表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/43

11.不安な感情

 

 そろそろ学園にも慣れた頃、実力テストが行なわれる事が発表された。

 貴族として、それぞれ幼い頃より勉学を習ってきたが、自分の実力を知る事が出来る貴重な機会だ。

 

 

「少し手を抜いておかないと……成績が良ければ、王家に目をつけられてしまう」

 

 

 その発表を聞いて、まず思ったことがこれだ。

 

 ライアン様は、あまり頭が良くない。

 その分を補ってくれる令嬢を妃候補として選んでくるだろう。

 

 前の人生では、すでに私が婚約者になっていた為、周りの目もあって、プレッシャーが半端なかった。

 常に一番でなければ、それこそ針のむしろだったのだ。

 

 今世のライアン様にも、頭の良さを考慮した令嬢が婚約者に選ばれるだろう。

 

 変な噂が流れている今、更に目立った行動は慎まなければ。

 

 

 

 そう考えていた時、後ろから声が掛かった。

 

 

「お姉様」

 

 

 またか。

 

 

 すぐに振り向き、否定をしておく。

 

 

「ポルシュラス男爵令嬢。いい加減、その呼び方はおやめになって下さいな」

 

 私がそう言うも、マリーナは全く意に介さず、笑顔で近寄ってくる。

 

 

「ルーシーお姉様、もうすぐテストがありますわね? 賭けをしません? もしわたくしが勝てたなら、一度お屋敷にお招き頂きたいのです」

 

 

「……何故、あなたをご招待しなければならないのかしら?」

 

 

 マリーナは何を企んでいるのだろう?

 今の人生では、ヘルツェビナ公爵家はマリーナと関係ないはず。

 

 入園式の後にマリーナが言っていた、ポルシュラス男爵家は遠縁に当たるのか、父に聞いてみた。

 

 確かに遡れば遠縁とも言えるが、長らく交流のない家だと聞いた。

 ほぼ他人の家系であるにも関わらず、ヘルツェビナ公爵家の親戚を名乗らないでほしい。

 

 マリーナは何を考えて、公爵家に近づこうとしているのか……。

 

 

「そんな賭けなど意味がありませんわ。成績は、そのような競い方をするものではありません。

 お断り致します」

 

 そう言った私に対して、マリーナは肩をすくめる。

 

「相変わらずお堅いですわね?

 ただ懐かしい、元我が家に行ってみたいと思っただけですのに。

 普通にお願いしても、お断りなさるでしょ?」

 

 

「元我が家? 何を仰っているのか分かりませんが、どちらにしてもお断りしますわ」

 

 

 そう言って、早々にその場を離れた。

 

 

 

 マリーナの口調は、私にも前世の記憶があると確信を持って、いちいち探りを入れてくる。

 

 確かに前世と違い、今は母も生きており、両親の仲は悪くない。

 

 環境が全く変わってしまっている状況を見れば、おかしいと思うかもしれない。

 

 

 でもだからといって、今更どうする事も出来ないはずなのに、マリーナは何を企んでいるのだろう?

 

 

 とにかく、私が前世の記憶を持っている事を、これ以上マリーナに悟られないように行動しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 教室の自席に戻った私の顔を見て、モニカがびっくりした。

 

「ルーシー!? 顔が真っ青になってるわ!

 保健室に行きましょう!」

 

 

「大丈夫よ。何ともないわ」

 

 

 そう答えたが、やはり緊張と不安が顔に出てしまっていたのか、冷や汗まで出てくる。

 

 

 

「ダメよ! さぁ、行くわよ!」

 

 

 モニカはやや強引に、私を保健室に連れていく。

 

 

 

「先生、いらっしゃいますか? 具合の悪い生徒をお願いしたいのですが」

 

 

 保健室の扉をノックしてから、そう言って入るモニカと私に、返事が聞こえた。

 

 

「診てみましょう。どうぞこちらへ」

 

 

 保健室に置いてある衝立の奥から聞こえた声は、男性だ。

 

 確かここの先生は女性だったはず?

 

 不思議に思いながら衝立の奥を見ると、そこには見慣れない男性が座っていた。

 

 その男性は、20代半ば頃で、ダークブロンドの短髪に涼し気なアクアマリン色の瞳。

 座っているが、立てば長身であろう事が容易に想像出来る、長い足。

 白衣を着ていないと、何処かの騎士様が紛れ込んだのかと思ってしまう程の、広い肩幅にも目を奪われてしまう。

 

 モニカなんて、私の存在を忘れたかのように、口を開けて、その保健医に目が釘付けだった。

 

 でも私は違う意味で釘付けだ。

 

 本物? いや、似ているだけ?

 

 

 8年前に会ったきり、それ以降は出会う事のなかった初恋の人は、私の中で少し朧げになっていて……。

 でも、あの優しげな少年を大きくしたら、きっとこんな感じだろうと思わせる人。

 

 

「どうぞ、椅子にかけて?」

 

 

 その男性の声に、ハッとして尋ねる。

 

 

「あの……。確か保健医の先生は、女性だったと記憶しておりますが、貴方は?」

 

 私がそう言ったところで、保健室の扉が開き、女性の保健医の先生が入って来た。

 

 

「あら? 学生が来ていたのね。ごめんなさい、驚いたでしょ?

 この方は、私の後任の保健医の先生よ。

 私が急に辞めることになったから、臨時で来て頂いたの。

 で、どちらが患者さんなのかしら?」

 

 

 女の先生が、私とモニカを見比べて、そう尋ねた。

 モニカがハッとして、

「あ、この人です! よろしくお願いします」

 と、私を前に押し出す。

 

 女の先生は頷いて、

「では、椅子に座って。あなたが新任の先生の患者さん第1号ね。

 ロットマイン先生、よろしくお願いしますわね」

 

 

 

 その名前を聞いた途端、胸の鼓動が大きく跳ねた。

 

 

 ロットマイン。

 

 

 本当に、ケイン様なの?

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] マリーナがこっわ!!男爵家に抗議だ! 元義母の方は記憶どうなってるのかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