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47、狙ったもの−2

ジョシュア王太子殿下の予想通り、ミノタウロスは出現した。そして、その度にマリリン若しくはマリリンに纏わるものによってミノタウロスを消し去っていた。

マリリン・ビーバーの人気は全土に渡り、他国からも救国の聖女獲得に動きが出てきた。

これにより、救国の聖女を守る為に国として保護するべきだとの意見が度々出てくる。だが、ジョシュア王太子殿下はのらりくらりと躱していた。

そしてミノタウロスはまた出現した。




男たちは目の前の魔道具に話しかけていた。

「何故 国はこんな状況に陥ってもマリリンを『救国の聖女』に指名しないのだ!」

「まったくだ! こんなにも餌を撒いてやっているのに食い付かないとは、思った以上に王太子は慎重で頭が切れるな」

「天竜の愛し子は本物か?」

「さてな…王太子が作ったイメージだろう、何かを仕掛ける為…刻印なしに何かさせるつもりで作った人形、全容は掴めていないが意識操作をして何かをやるつもりなのは間違い無いだろう」

「だが街では、我らが作った救国の聖女の話題で持ちきりだ、ふっふっふ」

「ああ、その通りだ。もしかすると我々の救国の聖女が国が作った天竜の愛し子の邪魔を出来たのかもしれんな」


「だが 気になるのは、天竜の愛し子が刻印なしってことだ。何故刻印なしを使う必要があった?」

「それはいまだに謎だな。刻印なしを天竜の愛し子なんて言って未だに目立つ行動をしない。あの王太子は何を考えているんだ」

「救国の聖女の出現で予定が狂っているのだろう。 このまま王太子がこちらの思惑に乗って来なければどうする?」

「………もう一度大勢の人がいるところで化け物を使うか…?」

「そうだな。分かりやすい餌を撒いてやろう。王太子が乗ってこないなら馬鹿な民衆を乗せるまでだ」


3人の男たちは用心深く、直接の接触は避けていた。

連絡はこの魔道具を通して決められた日時で行う。


3人はこの魔法国の根幹を憎む者たちだ。

3人は能力がありながら魔法の指輪『メルガロ』に選ばれなかった者たちだ。

『メルガロ』に選ばれなかった者は、自分たち自身で生きる道を模索しなければならない。

能力のあった3人はそれぞれ選んだ道で成功を収めることが出来た。

必死に必死に頑張った、頑張るしかなかった。番である伴侶や子供たちに苦労させる訳には行かなかったから、だが、嫡男以外(メルガロに選ばれない者)は所詮どこも同じだ。

大貴族であれば、多くの土地を所有し、婚姻と共にその一部を譲り受け領主として生きていく。だが受け渡す物が無い家は家と離れて生きていくしか無い。


昼夜問わず働き、妻子を飢えさせず、貴族としての対面を保ちつつ、身を削りやっと蓄えに回すことができるようになった頃、実家の兄から呼び出された。

向かった実家は兄が『メルガロ』に選ばれ継ぎ当主として手腕を振るっていた。

これまでは順調な暮らしぶりをアピールしていたが、執務室で兄に告げられたのは…

「お前の事業は順調だと聞いている。出来れば援助して欲しい」

渡されたこれまでの帳簿は赤字に次ぐ赤字、『順調』と言っていたのは全部嘘っぱち、見栄でしかなかった。


私が食うに困った時、散々説教したくせに!! あるのは借金ばかり、この程度の能力しかないくせに何故兄が『メルガロ』選ばれたのだ!!


その日からメルガロの選別や刻印なし、選ばれなかった者たちの能力について調べるようになった。『メルガロ』に選ばれながらも家を傾け、その後家を継いだ者、家を継ぐには若く能力がないにも拘らず家を継いだ者、様々な事例があった。

決して『メルガロ』が選んだ者が最善ではなかった、自分たちはこのくだらないシステムの犠牲になったと思った。

調べる中で知り合った者たち3人で『アプセ』を作り、メルガロの犠牲になった者、刻印なしでも能力の高い者たちを集め、このトルスタード魔法国の根幹である王家を潰し、『メルガロ』による家の継承を廃止させようと奔走した。

小さな綻びから巨大な敵を倒す為に、長い長い時をかけてきた。


それぞれが金を稼いで成功した。

窮地にある同胞を助け、少しずつ役人に同胞を潜り込ませ、少しずつ味方を増やし虎視眈々と機会を狙ってきた。焦る気持ちはあるものの、イマイチ決定打が欠けていた。

そんな時運命を変える出逢いがあったのだ!


