超能力少女、惚れ薬を作る
今日も学校は部活動で賑わっている。特に私のやっている女子サッカーは物凄い反響だった。
私が蹴る度にゴールに入るのだ。世界大会の選手として注目されていた。
「涼ちゃん、マジヤベェ」やら「アイツ、1人で永遠と点を入れる気なんじゃね」やら「キャー!涼子」やら私を見て男達が歓声を上げている。
女の子達も熱い目で私を見ている。
練習でたった1分で13点、私が点数を稼いだ。
敵陣のやる気のなさを見かねた女子サッカー部顧問がホイッスルを鳴らす。
「はい!休憩。五十嵐さん、ちょっといいですか」
私は涼しい顔で顰めっ面の先生の元へ歩み寄った。
途中、ボールが背後から飛んで来る気配がする。素早く僅か1センチメートルで避けて、華麗に足に馴染ませた。
相手チームのリーダー、柳瀬遊の嫌がらせだと直ぐに勘づいた。
その途端、柳瀬は笑いもののネタになる。
「本当ムカつく!あの女!!」
柳瀬が悪態を吐いて見せる。
周囲は私へ歓声を挙げていた。
「今の超カッコ良かったぜ!」
私と顧問の間に相葉智が駆け寄って来た。汗の滴る良い男である。
柳瀬が智を好きなことはバレンタインデーに暴露されていた。
柳瀬の視線が突き刺さる。気が済むのは半殺しどころではなさそうだった。
顧問が智を追い払う。そして言った。
「手加減できないのですか?五十嵐涼子さん。あまりにも一方的だと惨いので、手加減お願いします」
教師のメンツを潰してまで私に懇願しているのが分かった。
しかし、私は自然超能力を使える。蹴ったボールがゴールに向かうのは私の無意識がゴールを目指すからだ。
「手加減…やってみます」
次の試合も1分で10点、稼いでいた。敵陣は目も当てられない状態だった。
昼休みになり、屋上で一人弁当を食べる。私には友達がいなかった。あまりにも超人と謳われているのだ。私と対等に付き合える女子はこの学校にはいないようだった。
柳瀬を除いては。
柳瀬が「よお」と声をかけてくる。
「五十嵐、ボッチ飯かよ」
柳瀬は人を放っておけないタイプなのだ。
それがヒシヒシと伝わってくる。
「私、智のこと好きでないから」
柳瀬が、口に含んでいた苺ラテを吹き出した。
「どうして私にそんなこと言うんだよ」
いつものようにマウントを取れて満足した。
「去年、人集りの中で智に本命チョコ渡してたの、有名な噂だよ」
柳瀬は噎せかえった。
私は柳瀬の背中を摩ってやる。彼女の中にあるのは…羞恥心?
心を読む超能力が使えないのは残念だった。
柳瀬が落ち着く。
「すまない」
武士のようで滑稽で笑いを誘った。
「私の前なら好きに弱さを見せて大丈夫だ」
思わず、私までカタコトになる。
しかし、柳瀬はバカにせず「ありがとう」と呟いた。
私はゆっくり息を吐いた。
「まだ智のこと好きなの?」
柳瀬は重苦しく1回だけ頷く。
「付き合いたい?」
その瞬間、柳瀬にしてはか弱い少女に見えた。
私の唯一のライバルの恋を成熟させたいと思う。
私はそれからというもの、惚れ薬を精製するのに熱中するようになった。
頭の左側だけ使ってただの飲水に私の血を混ぜる。愛情たっぷり注いで、甘くなるまで試行錯誤する。
何故か、私には惚れ薬を作る超能力が備わっていると知っていた。
両親は海外に出張している。実に都合が良かった。
何とか惚れ薬はバレンタインデーまでに仕上がった。
「うっしゃあああ!!」
思わず歓喜の声が漏れる。
盛大に喜びの舞を踊った。
2月13日、柳瀬を呼び出した。
女子サッカー部はとうとう私のプレイを禁止するようになった。
柳瀬と私は時々、一緒に屋上で弁当を食べていた。
柳瀬がソワソワした雰囲気で私を待っている。
授業も部活も終わった夕暮れのことだった。
私は言った。
「どんな相手でも堕とせる惚れ薬、渡すから智に盛ってやれよ」
柳瀬は思い詰めたように小さなペットボトルの中に入った液体を見つめる。
「本当にどんな相手でも、な訳?そうよね、アンタ、特別な能力が使えるんだもの」
私は否定しなかった。
次の日、惚れ薬を受け取った柳瀬は本命チョコと義理チョコを作って来ていた。
相葉智に柳瀬遊が本命チョコを渡すところをバッチリ確認する。定番のハートのチョコレートだった。
周りは人集りができている。皆、『今年もかよ』って顔をしている。
柳瀬は私にもチョコを渡して来た。
私も柳瀬に義理チョコを渡す。
これで美男美女のカップルが爆誕するはずだった。
家に帰って柳瀬のチョコを食べた私は嵌められたことに気付いた。
柳瀬が好きで好きで仕方ない。
智と比べて至って簡潔なチョコレートの袋の裏側のカードに『五十嵐涼子、あなたが誰よりも好き』というメッセージが書かれていた。
私は私が作った惚れ薬で柳瀬に惚れてしまったのだ。
明日、柳瀬に会える。それだけでドキドキする。
今、私は幸せだった。