⑥
結果から言うと勉強はちっともはかどらなかった。
カラオケ店に着くや否や実琴はノートを広げる前にタッチパネルのペンを握る。この流れは完全に歌う流れだ。
友人二人も当たり前のように、次なに歌う? と選曲の話し合いをしている。
「ねえ、テスト勉強は? 勉強しに来たんだよね」
勇気を出して言うものの、
「うん? そうだけどさ、歌わなきゃ損じゃん。誰かが歌ってる間に勉強する的な」
「そうそう。歌が終わるまでに単語を頭に詰めるみたいな?」
「タイムリミットあった方がはかどるっしょ」
全然はかどらないからそれ!
なんて言えるわけもなく。
この人たち遊ぶ気満々なんだもの。
呆然とする私を余所に三人はカラオケ大会を始めてしまう。
結局盛り上がったのは私以外の三名で、私は明野さんとも円加さんとも会話もなく完全に蚊帳の外だった。
「しかも何も頭に残ってないし……」
はかどらない勉強会を終え、カラオケ店で明野と円加と別れ、姉妹で家までの帰り道を歩く。
私はやっとそこで実琴に文句を言う。しかし実琴にはちっとも響かない様子。
「カラオケ店に行って歌わないのは客としてどうよ」
それに関しては正論だがまず根本が間違っている。
「勉強場所にカラオケ店を選ぶな。図書館があるじゃん」
「図書館だと喋れないじゃん。交流が出来ないでしょ」
「交流って勉強に必要ない……」
と言いかけて黙った。
もしかして実琴は。
「私に友達をつくらせるために今日誘ったの?」
「……」
実琴は唇を尖らせそっぽを向いた。
肯定だ。
「余計なお世話だよ!」
「そう思っても姉としては放っておけないんですぅ」
なにが「ですぅ」だ!
「私は、私は一人が寂しいなんて思ったことないよ」
一人が可哀相って思うのは人気者ならではの思い込みだ。それは憐れみだ。
私が睨むとそれに臆することなく実琴は言い返す。
「でもさ、なんでも一人で完結出来るのはだんだん難しくなってくるよ。皆仲良くとは言わんけどさ、コミュニケーションはとっておかないと、」
「ああもう。わかった。わかりました」
突如始まる姉の説教に私は早めに折れておく。納得という名の降参。
「急にお姉ちゃんぽく諭すのやめてよ」
「姉はいつだって妹が心配なの」
「うざったいよ」
「悪態ついてるのも今のうちだぞ。実琴お姉様に感謝する日がいつか訪れるから」
「……」
実琴がわはは、と豪快に笑う。
まったくこの姉は気配りが出来るんだか出来ないんだか。
「はあ」
呆れ果て見上げた空はよりによってすごく綺麗だった。
「……はあ」
……取り敢えず今度アケノさんとマドカさんとすれ違った時は挨拶くらいしておこう。
お疲れ様です!まだまだ続きます。