腕の良い魔道具職人を取り込めた。

これにより策が広がり、自分たちの身の安全も変わった。

まずは通信機。明確な関係性のない者たちがいつものメンバーでいつもの場所で会えば目を付けられやすい。魔道具の通信機はこれまでもあったが、複数人同時に話すことを可能にした。今までだと2つで1対の為、3人で話す場合、話す相手の数分の魔道具と通信機が必要になった。それが登録した人間と同時に魔力を流すと繋がるようになった。

それから、当初の予定とは変更したが、簡単な生活魔法を1つの魔道具で使えるようにした。ただ動力が魔石なので、魔力が切れれば補充する必要がある。しかし刻印なしの低魔力で魔法を使えない者たちにとっては画期的だった。

何が画期的だったかと言えば…、魔法を使うには動力が必要である、魔法使いであれば自身の魔力を消費し行使する。まだ刻印なしはそれが難しい、つまり魔石や魔鉱石でそれを補わなければならない。魔石や魔鉱石は高価なので必要に迫られた時にしか使わない。それにこれまでは1つの機能に1つの魔道具しか使えない。例えばライターの様な火の出る魔道具、空気中の水をコップに集める魔道具、と言った状態だ。お金がある者は沢山の魔道具を買い集められるが、平民には手の届かぬ存在だ。生活は大変だが、魔獣が出ない分、人間同士が協力し合いながら生活していた。


それが1つの魔道具で火、水、風の初歩的な魔法が使える様になったのだ!! 


未だに開発の途中、まずは魔道具が大きすぎること。何故ならば、術式の組み込みに大きな素材が必要だから、それに3つの魔法を使うには3つの魔石や魔鉱石が必要だから。

まだまだ改良の余地があった。だが、間違いなく革命の一歩であった!


3人は必死に働き、魔道具の開発を援助し、良質の魔鉱石によってとうとう、小型化が実現したのだ!! 良質の魔鉱石は高価すぎて一般向けには商売にならないが、それは今後の課題だ。兎に角、また一歩前線した。

そうやって一歩ずつ進んでここまで来た。


いよいよ王家に楔を打つ時期が来たのだ。

そこで具体的な計画を立て、駒を探し始めた。


そこで目をつけたのがビーバー男爵家だった。

5歳の時の魔力検査で魔力が少なく、刻印は現れる可能性が限りなく低く、見目がよく、家は金に困り、金と権力に執着し、非常識な人間。

これも長い時間をかけて飼い慣らしてきた、そしてマリリンは理想的な扱い易い娘に成長した。


物事にはタイミングと言うものがある。

何もかもがこの時を待っていたかの様に出揃っていく。

いよいよ計画を実行に動かす時が来たのだ。多少の軌道修正を加えながら漸くここまで来た。自分たちには得ることができなかった権利を、次代に望みを託しながら希望を持って強い気持ちで生きてきた。

長らく内に溜めていた鬱憤を晴らす時、ミノタウロスを使って実行に移した。



計画ではマリリンを金色の聖女と持て囃し重用し、国が信用し人気絶頂の時に暴露して内から崩すはずだった。だが、王太子は垂らした餌に食いつかない。本来は生誕祭でミノタウロスが出現しマリリンが倒したことで、とっくに王家と同じ権力を握るはずだった。


『民衆を煽り、役人や重臣を動かす。その結果、国の中枢にマリリンを食い込ませ、結果を出させ…なくてはならない存在と認識させ…そして、中から滅ぼし民心を煽って、真実を明らかにして、国そのものの在り方に疑問を投げかけ! ……。

