プロローグ
ルーデンベルグ王国の王宮の広間。
ここで、私は婚約者であるライアン・ルーデンベルグ王太子殿下から、鋭い視線を浴びていた。
「ルーシー・ヘルツェビナ!!
お前との婚約は破棄だ! お前のような悪辣な女が王太子妃、ひいては王妃になるなど、この国の損失にしかならない!
私はここにいる心優しいマリーナ嬢を婚約者とする!
そしてお前は、この未来の王妃であるマリーナに対する様々な嫌がらせや、破落戸を雇ってマリーナを襲わせようとした罪により、娼館送りとする!」
「お待ちください! わたくしは義妹であるマリーナにそのような事をした覚えはありません!」
「うるさい! 調べて周りからの情報は得ている! マリーナからもちゃんと聞いているのだ! 言い逃れをしようとしても無駄だ!
衛兵! この女を連れて行け!」
こうして私は、有無をも言わせず、質素な立て付けの悪い小さな馬車に無理やり乗せられ、娼館送りとなった。
仮にも公爵令嬢であり、幼い頃から長きに渡り王太子妃教育を受け、あと1ヶ月で王妃教育も終了となる頃に結婚が決まっており、忙しい毎日を送っていた。
学園にあがってからは、王太子殿下の執務まで、いつの間にか私に振り分けられるようになり、自分の執務や王妃教育に加えて王太子殿下の執務までこなしていくと、ほぼ一日がそれに費やされ、学園などに通う余裕などなく、屋敷にもほとんど戻れていない。
王宮内に宛てがわれた私専用の部屋で、寝泊まりする毎日を送っていた。
そんな中でどうやってマリーナを虐める事が出来るの!?
マリーナとライアン様が仲がいいのは昔からだ。特に最近は距離感が近い様子だったけど、結婚すれば収まると思っていたのに。
王宮の中で、あのような強行に及んだのなら、きっと陛下やお父様の許可を取った上なのだろう。
ならば、誰かの助けなどない。
「どうして……」
ぼつりとその言葉が出た。
王太子殿下の事は恋ではなかったが、それなりに慕っていた。幼い頃より、この方が将来の私のだんな様となるのだと思うと、必死になって歩み寄る努力もした。
その甲斐あって、幼い頃は比較的仲良かったはずだ。
信頼関係も築けたと思っていたのに……。
馬車に揺られながら、そんな事を考えていた時、突然馬車が加速を始めた。
「え!? どうしたのです!?」
御者に尋ねるも返事がなく、不審に思った私は馬車の窓を開けて外を見る。
外はいつの間にか森の中を走っており、御者の姿も見えない。
馬車はそのまま猛スピードで走っており、止まる気配を見せない。
凄いスピードのまま、馬がカーブを走り抜けた為、反動で馬車が側にあった大きな木にぶつかり、馬車は大破して外に放り出される事になった私は、目の前が崖になっている事に気づいた。
落ちる────
そう思ったと同時に崖に放り出され。
そしてそのまま、私は死んだ。