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42、生誕祭−2

ラディージャはディーンシュトをパートナーにサーシャと一緒に謁見室に入った。

国内の貴族や実力者それに各国の重鎮や賓客が勢揃いだ。

他国がこの国に入るときは、許可証がないと結界があるため入国出来ない、その審査も厳しい。それが国王の生誕祭と言う事で多くの者が集まってきている、商談の場としても重要人物に接触し易い、それぞれが使命を持ってここにいる。そして他国は魔獣による脅威に怯えた生活を送っている、天竜様の加護のあるこのトルスタード魔法国は取り入りたい国なのだ。各国競うように豪華な贈り物を携え列を成して国王陛下へ献上している。


ラディージャは『天竜様の愛し子』とジョシュア王太子殿下が発表したので、定型通りの挨拶が済むと謁見室の隣に通された、これは王族並みの対応だ。エスコートは勿論ディーンシュト。

ラディージャの顔はベールで隠され、更に扇と護衛で隠されている。

2人が隣の部屋に向かうと、タイミングを見てジョシュア王太子殿下は、壇上より降りて隣室へ向かった。ラディージャはベールを外しディーンシュトと手を繋ぎ静かに待っていた。

「これは2人とも美しい!穢れなき朝露から生まれた天使のようだね、お揃いの衣装が双子星のように可愛らしくとても眩しいよ。ふふ、忙しいところすまなかったねラディージャ、ディーンシュト」

「「お招き頂きまして感謝申し上げます」」



サーシャはレイアースと落ち合い、ジョシュア応対す殿下と共にやってきた。

ディーンシュトたちは、ジョシュア王太子殿下ご夫妻とと和やかに話をしていると、国王陛下と王妃陛下もお見えになった。

ジョシュア王太子殿下は、ラディージャとディーンシュトを両陛下にも紹介くださった。

両陛下も優しく迎えて歓迎してくださり、お言葉までかけて下さった。

誕生日を祝し、心ばかりのお祝いの品を贈り、ラディージャ特製の疲労回復ドリンクをプレゼントした。これはジョシュア王太子殿下からその効果を聞いた陛下が欲しがったからだ。


「若い2人には苦しいことも多いだろうが、王家として力になる事を約束しよう」

「難しいことは殿方に任せて、わたくしとは楽しくお茶でも致しましょうね」

「畏れ多いことです。過分な温かいご配慮に感謝申し上げます」

少しお話しすると陛下たちは謁見室にお戻りになった。ディーンシュトたちは時間になるまでここで待機することとなった。

それは若い2人が陰謀や謀略に巻き込まれるのを恐れてのことだった。



マリリンはその頃、自分の屋敷で迎えの馬車が到着するのを今か今かと待ち構えていたが一向に迎えの馬車が到着する様子はなかった。

「もう、一体何をしているのかしら!!」

痺れを切らしてサディアス公爵家に使いを出すと、既に出発していると言うので、もう少し待ってみた。だが、誰も迎えには来ない。このまま待って迎えがなければ会場に向かうことができない…そこで仕方なく父親の馬車に乗って王宮へ向かった。

ビーバー男爵家の馬車はサディアス公爵家のものと違って乗り心地が悪い。ガタンゴトンと揺れる度にお尻も背中もぶつけた頭も痛くて敵わない。

「あん、もう! もっと良い馬車にしてよ! 金色の聖女なのよ!」

ビーバー男爵夫妻も娘マリリンが何かとサディアス公爵家を引き合いに出すので面白くない。

「はっ、金色の聖女様はサディアス公爵夫人に置いてけぼりなんだろう? ざまーねーなー。うちに馬車があるだけマシってもんだ。嫌なら自分が稼いで馬車買ってこい!」

母親も散々 カルディア公爵夫人とセンスが違う、貧乏臭い、ダサい、見っともない、化粧も下手くそと言われて気分を害していたので、今日はマリリンを持ち上げる気にはなれなかった。


