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19.癒される存在

 

 予想どおり、マリーナは、この屋敷に来てから、父に取り入るように、得意の笑顔と愛嬌で父に近づいていった。

 

 母にも同様で、同情を誘うようにか弱いフリをしながら、少しずつ母の好感度を上げていく。

 

 使用人たちは、マリーナと同じ低位貴族の出の者が多く、マリーナの家の事情に同情的だ。

 

 

 しかし所詮は、一時的に預かっているに過ぎない遠縁の娘。

 

 養女になる以外は、その立場は変わらない。

 

 そして両親にそのつもりはないはずだし、使用人達も理解しており、お客様扱いのままだ。

 

 この状態で、マリーナは一体何がしたいのか。

 

 

 そう考えてモヤモヤしていたが、ケイン様を父が連れて来たあの日から、たまにケイン様はうちに来て、母の具合を見に来てくれている。

 母の新しい主治医は、ケイン様のお父上が推薦してくれた方なので、ケイン様とも親しく、ケイン様が母の調子を見に来る事も了承してくれたそうだ。

 ケイン様が来てくれる度に、心のモヤモヤがなくなっていく気がした。 

 

  

 

「発作も出てないようですし、お元気そうで安心しました。身体を冷やさないように気をつけて頂ければ、大丈夫でしょう」

 

 

「ありがとう、ケイン君。忙しいのに、気にしてくれて、本当に申し訳ないわ。

 さ、わたくしの事はもういいから、ルーシーとお茶をして来て。

 ルーシーが経営しているケーキ屋のお菓子は、とても美味しいのよ」

 

 

 診察してくれたケイン様に、そう母が言った。

 

 

「ルーシーが経営しているのですか?」

 

 

 ケイン様が不思議そうに、そう尋ねて、私の方を見る。

 

 

「8歳の誕生日プレゼントとして、あるケーキ屋を買い取ってもらったの。

 そしたら、そこのケーキがとても人気が出たので、支店を何店舗か出してるの。

 わたくしがしてるのは、経営のみで、内容は店長にお任せだから、そんなに大した事はしてないのよ」

 

 

 そう言って、ケイン様をお茶の準備のしてある四阿に誘う。

 ここでお茶をしてると、まるで幼いあの頃に戻ったような感じだった。

 

 

「凄いな! 8歳で店を買い取ってもらって経営までしてるなんて! ルーシーは先見の明があったんだね」

 

 ケイン様は、そう言って

「うん! 美味い! ルーシーの店のケーキは、きっと他国でも成功するよ」

 と、大絶賛してくれる。

 

 

「ケイン様ったら、大袈裟だわ」

 

 

 

 私はそう言って、微笑み返す。

 

 何気ない会話に癒される。

 

 そうして、穏やかな時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

「ロットマイン侯爵令息様、ごきげんよう」

 

 

 そこに、マリーナがケイン様にだけ挨拶をして現れた。

 そして、少し寂しそうな表情で私を見る。

 

「ルーシー様、こんな所でお茶をしてらしたのね。屋敷内では、わたくしがいるからですか?

 言って下されば、()()()()()()ルーシー様が誰かとお茶をする間は部屋に篭って姿を現したりしませんでしたのに……。

 お邪魔してしまい、申し訳ございません」

 

 

 マリーナは、ややおどおどとしながら、私にそう言った。

 

 あぁ、またこういうやり方か……。

 そうやって、あなたはいつもさりげなく、私を悪者にしてたわね。

 

 

()()()()()? そんな事、あなたに頼んだ事は一度もないわよね?

 どうしてそんな言い方をされるのか、全く分からないけど、わたくしが何か、貴女の気に障る事をしてしまったのかしら……。

 だとしたら、本当に申し訳ないわ。

 ごめんなさいね?

 貴女に、わたくしがここでケイン様とお茶をするって、断りを入れておけば良かったわね?」

 

 私はそう言って、悲しそうな表情をする。

 

 

 何が起こったのか分からず、呆然としている間に悪者にされるのは前世だけで十分よね?

 

 周りを味方につけていくやり方を、私は貴女から学んだの。

 

 もう、その手には乗らないわ。

 

  

 心の中で、自分を鼓舞しながら、精一杯に傷ついたように見せた。

 

 

 すると、やはり周りの目はマリーナの方に疑問を持ったようだ。

 

 ケイン様も、首を傾げながらマリーナに言った。

 

 

「ポルシュラス男爵令嬢。何か誤解しているようだけど、僕達は幼い頃、よくここでお茶をしていたんだ。僕とのお茶はここでするって、お互いに決めている。

 さっきの君の言い方は少し、語弊があるようだったよ。

 ルーシーは、人に嫌がらせをするような人じゃない。

 ここに預けられている君に、ルーシーはお茶するたびに気を遣わないといけないのかな?」

 

 

「ひ、ひどい! そんな言い方しなくても! わ、わたくしはただ、除け者にされているような気がしたから!」

 

 

 

「だったら、初めから一緒にお茶がしたいと正直に言うべきだ。

 人に罪悪感を持たせるような言い方は良くないよ。

 それに、人には節度ある付き合い方がある事を学ぶべきだね。

 ルーシーの友達が全て君の友達とは限らないのだから」

 

 

 ケイン様がマリーナに、そうはっきりと伝えた事で、マリーナは今まで被っていた猫を脱ぎ捨てたようだ。

 

 

「何なの、偉そうに!

 どうせ貴方は、ゆくゆくは子爵程度なんでしょ!

 こっちこそ、貴方なんてお断りだわ!」

 

 

 マリーナはそう言って、こちらを睨みつけてから屋敷内に入っていった。

 

 

 しかし驚いた。

 マリーナは男性の前では、絶対に地を現さないのに。

 よほどケイン様に言われた事が気に入らなかったようね。

 

 周りで見ていた使用人達も呆気に取られている。

 せっかく猫を被っていたのに、長続きしなかったわね。

 

 

 私はケイン様に代わりに謝った。 

 

 

「なんて失礼な……。ケイン様、我が家が預かっている者が失礼な事を言って、申し訳ございません」 

 

 

 

「いや、ルーシーが謝る必要はないよ?

 私も少し言い過ぎたかな?

 公爵や君に迷惑がかかってしまったら困るな」

 

 

 そう言いながらも、ケイン様は笑っている。

 

 

「いえいえ、さすがはケイン様ですわ」

 

 私はそう言って微笑む。

 ケイン様の言葉で、胸がすく思いだったから。 

 

 

「それは褒め言葉として受け取っておくよ。

 しかし、あの子、大丈夫? だいぶん変わった子だね?」

 

 そう言ってケイン様は首を傾げている。

 

「一時預かりだそうなので、またお父様にいつまで預かるのか聞いておきますわ」

 

「うん、その方が安心だね」

 

 そう言って、ケイン様は優しく微笑んでくれた。

 

 

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