28.食堂での出来事
「ルーシー、ライアン王子がいらっしゃるわよ。どうする? 絡まれる前に、違う席に移る?」
今はモニカと食堂で昼食を摂っていた。
モニカの言葉に、チラッと食堂の入口を見ると、ライアン様が側近の人達と共に食堂に来たばかりなのが見える。
「モニカ、気を使ってくれてありがとう。
でも、食べてる途中に席を移動すると、余計に目立つわ。
それに、第一王子殿下が、そうそうわたくしにばかりに構われるはずないもの。大丈夫よ」
そう言って、気にしないで食べすすめる。
「ルーシーが、それでいいなら……」
と、モニカが心配そうにしながらも納得してくれた。
その時、ライアン様の後を追うマリーナの姿が目に入った。
「ライアン様! 昼食をご一緒したくて探しましたわ」
そう言って、マリーナがライアン様に駆け寄る。
「マリーナ嬢、また君か」
側近のダビデ様が、ライアン様の前に立ちはだかって、マリーナを近寄らせないようにした。
ダビデ様は、近衛騎士団長の息子だ。
かつて前世においても、ライアン様の側近をしていた人で、自由奔放に過ごすライアン様をいつも諌めていた、数少ない私の味方だった人。
結局、ライアン様が自分を諌めてばかりいるダビデ様を嫌って、わたくしに婚約破棄を言い渡す前に側近から外してしまわれたけど。
今世では、一度も話した事がないけど、忠実に主君を守るお姿を見られて、私は安心した。
「もう! ダビデ様! いつも意地悪ですわね!
いいじゃありませんか!
わたくしはライアン様に、この前のパーティでエスコートをしてもらった仲ですのに!」
マリーナのその言葉に、食堂内がザワつく。
あの王宮パーティに参加していた学生は結構いる。
その人達は、ライアン様と共に会場に入ってきて、ダンスを踊ったのを目撃していた。
その時に、ヘルツェビナ公爵家と関わりを持っている事も明かしている為、マリーナはヘルツェビナ公爵家の養子になって、それからライアン様の婚約者になるのではないかという噂が、学園中に広がっていた。
「ねぇ、まさか本当にあの子、ルーシーのところの養子になる話があるの?」
「まさか! そんな事、父からは一切聞いてないわよ。マリーナは一時的に預かっているに過ぎないわ」
モニカに聞かれて、私は即行でそう返答した。
何故、そんな噂が広まっているのだろう?
私は今日帰ったら父に、いつまでマリーナを預かるつもりなのかを尋ねてみようと考えた。
「マリーナ嬢、あの時は……」
ライアン様がマリーナに何かを話そうとするのを遮って、マリーナは強引にライアン様を誘っている。
「さぁ、ライアン様! 早く食べないとお昼休憩がなくなってしまいますわよ?
他の側近の方も、ご一緒しましょう? みんなで食べたら、きっともっと美味しくなりますわね?」
マリーナ得意の微笑みに、ライアン様の他の側近達は頬を緩ませる。
「まぁ、いいではありませんか、ライアン様」
「そうですよ。マリーナ嬢が言っているように、早く食べないと昼休憩もなくなってしまいます」
「ええ、みんなで食べるのも楽しいですよ」
他の側近達はそう言って、マリーナの味方をしながらライアン様を促している。
ライアン様はため息を零したあと、無言で空いている席に着いた。
他の側近達が、ライアン様とマリーナの分の食事も取りに行くのを見て、ダビデ様も諦めて席に着いた。
その時に、ダビデ様はふいに私とモニカが座っている方に目をやり、私と目が合った。
ダビデ様がすぐに隣りに座っているライアン様に耳打ちした後、ライアン様がこちらを向くので、ライアン様とも目が合ってしまう。
あ、しまった。
つい、見てしまっていた。
そう後悔するが、ライアン様はそのまま目を背け、こちらに何か言ってくる様子はない。
「あれ? ライアン王子、ルーシーがいるのに気付いたはずなのに、何も言ってこないね?
前までなら、ルーシーの姿を見つける度に色々と絡んできたのに。
マリーナがいるから、もうルーシーには興味無くなったのかな?」
モニカも、ライアン様の様子が前と違っていると思ったのか、そう言ってきた。
「だから、言ったでしょ?
わたくしばかりに構われる事なんてないって。
さ、早く食べて、ここを出ましょう?」
「そうね、また何か巻き込まれる前に、早く出た方がいいわね」
そう言って、私たちは素早く昼食を食べ終えて食堂から出た。
出る時に、チラリとライアン様達を見るが、ライアン様は全くこちらを気にする様子はない。
良かった。
取り敢えず、このまま私に関わって来る事が無いことを、これからも祈るばかりだ。
ダビデ様、今世も大変でしょうけど、出来るだけライアン様をいい方向に導いて差し上げて下さい。
私はもう、その役目を一緒に行う事は出来ないから……。
そう思いながら食堂を後にする。
私の出ていく姿を、ライアン様が目で追っていた事には気付かなかった。
 




