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5、番

どうやら歓声の原因は魔法刻印であった。

ある令嬢のノースリーブからスラリと伸びた左腕には魔法刻印が存在感を表している。

あまり人に見せびらかすものではないのだが、見せたくなる気持ちも分かる。

その女性はどうやら金色の魔法刻印らしいのだ。

最近では金色の魔法刻印を持つ者は殆ど出ていない。

光魔法を持つ者は殆どが単一の白色の魔法刻印が多い、それは魔法回路が特殊の為、光魔法に特化しているからと言われている。他にも闇魔法、空間魔法、竜魔法は他の魔法系統と違う回路を持ち、扱いが少し複雑で、魔力も特殊であるらしい。

金色の魔法刻印を持つ者は、魔法の天才と呼ばれる人間。紫色、オレンジ色、虹色、金色や黒色は今では文献上でしか知らない。その点 銀色は火魔法、水魔法、風魔法、土魔法でもあり得るのでいないこともないのだ。


それが無名の男爵令嬢に金色が出たのだ、英雄扱いで十二分に盛り上がる理由があった。


ディーンシュトとラディージャもその会場の空気を楽しんでいた。


新たなヒロインの登場に人だかりができ根掘り葉掘り聞く。

「ねえ! いつ発現しましたの? 気づいたのはいつですの?」

「番の相手は分かっていらっしゃいますの?」

「魔法省の確認はなさいましたの? 属性は分かってらっしゃるの?」


喧しく群がる者たちに悠然と微笑みで返す。


「うふふ、今朝 侍女が気付きましたの、ですからまだ魔法省に連絡はしていませんの」

「まぁぁぁ」

そこにいた者たちから羨望の眼差しを受け、少し節目がちに視線を下げれば、周りの者たちから歓声と悲鳴が上がる。



今夜の一躍ヒロインとなったのは、

マリリン・ビーバー男爵令嬢だ。

昨日まで無名の彼女の人生は一変した。


数多くいる取るに足らない下級の貧乏貴族だったマリリンは、金色の刻印持ちとして時の人となった。


本来ならすぐにでも魔法省の人間が確認に来るところだったが、パーティーの為後日と言うことになった。


それからと言うものマリリンの周りにはいつも人が集まり、笑顔に溢れていた。

『やはり 光魔法を持つ者がいると癒される』

そう言ってゾロゾロと付き従うようになった。


魔法刻印が現れていない者の中にいたマリリンも晴れて、魔法刻印保有者に入った。

今のところ魔法省が関与していないので、マリリンの番は判明していない。番が判明している者は流石に異性にデロデロしているところを見られるわけにもいかないが、(恋愛感情も湧かない)番が不明な者と、金色の魔法刻印に興味がある者がマリリンの周りに侍っていた。



この頃からラディージャの様子がおかしくなった。


あのパーティーの時、初めて交わしたキスもこれが番とのキスなんだと実感した。まあ、ラディージャ以外とキスした事がないので比べた事はないが、本当にあの時のキスは特別な感覚だった、あの半身を得たような感覚は今まで味わった事がないものだった。あの時も互いの幸せな感情を共感覚で感じていたはずなのに、あの夜から不安を抱えているようだった。何でも話してきたのに今は何を不安に思っているのか教えてくれない。力になりたいのに、何も話してくれない事を寂しく思う。でも無理やり聞き出す気にはなれなかった。きっと、気持ちの整理がつけば話してくれるはず…、辛抱強くラディージャが話してくれるのを待った。


だけど、暗い顔をしているのをラディージャは見せないようにしていた。だから触れてほしくないのかと見守っていた。まさかラディージャが自分の元を去ろうとしていることなど知る由もなかった…。




この国の王太子はジョシュア・トルスタードは報告書を読んでいた。

「レイ、金色が出たのか?」

レイと呼ばれたのはジョシュアの側近レイアース・ロペス(レイアース・シュテルン)、幼馴染の2人は気安い関係だ。


「そうらしいな。まだ魔法省は確認をしていないらしいが、パーティーで魔法刻印を堂々と見せびらかしたとか…」

「何処の者だ?」

「マリリン・ビーバー男爵令嬢、近親者にも高位魔法使いはいない。突然の発現のようだが、まだ属性については確認できていない。まあ光魔法の素質があるので今後 王宮で別カリキュラムを組むかもしれんな」

