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25.ライアン視点①

 

 

 昔から第一王子として、勝手気ままに過ごしてきた。

 堅苦しい事が大嫌いで、窮屈な王宮の色々な決まり事に反発していた。

 

 まだ7歳というのに、すでに婚約者を作ろうとする両親も嫌だった。

 

 しかし、国王陛下には逆らえない。

 

 なので、見合いに来る女どもを悉く無視した。

 

 しかし、どの女も辞退しようとせず、次々と後を絶たない。

 

 ますます嫌気がさしていた時に、ヘルツェビナ公爵が娘を連れてきた。

 

 始めは何とも思わなかった。

 

 あぁ、またか。それしか思わない。

 

 陛下が、恒例のように令嬢を庭園に案内するよう勧めてきたので、いつものように早足で庭園に行った。

 

 大抵の令嬢は、必死になって追いかけてきて、僕を非難して泣き出すか、反対に追いついて来た途端に、僕に媚びへつらうかのどっちかの反応だった。

 

 ヘルツェビナ公爵令嬢は、どんな反応を見せてくれるかを楽しみに待っていたが、なかなか庭園に姿を現さない。

 

 見失う程の距離を空けていなかったと思うが、極端に足が遅いのか?

 

 まぁ、それならそれでいいかと、さほど気にせす、暫く後に謁見室に戻ると、陛下が渋い顔をして僕を見た。

 

 

「ライアンよ。何故ちゃんと令嬢をエスコートしなかった?」

 

 陛下の問いに、平然と答える。

 

 

「極端に足が遅い令嬢でしたからね。運動不足なんじゃないですか?」

 

 どうせ、この女も婚約者候補として辞退する事はないんだから、どう扱ってもいいんじゃないか?

 

 そんな風に思っていた僕に、陛下は渋い顔のまま言ってきた。

 

 

「ライアンよ。お前が令嬢たちに冷たい態度を取り続けている事は知っている。

 しかし、お前がそのような態度を取り続けていれば、いずれは皆からそっぽ向かれる事になるぞ。

 お前は第一王子だ。王族として模範になるようにしなければならない。

 時に辛い事もいっぱいある中で、色んな意味でお前を支えてくれる者が必要なのだぞ?」

 

 

 いつもの陛下のお説教を聞き流していると、陛下はため息を吐いて僕を見た。

 

 

「ルーシー嬢は、とても傷ついていたようだ。

 他を探した方がいいかもな」

 

 

 陛下にそう言われた時、何故か僕の中で罪悪感が芽生えた。

 

 

 ()()ルーシーを傷つけた?

 

 

 ん? ()()って何だ?

 

 

 その疑問が僕の心の中に溢れる。

 

 モヤモヤとした気持ちが残ったまま、何故か僕の婚約者はあの娘でないと駄目な気がしてきた。

 

 数日が経っても、この訳の分からないモヤモヤと、何故そんな風に思ってしまうのか分からない自分への苛立ちが治まらない。

 

 ルーシー公爵令嬢と会って話がしたいと思い、とうとう僕は、独断でヘルツェビナ公爵家に向かった。

 

 

 あんな態度を取るつもりはなかったが、いざルーシー嬢を見ると、尊大な態度を取ってしまう。

 これがいつもルーシー嬢に取ってきた態度であるかのように。

 

 ()()()

 

 また分からない感情が押し寄せてくる。

 

 

 結局、城の者が僕を連れ戻しに来て、陛下に散々怒られ、婚約者を作るどころではなくて、僕の再教育が始まった。

 

 

 結局、学園に入るまで、まともにルーシー嬢と会う機会は訪れなかったが、あの時以降から、断片的な映像が頭の中に現れる。

 

 それは、ルーシー嬢が僕とお茶をしている場面だったり、王宮に王子妃教育に来ていたりする場面。

 時に、誰か他の令嬢と仲良くしている僕を見て、悲しそうな表情をしている姿が頭の中で描かれる。

 

 

 しかし、それを側近に話すと、それは夢だと言われた。

 実際はヘルツェビナ公爵令嬢は婚約者ではないと。

 

 自分自身でも、それは錯覚だと思うが、何故か時々その思いは鮮明で、混乱していた。

 

 

 

 そんな日々を過ごしていたが、あのパーティ会場の入り口で、ルーシー嬢とマリーナ男爵令嬢を見た時、そして、マリーナ男爵令嬢が着ていた、あの白いAラインハイウエストドレスを見た時、全ての映像が繋がった。

 

 

 ああ、あれは夢なんかじゃなかったと。

 

 実際に起こった出来事で、僕はマリーナを信じた結果、ルーシーに酷い事をしてしまったんだと。

 

 後悔していた。

 

 何故ルーシーを信じなかったのかと。

 

 何故マリーナの言葉だけを鵜呑みにしてしまったのかと。

 

 社交界デビューの時のあのドレスは、僕が選んでルーシーにプレゼントした物だった。

 

 マリーナと仲良くなっていったが、心の中ではルーシーを求めていた僕の気持ちを、少しでも分かってほしくて選んだドレスだった。

 

 素直になれず、それでもルーシーが僕から離れる事はないとぞんざいに扱っていたが、社交界デビューの時だけは、ちゃんとしようと思ってプレゼントしたドレス。

 

 

 結局、またそれ以降は、同じようにルーシーをぞんざいに扱い、マリーナの言葉巧みな嘘に惑わされて、ルーシーを傷つけ、最後には死なせてしまった。

 

 

 ルーシーが死んでからの僕達は最悪だった。

 

 マリーナの色んな嘘が次々と発覚し、それを信じた僕も窮地に追いやられた。

 

 

 そして、馬車を故意に事故に見せかけ、ルーシーを殺す計画を立てたのはマリーナだったと知った時の絶望は、言葉に表せない。

 

 

 結局、マリーナは色々な悪行が露見し処刑された。

 

 僕も共犯とされかけたが、結局は違うと判断された。

 

 でも廃太子され、離宮へと生涯幽閉を命じられた。

 

 身の回りの世話も最小限で、生涯を離宮でほぼ一人で過ごし、その中で考えるのは、いつもルーシーの事だった。

 

 

 いつも自分勝手で、ぞんざいに扱う僕を、それでも支えて許してくれていた唯一の人。

 

 

 何故、今また同じ命を与えられ、同じ人生を歩んでいるのかは分からない。

 

 だけど、今世ではルーシーを傷つけないようにしなければ。

 

 

 僕に関わってはいけない。

 マリーナとも……。

 

 

 今回は、マリーナが彼女を攻撃しないようにという思いと、父にエスコートしてもらいたかったという彼女の願いを思って、マリーナからの誘いに乗ってパーティのエスコートを引き受けた。

  

 

 

 ルーシーには、前世の分も幸せになってもらわないといけない。

 

 これは神が僕に与えてくれたチャンスだ。

 

 ルーシーへの贖罪するチャンスを神が与えてくれた。

 

 

 今世は、マリーナからルーシーを守ろう。

 

 二度とルーシーを死なせない。

 

 

 

 僕はそう固く決意した。

 

 

 

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