ビーバー男爵家が到着すると、馬車はごった返しで

「大変混雑しているので、ここからは歩いてください」

などと言われる始末。

「嘘でしょう!? カルディア公爵夫人と一緒の時は、エントランスまで馬車をつけて貰えるのに冗談でしょう!!」

そう訴える娘、だけど下級貴族にとっては当たり前の光景だ。男爵家なんて言えば1番遠い馬車停めから歩かされるなんていつもの事でそれが当然だった、だからマリリンが憤る意味が分からない。


「ねえ! 私は金色の聖女なの! うちの馬車はエントランスまで行っても良いわよね!!」

「申し訳ありませんが、それは難しくございます。特にこの時間ですとここから抜け出すにもかなりの時間がかかりますので、ご容赦くださいませ」

「ここから歩くなんて…」

遠くに見えるホール、30分はかかるだろう。

「嫌よ! 嫌! この格好で30分も歩けって言うの!? 馬車を出して! 出してよ!!」


「マリリン、いい加減にしなさい! 男爵家ではこれが当たり前なの、行かないのならお前1人で馬車の中で待っていなさい!!」

ビーバー男爵夫人がキレて叱る。

「カルディア公爵夫人ならもっと上手く言って馬車を動かしてくれるのに…お母様は所詮男爵夫人なのね!!」

「な! なんて生意気な子なの!!」

「お前たちやめなさい、人前でみっともない! いいから行くぞ! 自分の足で歩かにゃ目的地には着かないんだからな!」

「兎に角自分の足で歩きたくないならここに残りなさい! もう嫌になっちゃう!」

「嫌よ…こんなの恥ずかしい! なんでこんな目に…」


こんな会話も下級貴族には聴かれていた。

『自分で金色の聖女という割に何の実績もないわね…』

『こんな場所で騒ぐなんてはしたない』

『何でもカルディア公爵夫人から頂いたものを売り捌いて買い物三昧して見放されたらしいわよ』

『光魔法が使えない聖女とはこれ如何に? 笑いものだ』

『天竜様の愛し子を嘘つきの泥棒猫扱いだろう? 天竜様の愛し子を貶めた奴らの家が次々傾く中で、金色の聖女様はどうなるんだか?』

あまり良い評判ではなかった。それを知らないのはマリリン自身だけだった。


その雰囲気のまま、男爵位の塊は会場へ着いた。

いつもと全然雰囲気が違う。それはそうだ、サディアス公爵家は公爵家なので1番最後に登場、つまり会場には沢山の人々が既に集まっており、サディアス公爵家が登場すると一斉に注目する。対して男爵家であるビーバー家が到着すると、会場には人がポツポツしかいない。まだ集まり始めたばかりだからだ。

