18.嬉しい再会
次の日、王宮に行った父がお客様と共に帰ってきた。
「おかえりなさいませ、お父様」
母と共に出迎えた私は、父の後ろに立っているお客様を見て、びっくりした。
「えっ!? ケイン様!?」
私がそう言うと、母もびっくりする。
「え? ケイン君? ロットマイン伯爵令息の?」
私と母の発言を聞いて、父が嘆息した。
「何ですぐに分かったんだ? せっかく二人を驚かそうと思ったのに……」
少し拗ねたような発言をする父にも驚く。
父は案外、子供っぽいところもあったのかと。
まぁ、確かに、学園で先に会っていなかったら、私も確信は持てなかった。
それくらいにケイン様は、身長も高くなっており、可愛らしい少年から、立派な大人の男性になっているのだものね。
「改めて紹介しよう。
ロットマイン侯爵家の、ケイン侯爵令息だ。
彼は今、リーズテッド王国からの交換留学で、3年間、本国の医師団に所属する事となった」
父の紹介に驚いた。
いつの間に侯爵家に!?
「お久しぶりです、公爵夫人、ルーシー。
お元気でしたか?
またお会い出来て、光栄です」
「まぁ! 本当にお久しぶりですわね! お会い出来て、わたくしも嬉しいわ!
ささ、立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
母の言葉に続き、私も挨拶をする。
「ケイン様、わたくしもお会い出来て光栄ですわ。さぁ、どうぞ。応接室にご案内致しますわね」
「ありがとう」
私たちは、ケイン様を応接室に案内し、夕食の準備が出来るまで、そこでお茶をする事にした。
しかし、本当にびっくりした。
ケイン様は学園の後期から、保健医として会える事を楽しみにしていたが、まさか父がケイン様を連れてくるとは思わなかった。
きっと父にとっても、ロットマイン侯爵とケイン様は、母の命の恩人だと今でも感謝しているのね。
そう思うと、とても嬉しい。
私は、ウキウキとした気持ちでケイン様を迎えた。
「本当に久しぶりだね。ケイン君がこんなに立派な医師になっているなんて、お父上もとても喜んでおられるだろう」
「いえいえ、私なんてまだまだ駆け出しの新米医師ですよ。父には遠く及ばないです。
だから、これからもっと色々学ぶべきだと思っています」
父は無口な方だが、今日はとても機嫌がよく、饒舌だ。
「ケイン君……、ああ、もうこんなに立派な大人の方に失礼だったわ。
ケイン様は、学園を卒業なさってからすぐに医師団に入られたの?」
「公爵夫人、前のように気軽に呼んで下さって大丈夫ですよ。
医師になるのは、私の念願の夢でしたからね。
父を師と仰いで、すぐに国家医師団に所属しました」
母はケイン様の言葉に、とても感心している。
「本当に素晴らしいわ。
では親しみを込めて、私的な場面に限り、今まで通りケイン君と呼ばせて頂きますわね」
「光栄です」
ケイン様を囲んで、とても和やかに会話が進んでいる。
「でも、知らなかったわ。いつお父上は陞爵されたの?」
「父の陞爵の話は、もう何年も前から出ていたんです。
もうすぐ兄が父の跡を継ぐので、その前に受けておこうと2年前に陞爵しました」
母の質問にケイン様が答えた。
ケイン様はロットマイン家の次男だ。
お兄様は、ケイン様より5歳年上で、既に結婚してお子さんも二人いるそうだ。
なかなかお父上の立場上、長男のお兄様に爵位を引き継ぐ事が難しかったが、ようやく準備が整ったらしい。
あら? では、ケイン様は平民になってしまわれるのかしら?
お兄様が爵位を継いだら、弟であるケイン様は独立しないといけないのでは?
そう考えた時に、父が代わりにケイン様の現状を語った。
「ケイン君の兄が爵位を継いだら、ケイン君は、ロットマイン侯爵が持っていた、もう1つの爵位を継ぐそうだ」
「もう1つの爵位?」
父の説明に、私が疑問を呈する。
「子爵位を受け取る事になってるんだ。領地を持たない名ばかりの爵位だけどね」
そう言って、ケイン様は笑っている。
ケイン様は医者を目指しているから、爵位とかに拘らないのね。
「それと、ケイン君は、貴族学園の保健医を兼任しながら医師団の研究を行うらしい。
ルーシーやマリーナの通う学園に、後期から出勤するそうだ」
父がそう説明したところで、ケイン様が不思議そうに首を傾げて、質問する。
「マリーナ?」
ケイン様の質問を受けて、父が今まで傍に控えていたマリーナを呼ぶ。
「君にも紹介しておこう。
縁あって、しばらくうちで預かる事になった、ポルシュラス男爵の義娘のマリーナだ」
父に紹介されたマリーナは、満面の笑みを浮かべてケイン様に挨拶をした。
「ご紹介に預かりました、マリーナ・ポルシュラスです。ルーシー様と同じクラスなんですの。
学園でもお会い出来るなんて、光栄です。
よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」
ケイン様がマリーナを見て、頷きながらそう言った。
マリーナは、ちらりと私を見てから、ケイン様に、にっこりと微笑んでいる。
それを見た時、何だか無性に不安を覚えた。
前世より、マリーナは私が仲良くしていた友人や使用人などを、片っ端から自分とも仲良くしようと声を掛け、いつの間にか、私から彼女らを奪っていった。
それは婚約者であったライアン様も、当然当てはまる。
「公爵様、今日の夕食の時には、わたくしは控えさせて頂きますわね。
ロットマイン侯爵令息様と、御家族で積もる話もございますでしょうから」
マリーナは、気遣うような態度で父にそう申し出た。
「そうだな、話の中に入れなかったらマリーナも居心地が良くないだろう。
気を遣わせてすまないな、マリーナ」
「とんでもございませんわ! 当然の事です。
わたくしの事はお気になさらず、楽しんで下さいませね」
マリーナはそう言って、自室に戻って行く。
その際、ちらりと私の方を見て、ほくそ笑んだ。
今、マリーナは何を思っているのだろう。
あぁ、ケイン様と私たち家族との関係を、マリーナにだけは知られたくなかった。
まさか、今世でも同じような事をしようと考えてないでしょうね?
その考えに囚われて、その後の会食は、あまり味がしなかった。