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38.心配かけてごめんなさい

 

 その頃、ルーシーはヘルツェビナ公爵家の自分の部屋で眠っていた。

 

 

「ケイン君、ルーシーはまだ目が覚めない?」 

 ルーシーの母は、寝ているルーシーの隣りで不安そうに手を握りながら、ケインにそう尋ねた。

 

 

「余程、心に負担がかかったのかも知れません。外傷は見当たりませんので命に別状はありませんよ。

 もうすぐ目を覚ましてくれるはずです」

 

 

 ケインはそう答えた。

 

 ケインの言葉に、母は

「そうよね、すぐに目を覚ましてくれるわよね」

 と不安ながらも気丈に振る舞う。

 

 

 しかし、何故ルーシーはあんな所でマリーナ嬢といたのだろう?

 しかも、あの令嬢はルーシーに対して、この屋敷にいた時から何かと攻撃的だったと記憶している。

 

 まさか、ルーシーに危害を加える程だとは思わなかったが……。

 

 

 ケインがそんな事を考えていた時、

「ルーシー!? 気が付いたの!?」

 と、ルーシーの母の叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 お母様の声?

 

 あら? 私、何故ベッドに寝ているのかしら?

 確か、学園の裏山で写生を……。

 

 そこまで考えて、ハッとする。

 

 ああ。

 私、マリーナに崖から突き落とされそうになってたんだ。

 

 ケイン様が助けに来てくれなかったら、私は今頃また……。

 

 

 そこまで考えていた時、ケイン様の心配そうな声が聞こえた。

 

 

「ルーシー!? 聞こえるか? 痛いところはないかい?」

 

 

 ケイン様は慌てて私の所に駆け寄ってきて、そう尋ねる。

 

 

 私は、ゆっくりと目を開けて、周りを見渡した。

 

 私が寝ているすぐ横には、私の手を握りしめたまま、泣き出しそうな表情で、私を見ているお母様と、心配そうにしているケイン様の姿を見つける。

 

 

「お母様。ケイン様」

 

 

「ああ! 良かった! ルーシー、本当に無事で良かったわ!」

 

 お母様は、そう言って私の頭や顔を撫でながら、私の無事を確認していた。

 

「お母様、心配かけてごめんなさい」

 

「貴女が無事ならそれでいいの。

 そうだ! 何か食べる? 今、料理長に言って、温かいスープでも作ってもらうわね」

 

 そう言って、お母様は涙を拭いながら、

「ケイン君、ルーシーをお願いね」

 と言って、部屋を出ていった。

 

 

 

 ケイン様は、今までお母様が居た場所に移り、おでこに手を当てたり脈をとったりしながら、状態を確かめている。

 

「ルーシー、本当に無事で良かった。

 あの時、崖から落ちそうになっている君を見た時は、どんなに肝が冷えたか」 

 

 そう言って、優しく頭を撫でてくれる。

 

 

「心配かけてごめんなさい。

 ……ここは、わたくしの部屋よね?

 わたくしが気を失った後、連れて帰ってきて下さったの?」

 

 私の問いにケイン様は静かに頷く。

 

 

「君が気を失ってから、すぐに学園から公爵家に連れて帰った。

 君は丸1日、眠ったままだったから、みんな凄く心配したんだ」

 

 

 ケイン様の説明に驚いた。

 まさか丸1日も気を失っていたなんて……。

 

 

「本当に心配かけてごめんなさい」

 

 

 私の言葉に、ケイン様は小さくため息を吐いて、私を見る。

 

 

「何があったのか、説明してくれるね?」

 

 

 真剣な表情で私を見るケイン様に、私は無言で頷く。

 

 

 それから私は、あの時のことを掻い摘んで説明した。

 

 

 写生の場所を探しに森の奥まで入ってしまったこと。

 そこでマリーナと出会ったこと。

 マリーナに私は崖の所まで連れて行かれた事。

 そこでマリーナに、私が死ねば自分が公爵令嬢になって、ライアン第一王子と結婚出来るなどと言われ、ナイフを突き出されたこと。

 そして、そのまま崖から突き落とされそうになった事などなど……。

 

 

「それで納得しろと?」

 

 

 ケイン様は、じろりと私を見る。

 

 私はコクコクと首を縦に振った。

 

 前世の話をしても、きっと信じてくれない。

 

 頭がおかしいとケイン様に思われるのは嫌だった。

 

 

 

 頑なにそれ以上話そうとしない私に、再度ケイン様はため息を吐く。

 

 

「目覚めたばかりだから、今はこれ以上は追及しないよ。

 マリーナ嬢も捕まった事だしね」

 

「捕まった!?」

 

 

 ケイン様の言葉に私は驚いた。

 

 

「それはそうだろう。殺人未遂の現行犯だよ? すぐにライアン王子が護衛に命じて王宮に連行して行ったさ」

 

 

「ライアン王子? あの場にライアン王子殿下もいらっしゃっていたの?」

 

 

「ああ、君が行方不明だと報告を受けてから、すぐにライアン王子殿下も一緒に君を探してくれた。

 ライアン王子が崖の場所を教えてくれたから、あの場に間に合ったんだ」

 

 

 ライアン様が崖の場所を?

 あの崖がどういう所か知っていたという事は、やはりライアン様も前世の記憶が……。

 

 

「城では、マリーナ嬢の取り調べがされている事だろう。

 さぁ、君はもう少し休んでいなさい。

 公爵夫人がもうすぐスープを持ってきてくれる事だろう」

 

 

 そう言って、ケイン様は私の布団をかけ直す。

 

 

「ケイン様」

 

「ん?」

 

「助けて下さって、ありがとうございました。お礼が遅れて申し訳ございません」

 

 

 私がそう言うと、ケイン様はフッと微笑んで

「そんなの、当たり前だよ」

 と言ってくれた。

 

 

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