キョロキョロ見回しても大した顔ぶれはない。普段は声が掛けられない下級層がわしゃわしゃと無遠慮に近寄ってくる。あたかも自分と同類というかのように…。

『あー、ウザい! なんなのよ、これ!! カルディア様はどこに行ったの!?』


「金色の聖女様、サディアス公爵家に紹介してくださいよ」

「金色の聖女様、光魔法はどこまで治療が出来るんですか?」

「金色の聖女様、1回の治療で幾ら貰えるんです? いや、幾ら支払わなきゃいけないんです?」

「金色の聖女様、私のこの皮膚のたるみも治ります?」


『なんなの!こんなくだらない人間しか来ないなんて!!』

まあ、当然だ。だってまだ名前ばかりの貴族、男爵家しか入場していないのだから。


マリリンの探しているサディアス公爵家は、とっくに王宮に入り外国からの来賓のお世話をしていたのだが、知る由もない。


笑顔で「うふふ、マリリン ちょっと分からないぁい」そう言って躱していた。

だがそれを『可愛らしい』ではなく、『教養がない』と内心馬鹿にしていた。ただ、男爵家からの出世となると何としても肖りたいと、親近感を与えつつ近づいてくる。


『あーあ、いったいいつになったらカルディア夫人は来るのよ!』



ラディージャたちは、護衛が辺りの様子を窺い、人が少なくなったタイミングで部屋を出るように促した。

パーティーは午後5時からスタートする、今はまだ2時なので一旦別邸に戻る。



因みにマリリンたちが何故もう会場に来ているかと言えば、身分が低い者から会場入りするからだ。馬車なども停めるのに時間がかかる、その上 下級貴族たちの馬車を停める場所は会場から遠く離れている。来る時に降りた馬車停も主人たちを降ろすと御者は更に遠くまで別の場所まで馬車を停めに行く。早めに来ないとその遠い馬車停めから歩かなければならず、そうなると小一時間歩くことになる、それに良い場所に停めないと帰りも物凄く待たされるのだ。それが嫌で下級貴族は早め来るのだ。

時間で区切られているので、それまでに会場入りしなければならない。


「ディー様、ふふ 旦那様 うふふ」

「どうしたの? 愛しい奥様?」

「ディーが旦那様として側にいてくれるのが嬉しくて。…ごめんね、魔法刻印のこと内緒にしてるから夫婦ってことも言えなくて」

「うん、いいよ。重要なのはラディが僕の奥様で番って事。それに家族は知っているし、大切な人たちは祝ってくれてる。だから問題ないよ、でも内容と会話が合っていないよ?」

「えへへ、だって…正式な奥さんとしては初めて公式の場に出るから…ついニヤけちゃって」

「うん、そうだね。そうだ、時間もあるし天竜樹様のところでも行こうか?」

「賛成!」

手を繋いで天竜樹の元へ向かった。



今回の生誕祭は国内外の貴族や、商売などの成功者、聖職者など様々な人が集まっている。

舞踏会の会場とは別に、大ホールでもテーブルや椅子がセッティングされている。イメージ披露宴みたいな感じだ。軽食やデザート、ドリンクなども用意されている。

ここではゆっくり商談も出来る、謁見が終わるとこちらで時間まで目的の人物に接触を図り実りある話をする。謁見が済んだ者たちは舞踏会が始まるまでそちらへ移動し人脈作りをしている。


カルディア・サディアス公爵夫人は『前聖女』として他国からも人気であった。

カルディアが他国に行く事はできない為、この地までやって来る有権者は多い。金を積んで大切な人間の治療を頼みに来る者が後を絶たない。

カルディア夫人のテーブルは隣国の大臣の接待中だというのに、挨拶を求める者で行列ができている。

他にも商売で成功しているオルトス・デストラーバにも長蛇の列が出来ている。

オルトスはデストラーバ侯爵家の三男で『スピーナ』と言う会社を立ち上げ、国内だけに留まらず他国でも手広く商売をしていて大成功した大商人だ。少しでも儲け話はないかと長蛇の列。


彼方にも商売で成功しているカフタス・テングローブ卿が列を成している。

こちらは慈善事業や良心的な利子で商売をする者たちの手助けをしてくれる高利貸し、商売の動向や情報を求めて人人人。


其方では、コルトナー・バーグに列が出来ている。

『バーグ薬店』は国内最大手、ギルドにも薬を卸しているし、店舗販売もしている。

小さな店では中級ポーションは僅かにしか置いていないが、バーグ薬店では中級ポーションも置いてある。上級ポーションもお金さえ出せば買えるとあって、国内外の金持ちが並ぶ。


