22.社交界デビュー③
衆目の中、パーティ会場の中央で、ライアン様とマリーナは、二人でダンスを披露していた。
「あれは、何処のご令嬢だ?」
「第一王子殿下は、婚約者をお決めになったの?」
「あのご令嬢、男爵家の令嬢ではなくて?」
ライアン様と踊っているのは、果たして誰なのかと、他の貴族達は興味津々だ。
ライアン様は結局、16歳になる現在もまだ正式な婚約者は決まっていない。
何人か候補は挙がっているらしいが、そこから話が進まないそうだ。
うちはすでにお断りしている。
ヘルツェビナ公爵家には、私しか子供はいない。
その為、家族で話し合い、将来は私に入婿をとり、私と夫の間に出来た子供に、公爵家を継いでもらう事にすると父が決めた為、何処にも嫁ぐ事は出来ないと申し出ているのだ。
前世では早々に婚約が決まってしまい、その後マリーナが養女となり、また、マリーナの母との間に子供が出来る可能性もあった為、ライアン様との婚約は継続されていたが……。
だから現世では、母が男児を産まない限り、私の嫁入りはないのだ。
これは私も希望している事だし、これで私の未来が前世と大きく変化する、最善の方法だと思っている。
ライアン様には、ぜひご自分に合った、ちゃんと好意的な関係が築ける相手を見つけてもらいたい。
前世では私は死んでしまったから知らないけど、私が居なくなった後のマリーナとの関係はどうだったのだろう?
マリーナが、あんなに前世と同じ道を辿れるようにしようとしているという事は、やはりあの後、幸せに暮らしたのだろうな。
だったら、また今世でも二人で幸せになればいい。
そこに私を巻き込まなければ。
そんな思いで2人が踊っているのを眺めていた。
2人が踊り終えるのを見届けた時、陛下と王妃様が、2人に近づいてきた。
「お見かけしたことの無いお嬢さんね。何処のご令嬢なのかしら?」
王妃様がマリーナに話し掛けると、マリーナは満面の笑みでカーテシーをしながら答える。
「国王陛下と王妃様におかれましては、お初にお目にかかり光栄にございます。
わたくしは、ポルシュラス男爵家のマリーナと申します。
今は、ヘルツェビナ公爵家にお世話になっており、本日はヘルツェビナ公爵様と共に参上致しました」
「……そうか。顔をあげなさい。
君も社交界デビューのようだが、挨拶の時には見かけなかったと思うが、私の記憶違いかな?」
マリーナに対する陛下の言葉に、私はびっくりした。
もしかして、両陛下への挨拶を済ませてない状態で踊っていたの!?
公爵家の名前を出されては、我が家がマリーナの管理不行き届きになってしまうじゃない!
連れ出したライアン様は何をしているのよ!
周りを見渡すと、父も苦虫を噛み潰したような表情をしながらその場を見ていた。
「父上、申し訳ごさいません。
私が公爵に代わり、途中からエスコート役を申し出たのです。
令嬢のエスコート役は初めてで、浮かれてしまい、両陛下への挨拶を怠ってしまったのは、私のせいです」
ライアン様がそう申し出た後、父も両陛下に謝罪する。
「我が家が預かっている者が、失礼な事をしてしまい、申し訳ございません。
本人への教育不足であった事は否めません。
私の不徳の致すところでございます」
ライアン様と父がそう申し出た為、両陛下の表情が少し和らいだ。
「ふむ……。初めての社交場であり、我が息子も関わったゆえ、今回は不問としよう。
して、ライアンよ。
何故その娘のエスコート役を買ってでたのだ?」
「それは……」
陛下に尋ねられ、ライアン様が躊躇したところで、マリーナが意気揚々と話し出した。
「ライアン様は、わたくしにエスコート役がいない事に、同情して下さったのです!
恥ずかしながら、婚約者もおらず、継父とは不仲なのです。
なので親族には頼めない状況の中、無理を言って、ヘルツェビナ公爵様とルーシー様と一緒に連れて来て頂いたのですが、仲の良い御二方のお邪魔をしている事に胸を痛めていた時に、ライアン様が助けて下さったのです!」
マリーナは会場中に響き渡るような大声で、そう話した。
両陛下はまたしても、顔を顰めて父の方を見る。
「少し別室で話そう。
ヘルツェビナ公爵、ルーシー嬢。
一緒に来て貰えるかな?」
陛下にそう言われて、父と私は頷く。
「ケイン様、ありがとうございました。
わたくし、ちょっと行ってきますわね」
ケイン様は、心配そうな表情をしながら頷く。
「ルーシー、明日、公爵家に寄らせてもらっていいかな?」
ケイン様の言葉に静かに頷いて、陛下達の元に行った。
「中断させて済まない。
他の者は、このままパーティを楽しんでくれ」
陛下はそう言って、私や父、ライアン様とマリーナを別室に促した。