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45、生誕祭−5

3mくらいある大男が突然現れた。

頭は牛、筋骨隆々な肉体には何も身に纏っていない。口からは涎が垂れ、目は赤く血走りギョロッとしている、唸り声をあげ、猫背の姿は今にもターゲットに襲いかかりそうだった。

ミノタウロス!?


「う゛う゛ぅぅぅ」

唸り声が悍ましい姿とあいまり恐怖心を煽る。


会場は阿鼻叫喚の様相で悲鳴が響き渡る。

「た、助けて…」

皆が息を呑んでいる中、つい言葉が漏れた。

ギョロリと眼球が動き声の主の方へ歩いてくる。

ドシン ドシン ドシン ドシン


大きな手が振り下ろされる。

兵士がターゲットと思われる人物を救い出し、魔法騎士が間に入り攻撃を始めた。


「カルロスチームは客を誘導せよ! カーティスチームは攻撃せよ!」

「バズーカ砲用意! 発射!!」


「な、何!?」

バズーカ砲はミノタウロスの直前で何かに弾かれた!!

ミノタウロスはどうやら結界魔法を使い、自分を守っているようだった。

「馬鹿な!!」

様子を見るにミノタウロスは何故攻撃が届かなかったかは分かっていなかった。首を傾げると、もう一度手を振り上げ魔法兵士たちを薙ぎ倒した。

火魔法も風魔法も水魔法もミノタウロスを止めることは出来なかった。当然、剣で立ち向かっても何も届かない。


今日は他国からも要人を招いているのだ。

魔術師を投入し、攻撃層を厚くしたが多少は効いても決定打にはならなかった。


「天竜様の愛し子様をお守りしろ!!」

どこからともなく響く声。

ラディージャの護衛たちがグルリと囲む。

そして安全なところに避難させようと移動し始めると


「金色の聖女様様―! お助けください!! どうか、我々をお助けください!!」


1人が叫ぶと次々に声を上げて、マリリンに助けを求めた。

その中には先程までマリリンを蔑んでいた者たちもいる。


「金色の聖女様! わわわ我々は聖女様を信じる敬虔な民です! どうか、どうか助けてください!! ………何もできないんだから役に立てよ!!」


『はぁー? 何で私がそんなことしなくちゃいけないのよ!! あんな化け物…どうしろって言うのよ!!』


「わ、私も逃げたいんですけど、だって私は生活魔法程度しか使えないし…、筋肉だって全然ないし、あんな化け物…どうにもできないし…」


みんな何かが出来るとは思っていなかっただけど、誰かに責任を押し付けて何とかしてもらいたかった。


「金色の聖女様! 祈ってください!私たちのために祈ってください!!」

「そうだ、きっと金色の聖女様の祈りが効くかもしれない!! 祈ってください!」

どこからともなく声がかかる。


『はぁー!! 何言ってんのよ!! 私の祈り!? 効果なんてある訳ないじゃない!!』


だけど押し出されてしまった。

『何でよー! か弱い女性に何させようって言うのよ! あーもう逃げたい!!

誰か、私を助けてよ!!』


両手を組んでヤケクソで叫んでみた。

「あー、消えろ! 化け物 消えろー!! どっかに行っちゃえー!!」


ピカーーーーー!!


会場で暴れていたミノタウロスが「グァァァァァァァ!!」雄叫びをあげながら消えてしまった。

誰も声を発することが出来なかった。


本当に化け物はいなくなった?

脅威は消え去った?


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

「「「「「キャーーーーーーーー!!!」」」」」


歓声が轟音のように轟く。

「金色の聖女様! 有難う御座います!!」

「金色の聖女様! ああ、一生あなた様に忠誠を誓います!!」


口々に感謝を述べる。

ここ最近マリリンを馬鹿にした意見が多かったのに一転して、マリリン・ビーバーを金色の聖女、救国の聖女と呼び始めた。


マリリンも内心『あんなに馬鹿にしていたくせに、調子いいんだよ!!』そう思ったが、失われた信用と羨望の眼差しが戻ってきたことで気をよくしていた。

結果的に会場にいた者たちを救ったのは、騎士でも魔術師でもなく、ましてや天竜様の愛し子でもなく金色の聖女マリリンであった。蔑みの目を向けてきた者たちも再びマリリンを持て囃すようになった。


他国の要人にも被害はなく、とんだ生誕祭となったが、無事に生誕祭を終えることが出来た。

マリリン・ビーバーの祈りがミノタウロスを退け、トルスタード魔法国は救われたと瞬く間に各国に広がっていった。

これを機にマリリンの生活はまた多くの信者により支えられることになった。




ジョシュア王太子殿下はウェストン魔術師長やバークレーそれにマクラーレン魔法騎士たちとミノタウロスについて協議を重ねていた。


「おかしい、あり得ない」

「はい」

「ええ」


最大の謎はこのトルスタード魔法国は結界があり、魔獣の侵入を防いでいる。どうして魔獣が現れた? それは何の予兆もなく突然、そう降って湧いたようにあの場に現れたのだ。

どこから入ってきた? どこで生まれた。 そして何故消えた? 金色の聖女の祈り? 馬鹿なあの場で魔力の流れなど何も感じなかった。いや、天竜様の御力と言われればそれも我々には察知できない。あの時一体何が起きたのか…?