錚々たる顔ぶれに足がすくむ。ここで失敗は許されない。

まるで就職セミナーのような様相だ。

このホールで大きな金が動く話がそこここでされている。

ここには許された者だけしか入れないのだ。ここには巨万の富を得る情報が飛び交っている。この場にいられるだけで今回の生誕祭に来た意味があると言うものだ。



「ところで『天竜様の愛し子』とは、どんな方がご存知ですか?」


この話題が必ずのぼる。

「魔法刻印なし」

「金色の聖女の番を奪った女」

「王太子殿下のお気に入り」

「カラッティ侯爵家からシュテルン伯爵家に養女に入った」

「王家が天竜様の愛し子を囲い込む為に…」

「いや、カラッティ侯爵家の失態を娘を売ることで帳消しにした」

「果たして本当に天竜様の愛し子なんているのか? 王家の策謀では?」


だがどれも噂の域を出ない。

分かっていることは、金色の聖女と違い、清楚で教養があり努力家である美しい女性であるという事、あまり人前には出ないという事、あのロペス公爵家とシュテルン伯爵が後ろ盾だと言う事、王太子殿下が寵愛されていると言う事。

ここら辺が各人の共通認識だった。


たくさん詰め込まれた予定は分刻みで進んでいく、生誕祭の祝賀行事が粛々と行われ、夕方からは舞踏会が始まり、会場には音楽が鳴り響き渡り、人で溢れかえる。



マリリンは自分の周りに寄ってくる人間が今までと違うことに気づいた。

サディアス公爵家を筆頭にいつもはポルチーヌ侯爵にマクロン卿など大金持ちが周りにいて、みんなが羨望の眼差しを向けられて来た。だからその中にいるマリリンも一流だと思われていた、何だったら『金色の聖女』である自分がこのグループの顔になった気がしていた。

ところが、マリリンの周りにサディアス公爵家やポルチーヌ侯爵やマクロン卿がいなくなったら、誰もマリリンに見向きもしない。


『こんな筈ない、カルディア夫人はどこ? ポルチーヌ公爵は? マクロン卿はどこなの!?』


公爵家までコールされた、懸命にサディアス公爵家を探した。

やっとその集団を見つけたが、護衛に囲まれて通してもらえなかった。

サディアス公爵と夫人、それにご子息は他国の要人と一緒にいて気付いてもくれない。


「カルディア様―! 私です、マリリンです! 通してくれないんです! カルディア様―!! この人たちに言ってくださーい!!」

声を張り上げて気づいてもらおうとする。


カルディア夫人も気づいてはいる、だが気付きたくないのだ。

マリリンと距離を置いたことで冷静になると、貴族としての教養もない、聖女の素養も実力もない。その上、恩を仇で返すような厚顔無恥さ。マリリンが泥棒猫と称した天竜様の愛し子ラディージャ・シュテルンは、お茶会で会った時も…冷静になれば、マリリンより心象は良かった、立ち振る舞いも魔法刻印なしではあるけど教養を感じられた。なんと言ってもカラッティ侯爵家の者として常識もあり、努力もしていた。学院での成績も取り寄せるとマリリンとは比べようもない程優秀であった。マリリンの現実に、信じていた物は幻想だと知った。

金色の刻印に踊らされていた滑稽な自分に気づいてしまった。

自分の手で『金色の聖女』を作り上げる事に酔っていた、本来実力主義だった筈がいつの間にか、光魔法を使うことが出来ないマリリンに自分の失態を挽回しようと焦り躍起になってしまっていた。

今回の事で、マリリンと離れたのは冷静な自分を取り戻すのにちょうど良い機会だと思った。それに自分があげた物をあちこちで売って別の物を購入する、その無神経さがどうしても許せないのだ。今まで注いできた愛情を踏み躙られた気がして許す気にはなれなかった。


ポルチーヌ侯爵の事も天竜様の愛し子の事もある、そこで『暫くマリリンとは距離をおく事にします』そう宣言したのだ。それによりサディアス公爵家におもねる者たちは右へ倣えと、今までのことは無かったように上手にマリリンとの接触を躱すようになったのだ。


他にもサディアス公爵家の金魚の糞を探して接触を図ろうとするも誰にも相手にされないマリリンは最高潮に機嫌が悪くなった。


『なんなのよ! なんで誰も知らんぷりするのよ!! もうームカつくー!!』

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