「ふーん、金色となると何年ぶりだ?」

「84年ぶりだな」


「質の良い魔力を天竜樹に送れるかな…」

「そうかもな」


このトルスタード魔法国は本来 魔力の歪みで大型魔獣も出現すれば、スタンピードが起き、国を飲み込むような事態に陥るような事も過去にはあったらしいが、現在はこの国の守り神 天竜様の加護『天竜樹』のお陰で結界を張り平和が保たれている。

この国の加護の力の源『天竜樹』に高位貴族は魔力を捧げる事が最重要事項。


「金色となると魔力量が高いのだろう? 何故今まで引っ掛からなかった?」

「分からないな、銀色以上は予想通りの人物らしい。今回このビーバー嬢は完全なるイレギュラーだったらしい」

「ふむ、魔法省の確認はいつなんだ?」

「15歳で未確認は残り7人しかいなかった、今回の彼女を入れても確認対象は4人しかいない、あと1人魔法刻印が出るだろうと予想している者がいる為、その者の魔法刻印が出てからでもって話のようだ」

「成る程ね。まあ使い物になるのはまだ先のことだしな。…承知した。残りの3人は魔法刻印は…出そうなのか?」

「まあ、奇妙なのが3人の内1人は魔力量がバカ高いから銀色以上が出るのでは?と言われていた人物なんだ。後の2人は…もしかしたら出ないかも知れないと報告書が上がっている」

「そうか…魔力量が高いのに魔法刻印が現れないとはどう言うことなのだ? 気になるな、魔法省の人間を呼んでおいてくれ」

「了解」



それから暫く経ってもラディージャはディーンシュトとよそよそしいままだった。

「ねえ、ラディ何か悩みがあるなら話して? 僕も力になりたいんだ」

ラディージャは何でもないとは言えなかった。私の異変に誰よりも早く気づくのはディーンシュトだって知っているから。

ラディージャは意を決して伝えることにした。


「ねえディー、金色の魔法刻印の子のこと覚えてる?」

「ん? ああ、マリリンだっけ? あの子がどうしたの?」

「…えっとね…その…多分…うぅぅ…恐らく…きっと…それで…」

「何かされた? そんなにも言いにくいことなの? あのパーティーからずっと様子がおかしいのは分かってた。でも触れて欲しくなさそうだったから…、でも話してほしい。番の僕にはラディの苦しさが分かるから! 力になりたいんだ!!」

「違うの! …………違うかも知れない…ううん、違うの。ふぅぅぅぅうわぁぁぁぁぁん! 違うんだもん! そんな訳ないって否定しても…、 でも目に焼き付いて離れない!! ごめんね、ごめんね、私じゃないの…ごめんね!! ヒックヒック ふぅああぁぁぁぁぁぁん!!」