「レイ、どう思う?」

「シンプルに考えれば…、何者かがあのミノタウロスを召喚したか、何らかの方法で作り出したかだと考える」

「同感だ。会場に出没するまで誰にも気づかれないなどあり得ない。つまり何者かがあのミノタウロスあの場に呼び出したのだ」

「そうですね、その目的は…マリリン・ビーバーの、…何だ?」

「ああ、それがイマイチ分からないが、結果としてみれば『金色の聖女』で一儲けしようと考えていた者たちが、『天竜様の愛し子』の出現で思うようにならなかった、そこで策を弄した…」

「ああ。サディアス公爵家は…どうしてる?」

「サディアス公爵もマクロン卿もマリリンと接触していない。と言うより、互いに距離をとっていると言った方が正しいな」

「はい、ポルチーヌ侯爵家の時にマリリンと距離を取ったことを根に持っているみたいですよ。今はマリリンに金を出す人間が多いので無視しているようですよ、クス」


「はぁ、裏で動かしている人間は? 例のテングローブ卿か?何か掴めたか?」

「やはり怪しいな。表面的には善人だが怪しい金の流れがある。それに…、隠しているが、魔道具の製作にもかなり出資している。表に出さない理由が分からない」

「確かに。平民にとっては便利な魔道具が増えれば生活が豊かになる、皆が幸せになると言うのに隠す理由がないな」


「そこでテングローブ卿のことも張ってみた。数人会っている人物がいるが、これといって怪しい人物はいない。頻繁の会っている、怪しい動きをする、そう言った者もいない。

接触した人物の中でマリリンと接触した者もいない」

「変わらず見張ってくれ。その人物たちも情報共有しよう」


「……ミノタウロスはもう出ないと思うか?」

「いや、あの時マリリンが祈りで倒したなんてただのパフォーマンスだろ」

「ああ、そう思う。次にどこに出すかが心配だな」


「ラディージャは?」

「本人は気にしていないが、『お飾りの天竜様の愛し子』と揶揄する者もいる。護衛は常につけている」

「目的はなんなのか…。ラディージャが巻き込まれなければいいのだが」

「兎に角、警戒を怠るな!」

「「「はい!」」」




ラディージャはジョシュア王太子殿下の別邸にディーンシュトと新婚生活を満喫していた。

つまりディーンシュトも別邸に引っ越して一緒に住んでいる。

外は何かと騒がしいので宮殿の中で過ごしていた。


「ラディ 庭でも散歩しようか?」

「うん」


ジョシュア王太子殿下の庭はテーマがありどこも美しく手入れがされている。

執務に疲れたジョシュア王太子が散歩出来るように整えられている。花には咲く時季があるため、花木などは時期をずらして咲くように魔法で調整され手入れされている。花壇などは、咲き終われば次のものが植えられる。ただ真冬はどうしても花が減ってしまう。だから温室で育てられ、頃合いを見て移される。

ところが、ラディージャがここに住むようになってから、常に全ての花が咲き誇っている。枯れないのだ、永遠なる常春。1番の見頃を時間を止めて見せてくれているようだった。

ラディージャの住むエリアは全ての植物が瑞々しくイキイキとしている。だから見る者の心を和ませてくれている。


ラディージャがディーンシュトと恋人繋ぎをして楽しそうにしていると花や葉が揺れて煌めく。

世間の噂がどうであろうと、ここにいる者たちは確かにラディージャが『天竜様の愛し子』だと実感している。それに屋敷で働く者たちも仕事で疲労を感じていてもラディージャの住むエリアに入ると自然と回復してしまう。回復魔法も回復ポーションも使っていないのにも拘らずだ。だから今では皆『天竜様の愛し子』に仕えることを喜びここで働いている。


ラディージャの護衛に一番早く付いたラウル・パスカルも、最初こそ『何故私が刻印なしを護衛しなければならないのだ』そう思っていたのだが、今はその必要性も人柄も能力も認めている。

以前 ポルチーヌ侯爵にラディージャが怪我を負わされたあの時、自分に失望した。


自分の警護対象から目を離し、事もあろうか一歩間違えれば死なせるような状況に陥らせてしまった。いや、天竜様がお助けにならなければ死んでいた、弁解の出来ない失態だった。


ラディージャが天竜様の愛し子であったから助かったのだ。

あの後、パスカルは当然辞職し、死んで詫びようとした。

『全ては自分のせいだ』

密かに戻ったラディージャは回復していた。だがそれで許されるものでもない。正式に謝罪し職を辞する旨を伝えたが、それは却下された。何故ならば、ラディージャのことは限られた者しか知らないし、今後も知らせるつもりがなかったからだ。戻ったことも暫くは隠すことになった、よって護れるのはパスカルしかいなかった。


「今度こそ死ぬ気で護れ!」

「はい!!」


こうしてラディージャは忠実なる僕を手に入れたのだった。


今もラディージャとディーンシュトの邪魔をしないように周囲を警戒し警護する。今は護衛は交代要員も併せて10人体制になっている。その指揮はパスカルが行なっている。ラディージャとディーンシュトを護るために最善を尽くしている。



ラディージャとディーンシュトは仲睦まじく穏やかに過ごす。

それこそが天竜様・天竜樹の喜ぶところだから、全力で周りが護る。だから、今 王宮の外で何が起きているか知らなかった。

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