表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/43

32.好転

 

 クラスメイト達をもてなした後、私は父やマリーナのいるであろう父の執務室に向かう。

 

 

「ルーシーです」

 

 執務室の扉をノックして、そう告げた。

 

 

 

「どうぞお入りください」

 

 父付きの執事がそう言って、ドアを開けてくれたので、中を窺いながら入る。

 

 

「失礼致します」

 

 私が入ると、父は、執務用の席に座っており、その前でマリーナが立っていた。

 

 

 

「クラスメイトの皆は帰ったのか?」

 

 

「はい、皆様、お帰りになりましたわ」

 

 

「そうか」

 

 

 父はそう言って、私にソファに腰掛けるように勧める。

 

 

 父に促され、ソファに腰掛けると、父も応接セットに移動してきて私の前に腰掛けた。

 

 

「マリーナ、君はもう部屋に戻っていい」

 

「公爵様! お待ちくださいませ! まだ話が!」

 

 父の言葉に、マリーナが大きな声で父にすがろうとしていた。

 

 

 

「何度も言わせるな。今後の事はおって知らせる。部屋に戻れ」

 

 

 父に冷たくそう言われたマリーナは、キッと私を睨み、執事に促されながら執務室を後にした。

 

 

 その様子を見た後、父に目線を戻すと、父は深いため息を零し、執事にお茶を準備するよう命令する。

 

 

「疲れただろう。今、甘い物を用意させるから待っていなさい」

 

 父は私にそう言った。

 

 

 暫くすると、私の前には私の好きなケーキと紅茶が準備された。

 

 

 かつて、前世であれほど私に無関心だった父が、今では私の好みまで把握してくれているだなんて、誰が思うだろう。

 

 本当に今世の父は、母と私を大切にしてくれる。

 

 

「ありがとうございます」

 

 私は父に、心からそうお礼を言った。

 

 

 父は軽く頷き、自分はホットコーヒーを飲む。

 

 一息ついてから、ようやく父は話し始めた。

 

 

「マリーナはもう、男爵家に返そうと思う」

 

 

 父のその言葉に、お茶を持つ手が止まる。

 

 

「ポルシュラス男爵とは、お話されたのですか?」

 

 私の質問に父は頷いた。

 

 

「実はあの王宮パーティの後から、何度か男爵とは話をしたのだ。

 そして少しずつ、マリーナと男爵が話す機会を作り、マリーナが男爵を父として受け入れられるか確認していこうと決めたのだが、その機会をマリーナはことごとく拒否した。

 なので、もう暫くは様子を見ようという事になったのだが……」

 

 そう言って、父は苦々しい表情で話を続ける。

 

 

「最近、周りの者から、マリーナをうちの養女に迎え入れて、ライアン第一王子殿下と縁づかせるつもりなのではという噂が広がっていると聞いたのだ。

 しかしシエンナとも話したが、私達は全くそのような事は考えていない。

 私達の娘はルーシー、お前だけだ。

 誰も養子にとるつもりはない」

 

 

 父は私を見て、ハッキリとそう言った。

 

 本当に、父は変わった。

 こんな事を言ってくれるだなんて、思いもしなかった。

 

 私は感動して、何も言えなくなっていた。

 

 その私の様子を父は気づいていないのか、そのまま話を続けていく。

 

 

「それに、マリーナが最近、どんどん横柄な態度が目立つようになったとの話も耳に入ってきた。

 そこにきて、今日の騒ぎだ。

 マリーナはいつもお前にあんな態度で接していたのか?」

 

 

「え? 見ていらしたのですか?」

 

 

 父の質問にびっくりした。

 一体いつから見ていたの?

 

 

「お前のドレスを強引に奪った上に、さらにお前に詰め寄っているという報告が来たので、マリーナの様子を確かめるために、見に行ったのだ。

 馬車の話をしていた辺りから聞いていたが、あまりの酷い態度で驚いた」

 

 

 割と始めから聞いてるじゃない。

 きっと、ジェシカね。

 マリーナが着替え終わって、部屋から出た途端に報告に行ってくれたのかも。

 さすがはジェシカだわ!

 

 そんな事を考えながら、返答する。

 

 

「そうですわね。わたくしには同級という気安さがあったからか、割と初めからあのような感じで接して来られていましたわ。

 ですが、最近、学園内ではわたくしがマリーナに嫉妬して虐めているとの噂が広まりまして……。

 なので、今日はクラスメイトの皆様をお呼びして、マリーナの本来の姿を見て頂こうと思いましたの」

 

 

 その返答に、父はますます苦々しい表情になる。

 

 

「学園内でそのような噂まで流れていたのか……。

 しかし、今日のマリーナの態度を見れば、その噂も払拭された事だろう。

 よくやった。ルーシー」

 

 

 父にそう言われて、涙が出そうになる。

 

 うん。本当に頑張ったと思う。

 

 これでもう、マリーナがこの公爵家に入ってくる事はないだろう。

 

 

「ルーシー、お前は公爵家の者として、自分に降りかかる火の粉を自分で対処にて振り払ったのは立派だった。

 しかし、どうしても困った事があれば親を頼りなさい。

 私達はお前の味方なんだから」 

 

 

 

 びっくりした。

 まさか父からそんな言葉が貰えるとは……。

 

 病弱な母はもとより、父に何か頼って、また前世のように突き放されたらと思うと、両親に何か頼るなんて考えられなかったのだ。

 

 

 

「……はい、お父様。心配かけてごめんなさい。

 そして、ありがとうございます」

 

  

 2度目の心からのお礼に、父も微笑みながら頷いてくれた。

 

 

 

 そして、マリーナは2日後に男爵家に戻された。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 王子何の役にもたってないんだよね
[良い点] マリーナの強制ドナドナ決定だ~ マリーナは処刑されたにも関わらず、また王子にアタックかけるのは根性あるな。 ルーシーは何で父親に相談しないのかと思ってたら、1回目の希薄な関係があったからか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