ラディージャは号泣し始めて問いただす事が出来ない、ディーンシュトはラディージャが落ち着くのを待って、優しく何が違うのか、何がごめんねなのか聞いた。

ラディージャの感情が流れてくる。

激しい動揺、後悔、切望、嫉妬、情愛……激情が渦巻いていた。


少し落ち着くと意を決して、ラディージャはディーンシュトの左手を取り、口づけを落とし祈るような仕草をして、切なげに話し始めた。


「あのパーティーの日、マリリンさんが金色の魔法刻印が現れたと盛り上がる中、私は見てしまったの」

『見た? 何を?』

「左腕の金色の魔法刻印が…………ディー、あなたとお揃いだったの」

「えっ!? ………………………………あり得ない、嘘だ!! そんな訳ない!! 僕の番はラディージャだ、他の誰かの訳がない!! ………嘘だ…………」

ディーンシュトはフラついて膝から崩れていった。


「黙っててごめんなさい、どうしても言えなかったの! ディーと離れるなんて…出来なくて…ごめんなさい!!」

ラディージャが伸ばした手はディーンシュトを捉えることは出来なかった。言ってしまった後では、隣にいる資格がないから…。

今は3歩の距離が彼方のように遠く感じる。2人は動けないまま放心していた。

互いを見つめ触れたい衝動に襲われていたが、実行には移せなかった。そんな感情さえ手にとるように分かる。

先にその場を離れたのはラディージャだった。ディーンシュトより先に知っていた分、心の整理もつけられたのかも知れない。ショックを受けているディーンシュトを置いていくことに後ろ髪は引かれたが、今後は別々の道を選ばなければならない。苦しい思いを断ち切るために、ラディージャは歩き出した。


それから2人が一緒にいるところを見かけなくなった。

ディーンシュトも勿論 ラディージャへの想いがなくなったわけではない、寧ろ募るばかりだったが、番でないのならば離れることはお互いのために思えた。


ディーンシュトはこっそりマリリンの近くに行ってみた。

だが、何も感じない。

やはり自分が細胞レベルで欲するのはラディージャただ1人と身に沁みるだけだった。



ディーンシュトはただ会いたくて、ラディージャの寮の前に行っても会うことは出来なかった。2人で過ごした学習室にも待っていても来る事はない。ラディージャはディーンシュトを避けていた。会えば気持ちに蓋をする事が出来ないから…。2人はすれ違って行った。


その頃には常に一緒にいる2人が別行動をとるようになった事を訝しむようになった者もいた。ラディージャの辛そうな様子に友人たちも話を聞いて驚きを隠せなかった。2人はどう見ても似合いの恋人同士で番だと思っていた。だから当人以上に信じがたかった。


「ねえ、ラディージャ見間違いってことは無いの!?」

「そうよ! あり得ないわ!!」

「番でもないのに心であんなにも繋がれるなんてないわ!!」

「私たちの憧れだったもの…ふぅぅぅ、私も番と巡り逢えればあんな風に互いを思いやって…生きていけるんだって…」

「きっと!きっと見間違いなんだからー!!」

「うん、きっと間違い!! マリリンさんに確認に行きましょう? ね?」

「うん、ちゃんと確認するべきだよ! ディーンシュトも誘って確認しよう? ね!」


「…うん」

でもハッキリさせる事も怖かった。

今でも側に居られないけど、確認してしまったらもう二度と想うことも許されないような気がして踏み出せないでいた、しかし未だに魔法刻印が現れないラディージャには大きな決断をしなければならない時に来ていた。


マリリンに頼み魔法刻印を見せてもらうことになった。

そこにはラディージャ、ディーンシュト、セナフィラ、リリアーナ、ヒルマン、ライアン、ガロも立ち会うことになった。


マリリンは日時を指定した。

まあ、刻印の場所が腕の肩に近い場所なので、男性も一緒となるとノースリーブの服ではないと下着になってしまう。約束の日に全員で談話室に集まって魔法刻印を見せてもらった。

このメンバーにはディーンシュトの魔法刻印も見せた。



そこにいたマリリン以外の者は言葉を失った。

金色の魔法刻印は確かにディーンシュトと同じだったのだ。


ラディージャはその場で倒れてしまった。

ディーンシュトはすぐにラディージャを抱き寄せた。だが、番の前でやって良いことではない。

「ディーンシュト…ラディージャは僕が連れて行くよ…」

ヒルマンが気を遣い声をかけた。

だけどディーンシュトはラディージャを離すことが出来なかった。

強く強く抱きしめ温もりを感じながら、頭では駄目だって分かっていても腕の中のラディージャを手放すことなんて出来ない。身を引きちぎられるほど辛くて仕方ない。

「ラディ、ラディ…ラディ… 僕にはラディしかいない。ラディじゃなければ駄目なんだ…。あああぁぁぁぁ!! 神様! 天竜様!! 僕からラディを奪わないで!!」

ディーンシュトもまたラディージャを抱きしめたまま意識を手放した。

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