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29.過去と向き合う勇気

 

 最近、学園内で変な噂が回っている。

 

 ライアン様がマリーナ嬢を気に入っているのを嫉妬したヘルツェビナ公爵令嬢が、マリーナ嬢を家で預かっている事をいい事に、家で虐めているという噂だ。

 

 それを信じた他の令嬢や令息達は、マリーナに同情し、陰口や白い目で見られるようになった。

 

 

 

「ルーシー、こんなデマを広めさせていいの?

 家で虐められているだなんて、あの子が嘘を言って広めているに違いないじゃない!」

 

 モニカがそう言って憤慨していた。

 

「そうね、確かに気持ちのいい噂ではないわね」

 

 そう言って、どうしようかと考える。

 

 

 また同じ事が始まる?

 前世でも、たまにしか学園に来られなかったけど、来た時には、みんなから冷たい目で見られたり、無視されたりしたわね。

 

 あの時も確か、義妹を虐めているという噂を流されていたわ。

 

 あの時は、誰も信じてくれなくて、父にも相談出来なかった。

 ライアン様はもちろんマリーナの味方だったし……。

 

 

 

「モニカ、力を貸してくれる?」

 

 私がそう言うと、モニカは嬉しそうに笑みを浮かべて頷く。

 

「もちろん! なんでも言って! 見返してやらなきゃね!」

 

 

 私達は頷きあって、どうするか相談した。

 

 まずは、マリーナについて両親の考えを確かめなきゃ。

 

 

 私は考えをまとめたくて、保健室に行く事にした。

 

 

「失礼します」

 

 

 保健室のドアをノックし、扉を開けると衝立の向こう側に白衣が見えた。

 

 

「どうされました?」

 

 そう言って、こちらを見るとケイン様は微笑んで

「ルーシーだったのか。

 どうしたの? 具合悪いのか?」

 と聞いてくる。

 

 

「ちょっと色々考えてたら、疲れてしまって。

 ここで少し休んでもいいですか? 先生?」

 

 

 私がそう言うと、ケイン様は苦笑いをしながら肩を竦めた。

 

 

「ルーシーに先生呼びされるのは、慣れないな。まぁ、そこの椅子にかけて?」

 

 

 ケイン様は私に椅子を勧めてくれた後、コーヒーを入れてくれる。

 

 

「ありがとうございます。

 今日の保健医の先生がケイン様で良かった。

 前に来た時は違う保健医の先生だったから……」

 

 

 そう言って、ケイン様に入れてもらった熱いコーヒーを、ゆっくりと飲み始めた。

 

「ああ、出来るだけ私が来るようにはしてるんだけど、都合がつかない時は同僚に代わりを頼んでいるからね。

 なんだ、私が居たらサボれると思って保健室に来てるのかな?」

 

 

「ふふ。それもあるかも?」

 

 

 ケイン様と、軽く冗談を交えた会話をしていると、考えすぎてモヤモヤしていた頭が、少しずつスッキリしてくる。

 

 

 

「……私の噂、聞いてます?」

 

 

 少し俯きながら、そう聞いた私に、ケイン様が頷く。

 

 

「信じてないよ? ルーシーは昔から大人びていて、クールなイメージだけど、本当はとても優しくて可愛い子だって事は知ってるから」

 

 

 私の前に座って、自分もコーヒーを飲みながらそう話すケイン様を見ると、心が安心して落ち着く。

 

 

「ケイン様にかかれば、わたくしはいつまで経っても、子供のままなんだから。

 わたくしだって、成長してるんですからね」

 

 

「それも知ってるよ」

 

 

 穏やかにそう言うケイン様を見て、心を強く持とうと気を引き締める。

 

 

「見守ってて下さいね。

 そして、わたくしを信じていて下さいね」

 

 

 そう言った私に、ケイン様は眉をひそめて

「ルーシー? 何をしようとしている?」

 と聞いてきた。

 

 

「過去と向き合うんです」

 

 私は詳しく説明出来なくて、そう答えた。

 

「よく分からないけど、何か困った事があれば何でも相談してほしい。絶対に力になるから」

 と、ケイン様は真剣な表情でそう伝えてくれた。

 

 

 うん。しっかりと力をもらえた。

 大丈夫。

 

 

 私はケイン様にお礼を言い、帰る時間になったので、保健室を後にした。

 そして馬車乗り場に向かって歩いていると、マリーナがおずおずと私に近寄ってくる。

 

 

「あ、あの。ルーシー様。一緒に帰りませんか?」

 

 帰り支度をして、同じ方向に向かう生徒達が多い中、 気を遣いながら、オドオドとした態度で私にそう言ってきたマリーナは、いかにも肩身の狭い思いをしながらも、私を健気に待っていたという、か弱い令嬢に見える。

 

 案の定、それを目撃した他の生徒達は、そんなマリーナに同情し、私を睨んでいたり、コソコソと陰口を言ったりしている。

 

 

 私はそんな雰囲気に呑まれまいと、呼吸を整え、毅然とした態度でマリーナを見た。

 

 

「これからは、お互い別の馬車を使いましょう?

 馬車の中まで気を遣うのは、疲れるでしょう?

 早くお継父様と話し合って、落ち着く先を見つけないとね?

 父に一度、ポルシュラス男爵と今後どうするかを話し合った方がいいって、伝えておくわ」

 

 

「え……そんな……。継父の元に帰ったらまた何をされるか……」

 

 

「貴女を幼い時から子供として育てて下さった方よ? 何か誤解があったかもしれないのに、いつまでも逃げているばかりじゃ、何も解決しないわ。

 それに、お母様もいらっしゃるし、義妹さんもいらっしゃるのでしょう?

 それでも、どうしても不安なら公爵家から護衛を付けてもいいわ。

 それも含めてお父様に相談するわね?」

 

 

 そう言って、さっさと公爵家の馬車に乗る。

 

「貴女は、今日は学園の馬車をお使いになって?

 明日からは貴女用の馬車を準備してもらうわね?

 じゃ、お先にごめんなさいね?」

 

 

 そう言って、マリーナをその場に残して、私は先に公爵家に帰った。

 

 

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