表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/43

16.忍び寄る過去②

 

 マリーナは、そのAラインハイウエストドレスを指差して、言う。

 

「もしルーシー様がそのドレスを選ばれないのでしたら、ぜひそれを着てみたいのです。

 あ! でも、わたくし如きがそんな素敵なドレス、似合わないし、第一お値段も高いに決まってますよね!

 申し訳ございません!

 今の発言は忘れて下さい!」

 

 涙目になりながら、自分の発言を恥じる様にそう訴えるマリーナの姿を見て、母は優しくマリーナの手を取った。

 

 

「大丈夫ですよ、マリーナ。

 このドレスは貴女にもよく似合うと思うわ。

 ルーシーはこのドレスを嫌がっているようだし、マリーナがこれがいいなら、このドレスの形で貴女のドレスを作りましょうか」

 

 

「よろしいのですか!? 奥様、ありがとうございます!」

 

 

 マリーナは母の言葉に、とても嬉しそうにお礼を言っている。

 

 

 思えばかつて、前世で私がライアン様にあのドレスをプレゼントされたのを、マリーナはとても羨ましがっていた。

 流石に社交界デビュー用のドレスは、“それ、ちょうだいね”の必殺文句は使えなかったようだけど。

 まさか今世に来てまで、そのドレスを選ぶとは思わなかった。

 

 マリーナの執着心に、少し恐怖を覚えながらも、悟られないように笑顔でマリーナを見る。

 

 

「良かったわね、マリーナ。

 気に入ったドレスが見つかって。

 わたくしも早くいいドレスを見つけなくてはね」

 

 そう言った私に、マリーナは少し目を細めて私を窺うような目をしたが、すぐにその表情を隠し、はにかむ様な嬉しそうな笑顔を向ける。

 

 

「ありがとうございます。

 ルーシー様もきっと、素敵なドレスが見つかりますわ。

 だってルーシー様なら、()()()お似合いになられると思いますもの」

 

 にっこり笑って、こちらを見ながらそう言うマリーナに、悪気はなさそうに見える。

 

 けれど、私には何となく含みのある言葉に聞こえた。

 

 

 結局私のドレスは、前世と全く違った型の、エンパイアラインドレスにした。

 透け感のある長袖と細かなレースの装飾で、胸元にワンポイントデザインがあり、全体的に妖精を思わせる神秘的なデザインのドレスに仕上がり、大満足だ。

 

 

 

「そういえば、マリーナは、誰がパーティのエスコートをしてくれるの?」

 

 

 パーティが近づいてきたある日、母がマリーナにそう聞いた。

 

 

 パーティのエスコートは、基本は婚約者だが、まだ婚約者の居ない者は、家族やそれに倣う親族がエスコートする事が暗黙の了解となっている。

 私はもちろん婚約者がいないので、父にお願いしていた。

 

 

「わたくしは……」

 

 そう言って、マリーナは俯いてしまう。

 

「決まっていないの?」

 

 母の問いに、マリーナは頷いた。

 

「わたくしにはまだ婚約者はいませんし、継父とはちょっと……。

 近しい人で頼めるような方がいないのです……」

 

 

 俯いたままそう話すマリーナは、とても儚くか弱そうに見える。

 

 なるほど。

 これは、学園の令息達に人気があるのも納得だわ。

 

 そう思っていたら、マリーナがちらりと私を見て、涙声で言ってきた。

 

「ルーシー様が羨ましいですわ。あんな素敵なお父上がいらっしゃるのだもの。

 わたくしには誰もいないのに……

 あ、でも大丈夫ですよ。

 わたくし、一人でも平気です」

 

 

 マリーナのその言葉に、周りで聞いているメイドや執事達も、同情的だ。

 

「そんな! 一人だなんて……」

 

 母も悲しそうにそう言った。

 

 確かに、誰もいない場合は一人での参加も可能だ。

 しかし、実際にエスコートなしで参加する人はほとんどいない。

 エスコートなしで参加したら、笑いものにされてしまうのが現状だ。

 

 

「本当にいらっしゃらないの? お母様の親戚の方や、子爵家の親戚の方など、誰かいらっしゃるでしょう?」

 

 私がそう聞くと、マリーナはポロポロと涙を流し始めた。

 

 

「わ、わたくしが継父を拒絶した事で、母方の親戚には頼れず、わたくしや母は子爵家から追い出された身ですので、とても頼める状態では……」

 

 

 泣きながらそう話すマリーナに、母は寄り添って涙を拭いてあげている。

 

 

 いや、あなた、この公爵家に来るために実父のツテを使って、親戚である伯爵家を頼ったのではなかった!?

 そこの伯爵家には、息子が二人もいたはずよね!?

 

 

 

 そう思ったけど、周りから非難の目を向けられた私は、これ以上、何も言えなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