クソっ!!』


しかしここへ来て計画が滞っていた。





「ラディージャ、ディーンシュト」

ジョシュア王太子殿下とレイアースが書庫まで迎えに来た。


「殿下、義父上」

ラディージャはまったく気づかない。


「お前たちがここから出て来ないと連絡が来た。寝食を忘れて入り浸っているって?」

「はい、あの通りです」

「困ったものだ。集中すると他のことを忘れるのは治らないな」

「はい、偶に口に食べ物を入れて食べさせるのですが、噛むのも忘れてしまうので、無理やりこちらを向かせ食べさせるのですが…なかなか、あっ!」

「んーーーー!」

両手を上げて伸びをする。


「ラディ? 区切りがついたの?」

「ディー、うん、たぶん。あっ、殿下にお父様! すみません気づきませんでした」

「それは構わないが、食べず眠らずでは体を壊してしまうよ?」

「ラディージャ、無理してはいけないといつも言っているのに、困った子だ」

「ごめんなさいお父様」

「少し休憩も必要だ。そうだ、一緒に食事でもしよう」

「「はい、殿下」」



食事を終えると全員を下がらせて結界を張った。

「何か気になることでもあって夢中になっていたのかい?」

「……いえ。あそこで保管されていたこの国の史記やそれ以外も目を通しましたが、竜魔法について記載されているものはありませんでした」

「やはり そうか…。私も過去に読んだ記憶はなかったのだが、何かヒントになればと思ったのだが、何も掴めなかったか…」

「…でも読んでいて思ったのですが、意図的に書かれていない、隠したような印象を受けました」

「隠した? 何のために?」

「そうですね、分かりません。…ただの印象でしかありませんが、歴史の中で他国は魔獣との戦いに幾度となく疲弊しこの国を狙っています。例えば東に位置する亡国トバローフ国、この国は300年前に攻めてきたとあります、そして戦後 国境壁は高くなっています」

「ああ、そうだな。国境から多くの兵が雪崩込み多くの血が流れたと教わったな…」

「はい。その記述にレガール734年に国境を越え、戦争の終結はレガール738年とあります」

(レガールとは統一の暦)

「ああ、そうだな、その通りだ」

皆頷く。


「ですが、別の国境警備を編纂されたものでは、トバローフ国との間の国境壁を高くし完成したのがレガール735年とあります」

「何!? それは本当か!!」

「はい」

「あり得ない、早すぎる!」

「戦争中に壁を高くするなど無理だ! 確か、80kmくらいあったよな?」


「確かにおかしいな…」

「魔法を使ったとしても、完成が早すぎます。この年代には他にも不思議な記述があります。

現在キリバース地方は国内屈指の麦の生産地となっています。ですが、それ以前では岩肌の出た不毛の地と記載されていました。痩せた土地で人も住み着かない、植物は1日の寒暖差が激しく育たない…。ですが、レガール737年には戦争で傷ついた土地の筈が作物の出荷が始まっています」

「それは本当か!?」

「はい。他の事柄は時系列ごとに記載されていることが多いのですが、この時期は敢えて別々に記載され結びつかない様にしている気がしました」

「確かに敢えてでなければ余程の無能だ。でも何故それを王家の者も知らないのだ?」


「想像でしかありませんが、もしかしたら竜魔法とは強大な力なのではないでしょうか?」

「強大だと何故? はっ! そうか、そう言うことか…」


王となった者が賢王とは限らない。

その強大な力が愚王又は愚者の手に渡れば、恐らく国を滅ぼすのも簡単に出来てしまう。だから書物には明言を避けているのではないかと言うことだ。竜魔法を手にした者が現れた際に気づけるようにヒントをバラバラに散りばめている…。


「先人の意図は分かったが、これではラディージャの助けにはならなかったな、すまない」

「いいえ。でも思っていたより規模の大きい魔法が使えるようなので、私には機会がないかもしれません」


だが気になる事もあった。

このトルスタード魔法国に災禍が見舞われる時に、竜魔法が使える者が現れる。今、ラディージャに黒刻印つまり竜魔法が使えるのには何か意味があるのでは?と考えずにはいられない。

過去の竜魔法の魔法使いの時は戦争を終結させたり、広大な荒地を豊かな大地にしたり…、それらから考えると、途轍もないことが起きるのでは?と不安になる。何か起きるかもしれない。

文献から具体的な魔法操作も魔法の能力も書かれてはいない。だけど、読んでいくうちに何かが頭の中に流れてくる。恐らく竜魔法を使える者だけに伝わる様に仕掛けられた魔法。

今はその時に備えて力を使えるようにしなければならない、そう固く決意した。


食事を終えて部屋に戻り、休憩することとなった。



「ラディ? 手を出して」

「ディー」

「凄く緊張しているみたい、僕には言えない事?」

「ううん。ディーに隠したいことなんてないわ。少し気が重くなって緊張しているだけ」


ラディージャは気づいたことをディーンシュトに聞かせた。


「なるほど…、ラディの考えでは竜魔法が必要な事態に陥る時に天竜様が竜魔法使いを出現させているということなんだね。…、そしてラディは自分の役割が気になるってことだよね」

「そうなの。私が必要な時に必要な力を使えるか、失敗しないか不安なの」

「大丈夫、大丈夫だよ。僕がいる、1人にはしない。それに今のラディには殿下やレイアース様もいる、だから相談すればいいんだ、1人で背負う必要はないんだよ。でもそれでは落ち着かないでしょ? だったら訓練に付き合うよ、ね?ラディ」

「うん、ディー有難う。…大好き」


ディーンシュトとラディージャはこっそり別邸に転移して魔法訓練を行った。

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