの時の私はまだ8歳という子供で、母に対して何も出来なかったが、今は違う。

 母の直接の死因が何だったのか、ちゃんと治療を受けていたのか、今ならどうすればいいのか考える事が出来る。

 

 政略結婚らしく、父は母にあまり関心がない。

 

 病弱である母の事を疎ましくさえ思っているように思う。

 

 だから父は当てに出来ない。

 

 ならば今回は私が母を守るために動こうと思う。

 

 

 

 

「お母様、お加減はいかがでしょうか?」

 

「ルーシー、来てくれたの? 嬉しいわ。ルーシーの顔を見たら元気になるわ。さぁ、こっちに来て」

 

 

 お母様の部屋を訪れ、声を掛けるとお母様はとても嬉しそうにしてくれた。

 

 お母様に呼ばれて、嬉しくて駆け寄って抱きつく。

 お母様の匂いだ。

 お母様はまだ生きている。

 

 前の人生では、病弱な母の負担にならないようにと、母の部屋を訪室する事を、控えるようにと父に言われていた。

 ライアン様の婚約者になってからは、忙しくて余計に訪室する機会も減り、どんどん衰弱していく母を看取ることすら出来なかった。

 

 でも、今回は違う。

 母と過ごす、この一瞬一瞬を大切にしていきたい。

 病気を治して、元気になってもらいたい。

 そのための努力を怠ってはダメだと感じた。

 

「ルーシー、あなたの書いてくれた絵、とても素晴らしいわ。鮮やかな花がこの部屋まで明るくしてくれて、元気をもらえてるのよ」

 

 

 母は壁に飾ってくれた私の絵を見ながら、嬉しそうにそう言ってくれた。

 

 

「お母様が元気になってくれるなら、わたくし、いっぱい描くわ! だから、早く元気になって下さいませ!」

 

 

 母に抱きつきながらそう言う私を、母は愛おしそうに頭を撫でてくれる。

 

 絶対に母を元気にしたい!

 

 

 

 

 私は部屋に戻ってから、母方の祖父へと手紙を書いた。

 

 母が元気な時は、時々母と共に祖父の所に遊びに行って、絵を教えてくれた祖父。

 何故かここ2、3年程は疎遠となってしまったが、父を頼れない今、母方の祖父しか頼れない。

 

 父に、母の病気を治すために、医者を呼んで欲しいと頼んだが、すでに医者に見せており、気の病だと言われたため、大した事はないと言われた。

 その為、まともな治療も行わずにそれ以降、医者に見せていないとのことだ。

 

 

 大した事がなくて、1年後に亡くなるはずがない。

 なので、祖父に頼んで別の医者を派遣してもらおうと思ったのだ。

 

 そして、前の人生で知った知識を生かして、母の部屋の換気をよくし、食の細い母でも栄養が取れるような食事を考えて欲しいと、料理長に頼んだ。

 これまでは、豪華な食事の提供を常としてきたらしいけど、胃が弱く食の細い母には、苦痛でしかないはず。

 豪華でなくても、食べやすいおじやや、あっさりした物をベースに作って欲しいとお願いした。

 

 最初は渋っていた料理長も、私が何度も頼み込んだ事でようやく引き受けてくれた。

 

 

 出来ることをしながら、祖父の返信を待っていたある時、突然の来訪客が現れた。

 

 

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