20.社交界デビュー①
もうすぐ王宮のパーティが開かれる。
着ていくドレスも仕上がり、それに合わせた装飾品も準備万端だ。
マリーナのドレスや装飾品も、公爵家で用意したため、マリーナも豪華な仕上がりとなっていた。
「まぁ! 素敵なドレス! 公爵様、奥様! 本当にありがとうございます!
どうです? 似合っていますか?」
「あぁ、とても似合っているよ」
「ええ、そうね。とても素敵だわ」
マリーナは勝ち誇ったような表情で、私を見ながら両親にお礼を言っている。
いやいや、慈善事業じゃないんだから、ちゃんと男爵家から見返りは貰っているんだけど。
男爵家の領地は海に近い。
その為、港町が栄えており、小国との流通経路も持っていた。その流通経路の使用権利を公爵家も、男爵家より受け取ったのだ。
これにより、男爵家を通さずに直接、公爵家と他国との貿易が行う事が出来るようになり、その利益は大きなものになる。
マリーナは自分が気に入られているから、こんなに良くしてもらえるとでも思っていそうだけど、実際はそうじゃない。
ちゃんと父はシビアに損得勘定をしてマリーナを預かっていたのだ。
そんな事を思いながら、冷めた目でマリーナを見ていると、マリーナは、より一層、両親に媚びを売っていた。
「パーティに行くのが、本当に楽しみで仕方がないんです!
このドレスを着て、公爵様にエスコートをして貰えるだなんて、夢みたいです!
男爵家では、こんな思いは出来ませんもの。
早くパーティの日になってくれればいいのにって、思っちゃいます!」
「あぁ、私も楽しみにしている。
そうだルーシー。今度のパーティにはケイン君も参加する事になっている。
交換留学の医師団も、呼ばれているそうだ」
父の言葉に、びっくりした。
「え!? そうなのですか!?」
「あぁ」
そういえば前世でも、交換留学の医師団が参加していたような……。
あの時はケイン様の事を知らなかったから、あまり覚えていない。
それに、珍しくエスコートしてくれた、ライアン様に合わせる事に必死だったからなぁ……。
今世の社交界デビューのパーティは、ケイン様もいらっしゃるなら、パーティでも会える。
現金なもので、パーティを楽しみにしているマリーナを見て、あんなに呆れていた私の方が一気にパーティが楽しみになってしまい、待ち遠しくなった。
数日が経ち、今日は社交界デビューの王宮パーティの日だ。
「では、行こうか。二人とも準備は出来ているな?」
「「はい」」
父の問いかけに二人で返答し、馬車に乗り込む。
公爵家から王宮までは、馬車で15分程度だ。
あっという間に着いて、馬車から降り立つ。
父は私たち二人をエスコートしながら会場にむかう。
三人でのパーティ参加は目立つだろうけど、マリーナが父に執着しているから仕方ない。
好奇の目に晒されながら会場に向かうと、そこには待ち構えたようにライアン様が立っていた。
「やぁ、ルーシー嬢、よく来たな。
社交界デビューおめでとう」
そう言って近寄ってくる。
私と父は慌てて頭を下げて礼を執ったが、マリーナは、弾けるような声をあげて、ライアン様に話し掛けた。
「まぁ! ライアン様! ごきげんよう! お出迎え下さったのですか!?
凄く感激です!」
公爵や公爵令嬢が傍で頭を下げて、礼節を保っているのに、男爵令嬢が第一王子に礼節を執らず、友達感覚の話し方で話しかけるなど、有り得ない。
そういった思いから、周りで見ていた他の貴族達は、マリーナを白い目でみている。
でもマリーナは気にも留めずに、第一王子に話し掛けていた。
一緒に来ていた公爵家にも、周りからの視線が痛い。
「あれ? 君は確か前期テストで1位をとった……」
「はい! マリーナ・ポルシュラスでございます!」
マリーナが名を名乗ると、ライアン様の後ろで控えていた側近の一人が、小声で『男爵家の娘です』と、教えていた。
「わたくし、今は公爵家で暮らしていますの!
今日も、ヘルツェビナ公爵様のエスコートで、こちらのパーティに来たのですよ!」
側近の態度が気に障ったのか、マリーナはそう言った。
そして、その場でクルリと回り、自分の着ているドレスを見せる。
「どうです? ライアン様」
「……そのドレス……」
ライアン様はドレスを見ながらそう言って、ちらりと私を見る。
え……
まさか、本当にライアン様に、前世の記憶があるの!?
幼い頃から時々、疑わしい行動を取っている。
でも、記憶があるなら、私に近寄って来ないか、攻撃してくるはず……。
訳が分からなくて、私はライアン様の次の動向を、固唾を呑んで見守った。